1.プロパゲルマニウムとB型慢性肝炎の急性増悪
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| 成分名 | 該当商品名 |
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|プロパゲルマニウム |セロシオン(三和化学研究所) |
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|薬効分類等|肝臓疾患用剤 |
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果 |HBe抗原陽性B型慢性肝炎におけるウイルスマーカーの改善 |
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(1)B型慢性肝炎の急性増悪
B型慢性肝炎では、B型肝炎ウイルス(HBV)の増殖があり、これに対して生体
が反応して、HBV感染肝細胞を破壊するというサイクルが常に回転しながら進展し
ていく。つまりHBe抗原量の変動に応じてGPTが上昇・下降を繰り返している。
このようなB型慢性肝炎の経過中にウイルスの重複感染やアルコール性肝障害が加わ
るなど、いわゆるacute on chronicにより、急性肝不全が出現したり、B型慢性肝炎
の急性増悪が出現して肝不全に陥る場合があることが知られている(文献1)。自然
経過中に黄疸を伴う急性増悪を来した症例が1.1%発現したとの報告(文献2)も
あり、B型慢性肝炎の治療には慎重な対応が必要である。
(2)症例の紹介
B型慢性肝炎の治療方針はHBVの増殖を抑えて、感染肝細胞の数を減少させてい
くか、強い免疫反応を起こさせて感染肝細胞を徹底的に破壊するかのいずれかである。
これまでインターフェロンを主体とした抗ウイルス療法やステロイド離脱療法が行わ
れてきたが、両者とも治療中に肝炎が急性増悪して死亡に至った症例が報告されてい
る。
平成6年7月に承認されたプロパゲルマニウムは、宿主の免疫能に影響を与えるこ
とにより、ウイルス関連マーカーを改善し、B型慢性肝炎の治療に用いられる治療薬
である。
今回、プロパゲルマニウム投与後にB型慢性肝炎の急性増悪が発現したとの症例が
3例報告され、うち2例が死亡している。これらの症例は、いずれも40代の男性で
過去に黄疸の既往歴があり、増悪を繰り返していた症例であった。
報告された症例の一部を紹介する(表1)。
表1 症例の概要
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|No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 48 |
| 使用理由 HBe抗原陽性B型慢性肝炎 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:30mg、10日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|黄疸が出現後、2回の入院を含む約4カ月間の治療の後、転院先にてプロパゲルマ|
|ニウムの投与を開始した(総ビリルビン1.3mg/dl)。投与8日目に黄疸に気づき、|
|10日目にB型慢性肝炎の急性増悪を認めたので薬剤の投与を中止した。翌日入院|
|し、新鮮凍結血漿、GI療法にて治療を開始した。脳症もなく経過したが、肝機能|
|が著しく悪化したので、投与中止5日目に再転院した。翌々日、肝性昏睡となり、|
|血漿交換を実施したが投与中止12日目に死亡した。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
| |投与約4|投与開|投与10|中止後|中止後|中止後| |
| |カ月前 |始日 |日目 |3日目|5日目|11日目| |
|−−−−−−−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
|GOT (U/l) | 431 | 87| 763| 429| 659| 265| |
|GPT (U/l) | 879 | 65| 601| 360| 600| 255| |
|総ビリルビン (mg/dl)| 5.6 | 1.3| 9.4| 11.8| 15.3| 21.0| |
|ヘパプラス | - | - | 28.6| 17.9| 9.8| 10.0| |
| チンテスト(%) | | | | | | | |
|血小板数 (x10000) | 19.8 | 16.9| - | - | 12.9| 8.6| |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:なし |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 45 |
| 使用理由 HBe抗原陽性B型慢性肝炎 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:30mg、32日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|プロパゲルマニウムの投与開始2年半前に、肝機能悪化にて5カ月間及びその後再|
|度2カ月半入院加療した。そのときインターフェロンを使用して黄疸が発現した。|
|プロパゲルマニウムの投与開始10カ月前に肝生検にて慢性活動性肝炎と診断され|
|、再度インターフェロンが使用された。その後GOT、GPTの上昇がみられたの|
|で、プロパゲルマニウムの投与を開始した。投与32日目GOT、GPT、総ビリ|
|ルビンの上昇及び肝機能の低下を認めたので投与を中止した。ステロイド、新鮮凍|
|結血漿、混合アミノ酸製剤、GI療法にて治療を開始し、投与中止31日目から血|
|漿交換を実施したが、投与中止52日目に死亡した。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−−−+ |
| |投与約2|投与開|投与15|投与32|投与中止 | |
| |カ月前 |始日 |日目 |日目 |約1ヵ月後| |
|−−−−−−−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−−−+ |
