3.ベザフィブラートと横紋筋融解症

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|成分名             |該当商品名              |

+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

、ベザフィブラート        、ベザトールSR(キッセイ薬品工業)  、

+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|薬効分類等:高脂血症用剤                        |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|効能効果:高脂血症(家族性を含む)                   |

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(1)横紋筋融解症

 横紋筋融解症の病態は骨格筋の融解、壊死により筋細胞成分が血液中に流出すると

いうもので、自覚症状としては四肢の脱力、痛み、倦怠感、着色尿などがあり、検査

所見としては、血中・尿中ミオグロビンの増加のほかCPK、GOT、GPT、LD

H、アルドラーゼなど筋原性酵素の急激な上昇が認められる。同時に急性腎不全等の

重篤な腎障害を併発することが多い。

 薬剤投与後に発現する横紋筋融解症については高脂血症用剤(フィブラート系薬剤、

HMG−CoA還元酵素阻害薬)に関して、本情報No.112(平成4年1月号)、

No.119(平成5年3月号)で、その後バソプレシンについてNo.125(平

成6年3月号)で、ニューキノロン系抗菌剤についてNo.128(平成6年10月

号)で情報提供している。

 

(2)症例の紹介

 ベザフィブラート投与後に全身・局所の筋肉痛やCPK上昇を特徴とする横紋筋融

解症の発現が多数報告されている。本剤による横紋筋融解症の発現については本情報

No.112(平成4年1月号)ですでに情報提供し注意を喚起していた。しかし、

No.112の情報提供後に横紋筋融解症が発現したとする症例がこれまでに58例

報告されており、その年齢、性別、投与開始から横紋筋融解症発現までの期間は表3

〜5のとおりである。報告例の中で、投与前のクレアチニン値が判明していた症例は

39例で、うち31例(79.5%)が従来から投与禁忌として「使用上の注意」に

記載のあったクレアチニン2.5mg/dl を超える重篤な腎機能障害を有する患者であ

った。

 報告された症例の一部を紹介する(表6)。

 

表3 年齢                 表4 性別

−−−−−−−−−−−−−−−−−−    −−−−−−−−−−−−−

 年 齢        症例数        性 別     症例数

−−−−−−−−−−−−−−−−−−    −−−−−−−−−−−−−

 0〜19        1          男       25

20〜29        0          女       33

30〜39        6        −−−−−−−−−−−−−

40〜49       10

50〜59       12

60〜69       18

70〜79        7

80〜89        3

 不明          1

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

表5 発現時期

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 投与開始より発現

 までの期間(日)     症例数

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

   1〜  7       12

   8〜 14       20

  15〜 21        3

  22〜 28        4

  29〜 60        6

  61〜 90        4

  91〜120        0

 121〜150        0

 151〜180        1

 181〜360        1

 361〜720        6

 720〜           0

   不明           1

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

表6 症例の概要

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.1                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         65                     |

|   使用理由(合併症)  高脂血症(痛風、腎性高血圧、慢性腎不全、   |

|                 自律神経失調)             |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|1日投与量:400mg                          |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|高脂血症に対し、ベザフィブラートの投与を開始したところ、8日目に全身倦怠感|

|が発現したため、本剤の投与を中止した。更に2日後にはCPKが19350 IU/l と|

|上昇していた。その1週間後に念のため入院し、経過を観察したところ13日後に|

|回復し、退院となった。                          |

|                                     |

|臨床検査値                                |

|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|

|          投与前   投与中止2日目 投与中止10日目  退院前日 |

|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|

|GOT(U/l)     -      498       31       17   |

|GPT(U/l)     -      106       45       12   |

|LDH(U/l)     253      -       821       313   |

|BUN(mg/dl)    39      69       55       69   |

|クレアチニン(mg/l) 2.9     3.6      3.4       3.6   |

|CPK(IU/l)    -     19350       -        61   |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|併用薬:クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム、ジピリダモール、      |

|    塩酸ニカルジピン、アテノロール、ガンマ−オリザノール、ジアゼパム |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

