2.インターフェロン−α、インターフェロン−βと糖尿病
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 成分名 | 該当商品名 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|インターフェロン−α |スミフェロン(住友製薬)他 |
|インターフェロン−α−2a |キャンフェロンA(武田薬品工業)他 |
|インターフェロン−α−2b |イントロンA(シェリング・プラウ) |
|インターフェロン−β |フエロン(東レ)他 |
+−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|薬効分類等|天然型インターフェロン、遺伝子組換え型インターフェロン |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果 |(スミフェロンの場合) |
| |・腎癌、多発性骨髄腫、ヘアリー細胞白血病、慢性骨髄性白血病 |
| |・HBe抗原陽性でかつDNAポリメラーゼ陽性のB型慢性活動性|
| | 肝炎のウイルス血症の改善 |
| |・C型慢性活動性肝炎におけるウイルス血症の改善 |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
(1)症例の紹介
インターフェロン(INF)−α又はβの投与による糖尿病の発生機序はいまだ不
明であるが、投与されている患者はもともとC型慢性活動性肝炎等によりインスリン
の標的臓器である肝臓が障害されており、血糖のコントロールが不良又は不良となり
やすい状態であると考えられる。
INFの投与により糖尿病が増悪又は発症したとする重篤な症例が、これまで61
例報告されている。うち、糖尿病の増悪(血糖上昇を含む)は36例、発症は25例
である。
糖尿病が発症したとして報告された症例の概要は次のとおりである。患者背景は男
性15例、女性10例、年齢は28〜68歳、原疾患はC型慢性活動性肝炎が24例
(B、C、アルコール混合型の1例を含む)、腎癌が1例であり、INF投与開始後
15日〜10ヵ月で糖尿病と診断されている。糖尿病が発症した症例25例のうち、
INF投与前から尿糖陽性、耐糖能障害など糖尿病の素因がみられていた症例が8例
あり、INF投与前の問診、検査を適切に行うことによって発症の早期発見ができる
場合があると思われる。これらの25例については、血糖コントロールの後、特段の
治療を必要としなくなったものが10例、インスリン又は血糖降下剤による血糖コン
トロールを必要としているものが15例であり、糖尿病性昏睡に至った症例も3例報
告されている。
糖尿病は、血糖値、尿糖等の検査を定期的に行うことによってその発現を早期発見
できるものである。したがって、糖尿病発現のおそれのある医薬品を投与する際には
これらの検査を怠らず、早期発見、早期治療に努めることにより、昏睡等の重篤な症
例を未然に防ぐことが可能となると考えられる。
報告された症例の一部を表2に紹介する。
(2)安全対策
INF−α製剤については、本情報No.118(平成5年1月号)の間質性肺炎
の記事の最後に血糖上昇について記載し、使用上の注意の改訂を行っている。その後、
INF−β製剤についても、同様の改訂がなされ、また、INF−αの一部の製剤で
は糖尿病の発症又は増悪について記載し、注意喚起をしてきた。しかし、糖尿病が発
症又は増悪した症例は重篤なものが多く、厳重な血糖コントロールを必要としている
症例もあることから、これらの早期発見と適切な処置について、より一層の注意を喚
起するため、下記の改訂を行った。
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<インターフェロン−α、インターフェロン−β>
一般的注意
糖尿病[インスリン依存型(IDDM)及びインスリン非依存型(NIDDM)]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
が増悪又は発症することがあり、昏睡に至ることがあるので、定期的に検査(血糖
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
値、尿糖等)を行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。自己免疫
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
現象によると思われる症状・徴候[甲状腺機能異常、肝炎、溶血性貧血、潰瘍性大
〜〜〜〜〜
腸炎の悪化、関節リウマチの悪化、インスリン依存型糖尿病(IDDM)の増悪又
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
は発症等]があらわれることがあるので、自己免疫疾患の患者又はその素因のある
〜〜〜 〜
患者には慎重に投与すること。ただし、自己免疫性肝炎の患者には投与しないこと。
慎重投与
糖尿病又はその既往歴、家族歴のある患者、耐糖能障害のある患者[糖尿病が増悪
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
又は発症しやすい]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
副作用
(1)重大な副作用
糖尿病[インスリン依存型(IDDM)及びインスリン非依存型(NIDDM)]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
:定期的に検査(血糖値、尿糖等)を行い、異常が認められた場合には適切な処置
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
を行うこと。
〜〜〜〜〜〜
自己免疫現象:自己免疫現象によると思われる症状・徴候[甲状腺機能異常、肝炎、
〜〜〜〜〜
溶血性貧血、潰瘍性大腸炎の悪化、関節リウマチの悪化、インスリン依存型糖尿病
