2.塩酸プロピベリンと緑内障発作
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|成分名 |該当商品名 |
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、塩酸プロピベリン 、バップフォー(大鵬薬品工業) 、
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|薬効分類等:尿失禁・頻尿治療剤 |
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|効能効果:次の疾患又は状態における頻尿、尿失禁 |
| 神経因性膀胱、神経性頻尿、不安定膀胱、膀胱刺激状態(慢性膀胱|
| 炎、慢性前立腺炎) |
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(1)症例の紹介
塩酸プロピベリンは平滑筋直接作用と抗コリン作用による膀胱平滑筋の異常収縮抑
制により、排尿運動抑制作用を示す尿失禁・頻尿治療剤である。また、残尿量を有意
に増加させることなく膀胱容量を有意に増加させる特徴を有する薬剤で臨床治療に広
く用いられている。我が国では平成5年4月に承認され現在に至っている。
これまでに塩酸プロピベリンの投与により緑内障発作が発現したとする症例が3例
報告されている。
報告された3例の年齢は73〜88歳で、いずれも女性であった。本剤の投与開始
から緑内障発作発現までの期間は23日〜約3ヵ月半であり、いずれも嘔気、眼痛を
伴う視力低下があらわれ、緑内障発作が疑われたため、本剤の投与を中止した。2例
は虹彩切開術、虹彩光凝固術を施行し、その後発作の再発は認められていない。残る
1例もβ遮断剤の点眼により処置し、改善傾向となった。
報告された症例はいずれも高齢者であり、高齢による生理機能の低下、既往の疾患
等による緑内障発作の発現も疑われるが、本剤は抗コリン作用を有する尿失禁・頻尿
治療剤であり、その薬理作用から緑内障発作を惹起する可能性は否定できない。
報告された症例の一部を紹介する(表2)。
(2)安全対策
本剤は、平滑筋直接作用と抗コリン作用を有している薬剤である。その抗コリン作
用によって緑内障が増悪することが考えられたため、本剤の「使用上の注意」には従
来から「緑内障の患者には慎重に投与すること」との記載をして注意を喚起していた。
しかし、今回の緑内障発作の発現は抗コリン作用によって惹起された可能性があるた
め、「使用上の注意」の副作用の項に「まれに眼圧亢進があらわれ、急性緑内障発作
を惹起し、嘔気、頭痛を伴う眼痛、視力低下等があらわれることがある。このような
場合には投与を中止し、直ちに適切な処置を行うこと。」と記載し、更に、「慎重投
与」の項の「緑内障の患者」を「禁忌」の項に移し、一層の注意喚起を行うこととし
た。
表2 症例の概要
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|No.1 企業報告|
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|患者 性 女 |
| 年齢 88 |
| 使用理由(合併症) 頻尿(慢性心不全、脳動脈硬化症、老人性痴呆、 |
| 低血圧症、逆流性食道炎、尿路感染症、 |
| 白内障、変形性腰痛症、骨粗鬆症) |
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|1日投与量・投与期間:20mg、49日間 |
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|副作用−経過及び処置 |
|塩酸プロピベリンの投与開始6日目に便秘傾向が発現し、血清クレアチニン(Cr|
|)値の上昇(1.7mg/dl)を認めた。18日目に麻痺性イレウスが発現。 |
|28日目にはイレウスが増強し、残尿量も増加傾向となった。37日目からジノプ|
|スト、41日目からセンノシド投与を開始したが、イレウスは更に増強し、嘔気、|
|視力障害が発現、緑内障発作が認められた。濃グリセリン・果糖配合剤の点滴とグ|
|リセリン浣腸を施行し、翌日に本剤の投与を中止し、マレイン酸チモロール点眼を|
|開始した。投与中止21日目にはイレウス、残尿量は改善傾向を認める。中止1ヵ|
|月後にはイレウスは消失、視力障害も改善傾向がみられた。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与前 投与6 投与19 投与25 投与36 投与中止 |
| 日目 日目 日目 日目 1ヵ月後 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|BUN(mg/dl) 25.4 36.9 36.4 47.9 23.8 12.6 |
|Cr(mg/dl) 1.3 1.7 2.0 2.3 1.5 1.0 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:フロセミド、イデベノン、デノパミン、ロフラゼプ酸エチル、 |
| 塩酸ミドドリン、ファモチジン、ノルフロキサシン、センノシド、 |
| ピペラシリンナトリウム |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告・モニター報告|
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|患者 性 女 |
| 年齢 73 |
| 使用理由(合併症) 切迫性尿失禁(脳動脈硬化症、高血圧症、狭心症、|
| 心房細動) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:10mg、23日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|塩酸プロピベリンの投与を開始したところ、23日目に眼痛が発現した。また、昼|
|から夜にかけて嘔吐5〜6回を認めたため、本剤の投与を中止した。眼科にて、D|
|−マンニトール注射液点滴、塩酸ピロカルピン、フルオロメトロン点眼、アセタゾ|
|ラミド、プレドニゾロン投与を施行し、翌日入院。投与中止5日目に虹彩切開術を|
|施行した。退院後、本剤の再投与を開始したが緑内障発作の再発は認められなかっ|
|た。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:塩酸ニカルジピン、硝酸イソソルビド、塩酸ジフェニドール、 |
| ジソピラミド、カプトプリル、ビンポセチン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 88 |
| 使用理由(合併症) 神経性頻尿(高血圧症、脳動脈硬化症、便秘) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:10mg、約3.5ヵ月 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|塩酸プロピベリンの投与を開始したところ、3.5ヵ月目に眼部痛、頭痛が発現し|
|視力低下が認められた。翌日眼科を受診し、濃グリセリン・果糖配合剤の点滴と塩|
|酸ピロカルピン点眼を施行した。本剤投与中止は症状発現の3日後であった。また|
|、投与中止約1ヵ月後に右眼虹彩光凝固術を施行。2日後来院時に視力の改善がや|
|やみられたが、その後の状態は不変である。 |
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|併用薬:塩酸ベニジピン、酸化マグネシウム、パントテン酸製剤、ビンポセチン、|
| 大建中湯 |
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<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<塩酸プロピベリン>
禁忌
(3)緑内障の患者
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慎重投与
(5)高齢者
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副作用
(5)眼:まれに眼圧亢進があらわれ、急性緑内障発作を惹起し、嘔気、頭痛を伴
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う眼痛、視力低下等があらわれることがある。このような場合には投与を
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中止し、直ちに適切な処置を行うこと。また、ときに調節障害があらわれ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ることがある。