1.ポリスチレンスルホン酸型陽イオン交換樹脂のソルビトール溶液懸濁による注腸
投与と結腸壊死
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| 成分名 | 該当商品名 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|ポリスチレンスルホン酸ナトリウム|ケイキサレート(鳥居薬品) |
|ポリスチレンスルホン酸カルシウム|カリメート(日研化学)他 |
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|薬効分類等|高カリウム血症改善剤 |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果 |急性及び慢性腎不全に伴う高カリウム血症 |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
ポリスチレンスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、消化・吸収されることなく、腸管
内ことに結腸付近で、本剤の陽イオンと腸管内のカリウムイオンが交換され、ポリス
チレンスルホン酸樹脂としては何ら変化を受けることなしに、そのまま糞便中に排泄
される。その結果腸管内のカリウムは体外へ除去される。
今般、ポリスチレンスルホン酸型陽イオン交換樹脂をソルビトール溶液に懸濁し投
与した症例で結腸壊死を発症したとの報告がなされていることから、使用上の注意を
改訂したので当該文献の概要を紹介する。
(1)文献の紹介
腎移植前及び直後にソルビトール溶液に懸濁したポリスチレンスルホン酸ナトリウ
ムの投与を受けて、直後に結腸壊死を発症したとする三つの類似文献が報告されてい
る。
腎移植のために結腸壊死が起こるのか否かは不明であるが、多くの症例において、
結腸壊死は腸間膜血管損傷の直接的結果とは考えられず、一方、症状の発現は高カリ
ウム血症の治療のためのポリスチレンスルホン酸ナトリウム・ソルビトール注腸投与
と時間的な関連性があった。
Lillemoeらは、腎移植切除術後及び移植前腎切除術後に広範な結腸梗塞を発症した
3例と、慢性腎不全と尿毒症患者における類似の2例を報告しており、5例中4例が
死亡している(表1)。
また、ソルビトールによる懸濁液の注腸投与と結腸損傷とに因果関係の可能性のあ
ることが、動物実験により示された(表2、3)。ソルビトールを含有しない注腸液
を投与した群では、死亡も著しい組織学的変化も認められず、しかも単独投与では腸
壁毒性を示さないことから、ソルビトールがより重要な要因であることを示唆してい
る(文献1)。
Woottonらの腎移植患者は、術前にポリスチレンスルホン酸ナトリウム・ソルビトー
ル注腸液を4回投与後、24時間以内に原因不明の結腸壊死を発症した(文献2)。
Scottは腎移植後の高カリウム血症の治療のため、ポリスチレンスルホン酸ナトリウ
ム・ソルビトールを注腸投与後、数時間で結腸壊死を発症した1例を報告している(
文献3)。
表1 症例の概要
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|No|年| 最初の手術 |腸管壊死に対する|転帰 | 病理所見 |
| |齢| |手術 | | |
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|1|18|腎移植切除 |腹式結腸全摘 |死亡 |全結腸及び回腸末端部の粘着|
| | |AV移植片の|回腸切除(2回)|(23|及び腸壁の梗塞 |
| | | 修正 | |日目)| |
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|2|40|両側腎切除 |(右)部分結腸切|生存 |右結腸壁の梗塞 |
| | | |除 | | |
+−+−+−−−−−−+−−−−−−−−+−−−+−−−−−−−−−−−−−+
|3|52|冠状動脈バイ|腹式結腸全摘 |死亡 |結腸&盲腸全体の粘膜及び腸|
| | |パス |直腸切除 |(2ヵ|壁の梗塞 |
| | | | |月目)| |
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|4|34|腎移植切除 |(右)広範囲結腸|死亡 |結腸全体と回腸末端部の粘膜|
| | | |部分切除、回腸切|(6週|及び腸壁の梗塞 |
| | | |除 |目) | |
+−+−+−−−−−−+−−−−−−−−+−−−+−−−−−−−−−−−−−+
|5|31|房室弁置換 |手術なし |死亡 |結腸&直腸全体の腸壁梗塞 |
| | | | |(7日|(剖検) |
| | | | |目) | |
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表2 非尿毒症ラットの注腸結果
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| 注腸群 | 結腸病理所見 | 生存率 |
| | |(術後48時間)|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−+
|1.注腸なし |正常 | 5/5 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−+
|2.生理食塩水 |正常 | 10/10 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−+
|3.ポリスチレンスルホン酸 |正常 | 10/10 |
| ナトリウム | | |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−+