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(IDDM)の増悪又は発症等]があらわれることがある。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜
*スミフェロンの場合。ただし、下線部は各製剤共通。
表2 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 57 |
| 使用理由(合併症) C型慢性活動性肝炎(くも膜下出血の術後) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:INF−α 600万単位、14日間(連日) |
| 50日間(週3日) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|4年前にくも膜下出血の手術時、血小板輸血を行った。その後肝障害が発現し、経|
|過観察を行っていたが、肝生検にてC型慢性活動性肝炎と診断され、INF−αの|
|投与を開始した。投与開始60日目頃から口渇が発現し、その後傾眠、食欲不振、|
|悪心・嘔吐もあらわれ、投与開始65日目、糖尿病性昏睡が発現したため入院し、|
|INF−αの投与を中止するとともにインスリンの投与を開始した。その後もイン|
|スリンの投与を必要としたが、血糖は安定傾向となったため、約110日後にイン|
|スリンの投与を中止した。HbA1Cは7.1%であり、その後も経過観察を行って|
|いる。 |
|(INF−αの投与前から血糖値が170mg/dlと高値であった。) |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与10 昏睡 投与中止 投与中止 投与中止|
| 日前 発現日 3ヵ月後 7ヵ月後 19ヵ月後|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|空腹時血糖(mg/dl) 170 841 146 130 − |
|HbA1C(%) − − 6.4 6.6 7.1 |
|尿糖 − ++++ ++ − |
|尿ケトン体 − + |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:なし |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 62 |
| 使用理由(合併症) C型慢性活動性肝炎 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:INF−α−2a 300万単位、8日間(週6日) |
| 85日間(週3日) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|C型慢性活動性肝炎に対し、INF−α−2aの投与を開始した。投与開始4〜5|
|日目に口渇が発現。投与開始8日目に血小板減少( 3.9X10000/μl)を認めたた|
|め投与中止。3日後、血小板数が回復( 6.0X10000/μl)したため、INF−α|
|−2aの投与を再開(週3回)した。投与再開22日目、尿糖強陽性(+++)を|
|認め、更に投与再開60日目、口渇、頻尿の症状が強くなり、血糖値は 307mg/dl|
|を示し、糖尿病と診断された。その後インスリンによる血糖コントロールを行いつ|
|つ本剤の投与を継続し、25日後本剤の投与を終了した。その後はインスリンの投|
|与により血糖は安定傾向となった。 |
|(糖尿病の既往歴はないが、INF−α−2aの投与前の血糖値測定がなく、素因|
|の有無は不明。) |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 血小板 空腹時血糖 尿酸 |
| (X10000/μl) (mg/dl) |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|投与4日前 6.3 − |
|投与8日目、投与中止日 3.9 − |
|投与11日目、投与再開日 6.0 − |
|投与再開22日目 − − +++ |
|投与再開60日目 5.9 307 +++ |
|インスリン投与開始時 − 312 |
|INF−α−2a投与終了時 − 118 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:なし |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 53 |
| 使用理由(合併症) C型慢性活動性肝炎 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:INF−β 600万単位、42日間(連日) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|C型慢性活動性肝炎に対しINF−βを42日間連日投与した。投与終了約100|
|日後、全身倦怠感が発現し、空腹時血糖を測定したところ、 338mg/dlを示し、糖|
|尿病と診断された。同日よりグリベンクラミドの投与を開始したが、約20日間の|
|治療によっても倦怠感と高血糖が持続するため、インスリンの投与に変更した。そ|
|の約50日後、血糖は安定傾向となった。 |
|(INF−βの投与開始時の空腹時血糖は 126mg/dlであり、耐糖能障害があった|
|可能性あり。) |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 空腹時血糖 尿酸 |
| (mg/dl) |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|投与約1ヵ月前 94 − |
|投与開始日 126 − |
|投与15日目 134 − |
|投与終了約50日目 106 − |
|副作用発現日 338 +++ |
|副作用発現14日日 403 +++ |
|副作用発現約70日日 107 − |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:なし |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+