|GOT (U/l) | 826 | 94| 178| 969| 56 | |
|GPT (U/l) | 970 | 170| 285| 729| 75 | |
|総ビリルビン (mg/dl)| - | 0.5| 0.5| 3.5| 24.2 | |
|ヘパプラス | - | 73| - | 35| 23 | |
| チンテスト(%) | | | | | | |
|血小板数 (x10000) | - | 17.1| - | 10.6| 11.6 | |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:なし |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
(3)安全対策
これまでプロパゲルマニウムの投与による肝機能障害の副作用としては「肝臓」の
項に「ときにGOT、GPTの上昇があらわれることがある。」と記載し注意喚起を
行ってきた。
今回、プロパゲルマニウムを使用中のB型慢性肝炎患者において、因果関係は必ず
しも明らかでないが、本剤投与後にB型慢性肝炎の急性増悪により死亡した症例が報
告された。
プロパゲルマニウムの使用にあたっては、B型慢性肝炎の急性増悪やその対応につ
いて十分理解した上で、B型慢性肝炎の病態や全身状態から適応となるか否かについ
て慎重な判断が必要であり、また、適応となる場合であっても、投与中の経過を慎重
に観察するなど下記のように安全性に十分注意する必要がある。
1.適応患者の慎重な選択
黄疸の発現した症例に死亡例が報告されているので、黄疸のみられる患者には投
与しないこと。また、慢性肝炎の急性増悪は、過去に黄疸のある患者で起きている
ことから、黄疸の既往歴のある患者は慎重に投与すること。
2.肝機能検査の確実な実施
慢性肝炎の急性増悪を早期に発見し重症化させないために定期的に肝機能検査を
行うこと。また、肝機能障害の増悪、黄疸があらわれた場合には直ちに投与を中止
すること。なお、眼球・皮膚の黄染、褐色尿がみられた場合には直ちに主治医に連
絡するよう患者に注意を与えること。
プロパゲルマニウムについては新たに警告を設け、一般的注意、禁忌、慎重投与、
副作用の項を下記のとおり追加、改訂し、一層の注意を喚起することとし、関係企
業に本剤の適正な使用を促すための情報提供を行うよう指導した。
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<プロパゲルマニウム>
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 警告 |
| 〜〜 |
| 慢性肝炎が急性増悪することがあり、死亡例が報告されている。 |
| 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
一般的注意
(1)慢性肝炎の急性増悪があらわれることがあるので、定期的に(特に投与後2、
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4、6週)肝機能検査を行うなど十分注意すること。また、肝機能障害の増悪、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
黄疸があらわれた場合には、本剤の投与を中止するとともに適切な処置を行うこ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と。
〜〜
なお、本剤服用中に眼球・皮膚の黄染、褐色尿がみられた場合には、直ちに連絡
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
するよう患者に注意を与えること。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(2)上記の他、本剤の臨床効果を確認するため、下記の点に注意すること。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
a.本剤の投与中は、4週ごとに臨床検査を実施すること。
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b.HBe抗原の陰性化がみられた場合は投与を終了すること。
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c.投与開始16週目に、ウイルスマーカー(HBe抗原)を含めた臨床検査を実
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施し、ウイルスマーカーの改善がみられなかった場合には、他の療法を考慮す
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ること。
〜〜〜〜
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 禁忌(次の患者には投与しないこと) |
| 〜〜 |
| 黄疸のある患者 |
| 〜〜〜〜〜〜〜 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(2)重篤な腎障害のある患者[本剤は、主として腎臓から排泄され、また、腎不全
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(片腎摘出)モデルラットにおいて血中濃度が上昇するとの報告がある。]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(3)黄疸の既往歴のある患者
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副作用
(4)肝臓:肝機能障害の増悪、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
い、このような症状があらわれた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と。
〜〜
<参考文献>
1)太田康幸他:医学のあゆみ,151(13):794(1989)
2)斎藤聡他:日本消化器病学会雑誌,86(2):261(1989)