 

(3)安全対策

 ベザフィブラートの「使用上の注意」には承認時から「クレアチニンが2.5mg

/dlを超える重篤な腎機能障害(腎不全、透析等)の患者には投与してはならない。

」と投与禁忌の項に記載されていた。また、横紋筋融解症の発現については本情報

No.112(平成4年1月号)により情報提供を行い、注意を喚起してきた。しか

し、これまでの横紋筋融解症発現症例について検討したところ、本来投与禁忌である

重篤な腎機能障害を有する患者への投与症例が多いことがわかった。これは、投与す

べきでないことが「使用上の注意」に明記されている患者に投与され、横紋筋融解症

という重篤な副作用症例が多く発現していることを示しており、必ずしも適正な使用

が徹底されていないと考えられる。このことから、ベザフィブラートの投与にあたっ

ての注意すべき点について改めて注意を喚起することとした。

 本剤の投与に際しては、腎機能障害の有無に十分注意し、クレアチニンが2.5mg

/dlを超える重篤な腎機能障害を有する患者、特に慢性腎不全患者や透析患者には

投与してはならないという点を遵守する必要がある。なお、投与前に腎機能障害のな

い患者においても横紋筋融解症の発現が報告されているので、投与後は全身筋肉痛、

脱力感、倦怠感などの発現や、CPK等の上昇に注意する必要がある。また、このよ

うな症状があらわれた場合にはCPKアイソザイムや、尿中・血中ミオグロビンを測

定し、横紋筋融解症が疑われる場合には、直ちに本剤の投与を中止し適切な処置を行

う。横紋筋融解症は急性腎不全を伴うことが多いため、水分の負荷とともに利尿に努

め、急性腎不全例では必要に応じて血液透析等の実施も考慮する必要がある。

 ベザフィブラートの「使用上の注意」にはこれまでにも、腎機能障害患者への投与

についての注意や横紋筋融解症の発現に関する注意事項が記載されていたが、これま

で以上に注意を徹底させるために記載の整備を行い、併せて製薬企業による医療関係

者への情報伝達を徹底し、適正使用を推進するよう指導を行っている。

 

《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》

〈ベザフィブラート〉

一般的注意

 (1)本剤投与中、急激な腎機能の悪化を伴う横紋筋融解症(「副作用1)筋肉」の

   項参照)があらわれることがある。この症状は透析患者、腎不全などの重篤な

                   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   腎機能障害を有する患者であらわれやすいため、これらの患者には投与しない

   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   こと。

   〜〜〜

 (2)投与にあたっては、患者の腎機能を検査した上で投与の可否を決定し、血清

   クレアチニン値に応じて減量又は投与間隔の延長をするなど慎重に投与するこ

   と。(本剤は主として腎臓を経て尿中に排泄されるので、腎機能障害のある患

     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   者への投与には十分注意する必要がある。)

   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

禁忌

 (1)人工透析患者(腹膜透析を含む)

          〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (2)腎不全などの重篤な腎疾患のある患者

 (3)血清クレアチニン値が2.5mg/dlを超える患者

慎重投与

 (1)腎疾患のある患者

 (2)血清クレアチニン値が1.5mg/dlを超える患者

副作用

 (1)筋肉:ときに筋肉痛、CPK上昇があらわれることがあるのでこのような場

     合には減量又は休薬すること。特に腎機能障害を有する患者において、筋

     肉痛、脱力感、CPK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とする

     横紋筋融解症があらわれ、これに伴って急激に腎機能が悪化することがあ

     るので、このような場合には直ちに投薬を中止し、適切な処置を行うこと。

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高齢者

 (1)高齢者では、肝・腎機能が低下していることが多く、また、体重が少ない傾

   向があるなど、副作用が発現しやすいので、投与に際しては、少量から開始す

   るなど投与量に十分注意すること。特に腎機能については投与中も血清クレア

                   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   チニン値を定期的に確認するなど注意すること。

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