|4.ソルビトール |広範囲の腸管壁梗塞 | 7/10 |
| | (7/10)| |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−+
|5.ポリスチレンスルホン酸ナトリウ|腸管壁病巣を伴う粘膜梗| 10/10 |
| ム・ソルビトール|塞(6/10) | |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−+
表3 尿毒症ラットの注腸結果
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| 注腸群 | 結腸病理所見 | 生存率 |
| | |(術後48時間) |
+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|1.注腸なし |盲腸粘膜の紅斑(3/5) | 4/5 |
+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|2.生理食塩水 |正常 | 8/10 |
| | |(2匹は麻酔死)|
+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|3.ポリスチレンスルホン酸|粘膜紅斑(1/10) | 10/10 |
| ナトリウム| | |
+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|4.ソルビトール |著しい拡張と広範な出血を伴っ| 0/10 |
| |た腸壁壊死(9/9) |(1匹は麻酔死)|
+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|5.ポリスチレンスルホン酸|広範な出血を伴った腸壁壊死 | 0/10 |
| ナトリウム・ソルビトール|結腸及び小腸の著明な拡張 |(6匹は2回目の|
| |(10/10) |注腸前に死亡) |
+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
(2)安全対策
ポリスチレンスルホン酸型陽イオン交換樹脂の注腸投与では、懸濁剤としてソルビ
トール溶液が使用される場合がある。既に外国において、ソルビトール溶液を使用し
注腸投与を行い結腸壊死を起こした症例の報告と、ラットによる動物実験結果の報告
がなされている。因果関係は明らかではないが、本剤の注腸投与においてソルビトー
ル溶液を用いるべきではないと判断した。
このため、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムについては、使用上の注意に新たに
適用上の注意を設け、ポリスチレンスルホン酸カルシウムについては、用法・用量を
変更し、注腸投与の項からソルビトール溶液を削除するとともに、使用上の注意に新
たに適用上の注意を設け、一層の注意を喚起することとした。
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カルシウム>
適用上の注意
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動物実験(ラット)で、ソルビトールの注腸投与により腸壁壊死を起こすことが報
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告されている。また、外国においてポリスチレンスルホン酸型陽イオン交換樹脂の
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ソルビトール懸濁液を注腸し、結腸壊死を起こした症例が報告されているので、本
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剤を注腸する際にはソルビトール溶液を使用しないこと。
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用法・用量
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通常成人1回30gを水または2%メチルセルロース溶液100mlに懸濁して注腸する。
体温程度に加温した懸濁液を注腸し30分から1時間腸管内に放置する。液がもれて
くるようであれば枕で臀部挙上するか、或いはしばらくの間膝胸位をとらせる。水
または2%メチルセルロース溶液にかえて5%ブドウ糖溶液を用いてもよい。(ソ
〜〜
ルビトール溶液を削除)
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<ソルビトール(経口剤)>
適用上の注意
動物実験(ラット)で、ソルビトールの注腸投与により腸壁壊死を起こすことが報
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告されている。また、外国においてポリスチレンスルホン酸型陽イオン交換樹脂の
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ソルビトール懸濁液を注腸し、結腸壊死を起こした症例が報告されているので、本
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剤を注腸しないこと。
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<参考文献>
1)Lillemoe, K. D., et al. :Surgery, 101(3):267‐272(1987)
2)Wootton, F. T., et al. :Ann. Intern. Med., 111(11):947‐949(1989)
3)Scott, T. R. :Dis. Colon Rectum, 36(6):607‐609(1993)