1.ヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2ブロッカー)による血液障害について
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 成分名 | 該当商品名 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|シメチジン |タガメット(藤沢薬品、 |
| | スミスクライン・ビーチャム製薬)|
|塩酸ラニチジン |ザンタック(日本グラクソ) |
|ファモチジン |ガスター(山之内製薬) |
|塩酸ロキサチジンアセタート |アルタット(帝国臓器製薬) |
|ニザチジン |アシノン(ゼリア新薬) |
+−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|薬効分類 |H2受容体拮抗剤 |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果 |(内服の場合) |
| |胃潰瘍、十二指腸潰瘍 |
| |吻合部潰瘍、Zollinger‐Ellison症候群、上部消化管出血 |
| |逆流性食道炎 |
| |次の疾患の胃粘膜病変の改善 |
| | 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期 |
| |麻酔前投薬 |
| |*麻酔前投薬については、塩酸ラニチジン、塩酸ロキサチジンアセ|
| | タートのみ |
| |*ニザチジンは、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎のみ |
| |*上部消化管出血については、シメチジン、塩酸ラニチジン、 |
| | ファモチジンのみ |
| |(注射の場合) |
| |上部消化管出血 |
| |侵襲ストレスによる上部消化管出血の抑制 |
| |麻酔前投薬 |
| |Zollinger‐Ellison症候群(ファモチジンのみ) |
| |*ニザチジンは内服のみ |
| |*侵襲ストレスによる消化管出血の抑制については、シメチジン、|
| | 塩酸ラニチジン、ファモチジンのみ |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
ヒスタミンH2受容体拮抗剤は、胃粘膜壁細胞のヒスタミンH2受容体を選択的に拮
抗することにより胃酸分泌を抑制する作用を示す医薬品である。胃潰瘍、十二指腸潰
瘍等の治療に用いられ、我が国では、シメチジン(昭和56年9月)、塩酸ラニチジン
(昭和59年7月)、ファモチジン(昭和60年1月)、塩酸ロキサチジンアセタート(
昭和61年7月)及びニザチジン(平成2年6月)の5成分が承認されている。
ヒスタミンH2受容体拮抗剤の血液障害については、本情報No.58(昭和57年
12月号)でシメチジンによる血液障害を、本情報No.94(平成元年1月号)でフ
ァモチジンによる汎血球減少の情報提供を、本情報No.106(平成3年1月号)
では解説による紹介を行い注意を喚起してきたところであるが、その後も汎血球減少
症等の重篤な血液障害が報告されていることから、再度注意喚起を行うものである。
ヒスタミンH2受容体拮抗剤の投与にあたっては、常に慎重な観察を行い、全身倦
怠、脱力、皮下・粘膜下出血、発熱、咽頭痛等障害を疑わせる症状がみられた場合に
は、直ちに血液検査を実施するとともに異常がみられた場合には投与を中止するなど
適切な処置を行うことが必要である。
報告された症例の一部を紹介する(表1)。
表1−1 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 70歳 |
| 使用理由[合併症] 胃潰瘍[高血圧、肝障害] |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:40mg静注、4日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|吐血にて来院、胃潰瘍の診断にてファモチジンの投与を開始した。 |
|投与開始4日目、汎血球減少が出現したため、午後の投与より中止としたが、「言|
|動不穏」「会話不能」となったため、同日夕方より酸素テントに収容、輸血を行っ|
|た。 |
|中止翌日に「見当識」は回復、中止後3日目に汎血球減少も軽快した。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与 投与 投与 中止後 中止後 中止後|
| 2日前 2日目 4日目 1日目 2日目 3日目|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|赤血球数(X10000) 417 228 173 236 306 337 |
|ヘモグロビン(g/dl) 13.0 7.2 5.5 7.3 9.3 10.1 |
|ヘマトクリット(%) 37.0 20.2 15.4 21.2 26.6 29.4 |
|血小板数(X10000) 13.3 11.4 4.7 4.7 6.0 7.2 |
|白血球数 3400 6900 1700 1800 2600 3000 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、トラネキサム酸、セクレチン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 76歳 |
