4.[解説] 医薬品の適正使用のために

    +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

    | 高カロリー輸液療法施行中のアシドーシス     |

    +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+



+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|成分名             |該当商品名              |

+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

、高カロリー輸液用基本液     、トリパレン   (大塚製薬工場)   、

|                |アリメール   (森下ルセル)    |

|                |エネベース   (光)        |

|                |カロネット   (日研化学)     |

|                |ハイカリック  (テルモ)      |

|                |ハイカリックNC(テルモ)      |

|                |パレメンタール (森下ルセル)    |

|                |リハビックス  (清水製薬)     |

|                |ワスタ     (日本製薬)     |

|                |アミノトリパ  (大塚製薬工場)   |

|                |ピーエヌツイン (森下ルセル)    |

+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用:アシドーシス                          |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+



(1)高カロリー輸液療法

 高カロリー輸液療法(TPN)は1967年にDudrick らにより開発された療法で、生

命の維持に必要な糖質、アミノ酸、電解質等を主成分とした高カロリー輸液を経中心

静脈的に投与し、栄養管理を行うものである。現在承認されている高カロリー輸液基

本液は、カロリー源としてトリパレン、アミノトリパがグルコース、フルクトース、

及びキシリトールを配合しているが、他の製剤はグルコースを使用としている。この

ほかに電解質を配合しており、その組成は製剤によって多少異なっているが、ビタミ

ンは配合されていない。TPNを施行する際には患者の状態に応じてビタミンをはじ

め、電解質、アミノ酸等の投与量を調節する必要がある。



(2)高カロリー輸液療法の有効性

 TPNは経口摂取が不能又は不十分な患者の栄養補給のために施行され、手術後等

の栄養管理や合併症の予防、病態の改善等に有効な療法とされているが、その有効性

についてアミノトリパの臨床試験のデータを例に紹介する。

 高カロリー輸液療法の適応となる手術侵襲の大きな食道癌、胃癌全摘出術後患者症

例161例(完全評価症例144例)を対象にアミノトリパ(A)の有用性(全般改

善度、安全性、操作性)についてハイカリックNC+アミパレン(B)の組合せを対

照群とした比較臨床試験を行った。その結果、全般改善度(有効以上:A群64/

75,B群57/69)に両群間に差は認められなかった。副作用はA群で高血糖2

例、B群で高カリウム血症4例、高血糖1例、肝機能異常1例を認めたが、いずれも

TPNにおいて認められるもので安全性に関しても両群間に差は認められなかった。



(3)高カロリー輸液療法施行中のアシドーシス

 高カロリー輸液療法施行中のアシドーシスについては、これまでにも本情報で取り

上げ、注意を喚起してきた。以下にその概略を示す。

高カロリー輸液(トリパレン)投与とアシドーシス.No.104(平成2年9月号)

 トリパレン投与による9例のアシドーシスでは、それまでに知られていた「輸液の

大量・急速投与によるアシドーシス」とは異なり、承認された投与量及び投与方法で

の発現である。また、トリパレン以外の製剤での報告はなかったが、すべての高カロ

リー輸液で注意が必要である。

高カロリー輸液と重篤なアシドーシス.No.111(平成3年11月号)

 前回の情報提供後、トリパレン以外の高カロリー輸液でもアシドーシス発現例の報

告があったことから、すべての高カロリー輸液で「緊急安全性情報」の配布を指示す

るとともに、同様の報告のお願いをした。報告例の特徴としては、重篤な原疾患(悪

性腫瘍等)、合併症(感染症、腎、肝障害等)のほか、ビタミンB1 が投与されてい

ない例、Cl- の過剰投与などをあげている。

[解説]高カロリー輸液施行中に認められるアシドーシス.No.123(平成5年

11月号)

 高カロリー輸液施行に際してはビタミンをはじめ、電解質、アミノ酸等の投与量を

調節することが大切である。特にビタミンB1 が不足すると、解糖経路において生じ

たピルビン酸がアセチルCoAからクエン酸回路への経路で代謝されることなく血中

蓄積され、乳酸アシドーシスを来す。アシドーシスを起こした場合、直ちに高カロリ

ー輸液を中止し、低酸素状態の改善、重炭酸ナトリウムの投与を行い、更にビタミン

B1 欠乏の場合にはチアミンとして100~400mg の投与を行う必要がある。



(4)具体的注意点

 高カロリー輸液用基本液の「使用上の注意」には、アシドーシスの報告のあった製

剤の副作用の項に「アシドーシスが起こることがある」旨記載し、報告のない製剤に

も「他の高カロリー輸液でアシドーシスが報告されている」との記載を行ってきた。

しかし、最近の報告の中にビタミンB1 が全く投与されずにアシドーシスが発現して

いる症例が多数みられ、アシドーシス発現後のビタミンB1 投与により急激に回復し

た例もある。アシドーシス発現の原因の一つにビタミンB1 欠乏があるのは明らかで

あり、これまでに繰り返し情報提供してきたように、高カロリー輸液療法施行にあた

っては、適切な量のビタミンB1 等の投与と、施行中の注意深い観察が重要である。

 このため、これまでの記載に加え、すべての高カロリー輸液の「使用上の注意」に

警告及び一般的注意を設け、アシドーシス発現とビタミンB1 投与の重要性について

の注意を更に喚起することとした。具体的な注意点は以下のとおりである。



1.高カロリー輸液療法の施行にあたっては、適切な量のビタミンB1 の投与を行う。

2.施行中は患者の状態の変化に注意し、アシドーシスが起こった場合には直ちに投与

 を中止し、重炭酸ナトリウムの投与などを行う。これらが無効の場合にはビタミン

 B1 欠乏が疑われるためビタミンB1 (100〜400mg) の急速投与を行う。



 報告された症例の一部を表3に紹介する。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<高カロリー輸液基本液(トリパレン、アリメール、エネベース、カロネット、

ハイカリック、ハイカリックNC、パレメンタール、リハビックス、ワスタ、

アミノトリパ、ピーエヌツイン)>



警告

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|高カロリー輸液療法施行中に重篤なアシドーシスが起こることがあるので、投与中|

|〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜|

|は観察を十分に行い、症状があらわれた場合には適切な処置を行うこと。    |

|〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+



一般的注意

(1)高カロリー輸液療法施行中にビタミンB1 欠乏により重篤なアシドーシスが起

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  こることがあるので、適切な量のビタミンB1 の投与を考慮すること。

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



表3 症例の概要

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|No.1                             企業報告|

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|患者 性          女                      |

|   年齢         71                     |

|   使用理由       経口摂取不十分のため、栄養補給        |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|投与量:トリパレン2号 1200ml                       |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|副作用−経過及び処置                           |

|乳癌再発に対して抗癌剤の投与を行ったところ食欲不振が長く続いたため、高カロ|

|リー輸液療法を開始した。6日目に意識混濁、頻脈、血圧低下が発現した。塩酸チ|

|アミン200mg の投与で症状は改善し、更に同量を追加投与し、血液ガスは正常化し|

|た。翌日、全身状態は改善したため、補液は変更なく継続した。        |

|                                     |

|臨床検査値                                |

| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    |

|            投与6日後      投与7日後           |

| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    |

| 乳酸(mg/dl)        97.6        12.0            |

| ビタミンB1(ng/ml)    13        208             |

| pH           7.305       7.399           |

| HCO3(mEq/l)      7.9        20.2            |

| BE(mEq/l)       -15.6        -3.2            |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

|併用薬:アミパレン                            |

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+