| 使用理由[合併症] 胃潰瘍[陳旧性心筋梗塞] |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:40mg静注、8日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|低酸素脳症、陳旧性心筋梗塞にて寝たきり状態、腎障害を有する患者。 |
|マーゲンチューブより血性の胃液の流出がみられ、胃潰瘍の診断にてファモチジン|
|の投与を開始した。 |
|投与開始7日目、汎血球減少が出現した。 |
|翌日、更に著明となったため薬剤性を疑いファモチジンの投与を中止した。 |
|その後、副腎皮質ステロイド投与にて、ファモチジン投与中止後6日目に軽快した|
|。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与前日 投与 中止後 中止後 中止後 |
| 7日目 1日目 3日目 6日目 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|赤血球数(X10000) 340 260 255 270 291 |
|ヘモグロビン(g/dl) 10.5 8.0 7.4 8.2 8.8 |
|ヘマトクリット(%) 31.4 23.6 22.6 24.0 26.1 |
|血小板数(X10000) 34.3 2.9 1.0 0.9 4.2 |
|白血球数 8800 4200 3100 2800 3500 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:塩酸リドカイン・エピネフリン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
表1−2 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 58歳 |
| 使用理由[合併症] 胃潰瘍 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:800mg、24日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|他院にて胃潰瘍と診断され、シメチジン等の抗潰瘍剤の投与を開始。 |
|24日後、全身発疹、37.4゜Cの発熱、そう痒があらわれたため投与していた全薬剤|
|を中止。 |
|投与中止翌日、発熱38゜Cとなる。 |
|投与中止4日目、発疹は消失したが口腔内乾燥となり、経口での摂取不良となる。|
|投与中止6日目、経口摂取がほとんど不可能となり味覚も消失した。また、全身の|
|倦怠感が著明にあらわれた。 |
|投与中止8日目、38.2゜Cの発熱、白血球数が500/mm3と低下し、全身倦怠感が増|
|強した。 |
|投与中止9日目、白血球数が400/mm3となり転院した。転院後に白血球数が200/mm3|
|となったため、骨髄穿刺を施行。急性再生不良性貧血像が確認された。敗血症を防|
|ぐためにチカルシリンナトリウム、セファゾリンナトリウム、硫酸アミカシンの投|
|与とグロブリン製剤の隔日投与を開始。 |
|同日、全身発疹、麻痺性イレウスを生じた。完全に経口での摂取不可能となり点滴|
|を開始。 |
|投与中止13日目、赤血球、血小板も減少してきたため、保存血、凍結血漿、血小板|
|の輸血を開始。また、心不全があらわれたため、ジゴキシン及びフロセミドの投与|
|と酸素吸入による処置を開始したが呼吸不全、血圧低下があらわれた。 |
|投与中止15日目、血圧が低下し死亡した。 |
|(剖検所見:肉眼的異常は心不全のみであった。) |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与中 投与中止9日目 投与中 投与中 投与中 投与中|
| 止8日 止11 止13 止14 止15|
| 目 転院前 転院後 日前 日目 日目 日目 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|体温(゜C) 38.2 37.4 39.2 39.0 38.0 37.8 |
|赤血球数(X10000) 372 341 354 388 293 282 347 |
|ヘモグロビン(g/dl) 13.9 13.1 10.9 11.8 9.1 8.5 10.5 |
|ヘマトクリット(%) 36.0 30.5 32.7 35.7 26.6 25.5 31.6 |
|血小板数(X10000) 23.5 13.1 16.5 8.3 5.0 1.8 |
|白血球数 500 400 200 <100 <100 <100 <100 |
| 桿状核球 5 |
| 分葉核球 4 6 1 |
| 単球 2 2 |
| リンパ球 89 23/25個 44/50個 24/25個 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:アルジオキサ、塩酸セトラキサート、ゲファルナート、スルピリド |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
表1−3 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.4 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 68歳 |
| 使用理由[合併症] 十二指腸潰瘍 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:200〜600mg、521日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|十二指腸潰瘍のため、シメチジン、スクラルファート、メサフィリンの投与を開始|
|した。 |
|投与開始503日後に労作時呼吸困難と下肢の腫脹に気づく。 |
|投与開始518日後に血液検査で汎血球減少症を認める(赤血球数172万、血小板数2|
|万、白血球数1700)。 |
|投与開始521日後にすべての薬剤の投与を中止する。 |
|投与中止3日目に入院、眼瞼及び口腔粘膜下出血あり。 |
|投与中止4日目、新鮮洗浄赤血球、血小板輸血。 |
|投与中止5日目、血小板輸血。 |
|投与中止18日目、メチルプレドニゾロン大量療法(bolus mPSL)開始。Bolus mPSL|
|3コース目からは酢酸メテノロン30mgも併用。これらの治療により赤血球、白血球|
|、血小板の減少傾向は改善した。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与21日目 投与開始 投与中止 投与中止 投与中止|
| 518日後 4日目 33日目 68日目|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|赤血球数(X10000) 400 172 153 201 193 |
|ヘモグロビン(g/dl) 13.7 6.5 5.9 7.2 7.5 |
|ヘマトクリット(%) 38.7 18.7 17.0 21.7 22.8 |
|網赤血球 (%) 8 |
|血小板数(X10000) 15.8 2.0 <1.0 2.3 2.4 |
|白血球数 4300 1700 1800 2800 3100 |
| 桿状核球 13 9 10 4 15 |
| 分葉核球 45 28 4 56 32 |
| 好酸球 0 2 1 0 0 |
| 好塩基球 0 0 1 0 1 |
| リンパ球 37 56 76 35 42 |
| 単球 5 5 8 5 10 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:スクラルファート、メサフィリン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.5 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 42歳 |
| 使用理由[合併症] 胃潰瘍[糖尿病、脂肪肝] |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:100mg静注、3日間/300mg経口、48日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|腹部CT、胃カメラにより脂肪肝、びらん性胃炎と診断される。その後、腹痛、嘔|
|吐あり。10日後、検査加療目的にて入院する。塩酸ラニチジンの注射を3日間行い|
|、塩酸ラニチジン経口投与に変更する。胃潰瘍、脂肪肝及び糖尿病と診断される。|
|入院約1ヵ月後腹痛軽快のため退院する。 |
|退院約2週後に下痢、嘔吐の急性胃腸炎症状(経口摂取不能、脱水、衰弱状態)の|
|ため再入院する。翌日の検査により白血球3300、血小板17.6万と減少を認め、その|
|後も減少を続ける。再入院3日目に塩酸ラニチジン投与を中止する。 |
|中止後7日目、白血球700、血小板3.1万となる。急性胃腸炎症状も改善せず出血傾|
|向も出現、高熱、原因不明の心室性頻拍が出現し死亡する。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与 再入 再入 再入院3 中止 中止 中止 中止 |
| 前 院1 院2 日目(投 後1 後3 後5 後7 |
| 日前 日目 与中止) 日目 日目 日目 日目 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|赤血球数(X10000) 516 555 493 452 435 374 336 291 |
|ヘモグロビン(g/dl) 17.0 17.1 15.6 14.3 13.7 11.0 10.4 9.3 |
|ヘマトクリット(%) 52.8 54.1 46.9 42.9 41.7 35.7 32.0 28.3 |
|血小板数(X10000) 31.2 25.3 17.6 9.9 7.1 8.4 4.6 3.1 |
|白血球数 6800 7200 3300 1800 1700 1100 1200 700 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:セフピミゾールナトリウム、メシル酸ガベキサート、 |
| メシル酸カモスタット、オルノプロスチル、塩酸セトラキサート、 |
| マレイン酸トリメブチン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+