1.ニューキノロン系抗菌剤と横紋筋融解症
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|成分名 |該当商品名 |
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、フレロキサシン 、メガロシン(杏林製薬) 、
|エノキサシン |フルマーク(大日本製薬) |
|トシル酸トスフロキサシン |オゼックス(富山化学工業)、 |
| |トスキサシン(ダイナボット) |
、スパルフロキサシン 、スパラ(大日本製薬) 、
|ノルフロキサシン |バクシダール(杏林製薬) |
|塩酸シプロフロキサシン |シプロキサン(バイエル薬品) |
、オフロキサシン 、タリビッド(第一製薬) 、
|レボフロキサシン |クラビット(第一製薬) |
|塩酸ロメフロキサシン |バレオン(北陸製薬) |
| |ロメバクト(塩野義製薬) |
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|薬効分類等:ニューキノロン系抗菌剤 |
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|効能効果:(フレロキサシンの場合) |
| ブドウ球菌属等(詳細略)のうち本剤感性菌による次の感染症 |
| 咽喉頭炎等(詳細略) |
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(1)症例の紹介
ニューキノロン系抗菌剤投与後に横紋筋融解症が発現したとする症例が5例報告さ
れている。また、このほかに情報が不足しているものの、横紋筋融解症が疑われる症
例が3例報告されている。
報告された8例の年齢は16〜82歳で、性別は男性6例、女性2例であった。重
篤な症例ではCPKが2万〜4x10000U/l、血中ミオグロビンが21x10000ng
/dlといった症例もあった。横紋筋融解症が発現したとする報告のあった薬剤はフ
レロキサシン2例、トシル酸トスフロキサシン2例、エノキサシン1例であった。こ
のほかに横紋筋融解症の発現が疑われる症例がスパルフロキサシン、トシル酸トスフ
ロキサシン、ノルフロキサシンで各1例報告されている。
薬剤の投与開始から発現までの期間は1〜6日と短く、症状が急激に発現している。
また、8例中7例は薬剤の中止により回復している。1例は血中ミオグロビンが高値
のまま回復せず死亡しているが、投与前に既に脳動脈硬化症、間質性肺炎、高血圧が
存在し、本剤服用後には、消化器症状(下痢)が認められていた。既往の疾患と今回
の薬剤の副作用との関連は不明であるが重篤な疾患が存在する場合には注意が必要で
あろう。
症例の一部を紹介する(表1)。
表1 症例の概要
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|No.1 企業報告|
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|患者 性 男 |
| 年齢 82 |
| 使用理由(合併症) 肺炎の疑い(高血圧、脳動脈硬化症) |
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|1日投与量・投与期間:100mg/日、4日間 |
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|副作用−経過及び処置 |
|間質性肺炎の疑いで入院し、塩酸ミノサイクリンを投与していたが、フレロキサシ|
|ンに変更し、その3日後に退院した。同日は下痢、食思不振が認められていた。翌|
|朝に呼吸困難のため来院した。検査では急性腎不全(ミオグロビン尿症)が認めら|
|れ、血圧70台、代謝性アシドーシスも認められた。カテコールアミン、ウリナス|
|タチン等の投与を行ったが反応せず、急性腎不全及び多臓器不全により死亡した。|
| |
| 血液検査所見 |
| 投与11日前 投与5日前 投与3日後 投与4日後 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 白血球(/mm3) 5500 7300 20900 |
| GOT(U/l) 28 620 4532 |
| GPT(U/l) 22 525 2222 |
| LDH(U/l) 179 1205 5258 |
| BUN(mg/dl) 18 40 46 |
| クレアチニン(mg/dl) 1.0 2.4 2.7 |
| CPK(U/l) 148 |
| ミオグロビン(ng/dl) 76400 215622 |
| pH 7.017 |
| PaCO2(Torr) 35.5 |
| PaO2 (Torr) 61.9 |
| (HCO3-) (mmol/l) 8.9 |
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|併用薬:塩酸ミノサイクリン、塩酸ニカルジピン、塩酸インデロキサシン、ジピリ|
| ダモール、アスピリン・ダイアルミネート |
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|No.2 企業報告|
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|患者 性 男 |
| 年齢 78 |
| 使用理由(合併症) 急性気管支炎(肺癌) |
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|1日投与量・投与期間:300mg/日、1日 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|肺癌経過中、感染を併発し、トシル酸トスフロキサシンの投与を開始した。翌朝、|
|トイレに起きようとしたが、全身の筋肉痛で金縛りにあったようで動くことができ|
|ず、緊急受診。薬剤投与の中止により、症状は消失した。心電図には異常なし。 |
| |
| 血液検査所見 |
| 投与開始日 投与翌日 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| GOT(U/l) 22 107 |
| GPT(U/l) 11 23 |
| LDH(U/l) 545 623 |
| CPK(U/l) 4184* |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| * アイソザイム・MM型 |
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|併用薬:塩酸セトラキサート、塩酸L−エチルシステイン、プロナーゼ |
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(2)安全対策
薬剤による横紋筋融解症についてはこれまで本情報No.112(平成4年1月号
)、No.119(平成5年3月号)、No.125(平成6年3月号)で、フィブ
ラート系薬剤やHMG−CoA還元酵素阻害剤、バソプレシンについて情報提供して
いる。
横紋筋融解症は骨格筋の融解、壊死により筋細胞成分が血液中に流出するというも
ので、自覚症状として四肢の脱力、筋肉痛、着色尿などがあり、検査所見では、血中・
尿中ミオグロビンの増加、CPK、GOT、GPT、LDH、アルドラーゼなどの筋
原性酵素の急激な上昇が認められる。同時に急性腎不全等の重篤な腎障害を併発する
ことが多い。
今回報告のあった症例もニューキノロン系抗菌剤投与後に筋肉痛が発現し、検査に
よりCPK、GOT、GPT、ミオグロビン等の上昇が認められており、薬剤との関
係は否定できない。報告された成分以外のニューキノロン系抗菌剤においても全身関
節痛、筋肉痛、脱力感等の報告があり、これらの症例はCPK等が測定されていれば
横紋筋融解症と確認できた可能性があるため、すべてのニューキノロン系抗菌剤の投
与にあたっては横紋筋融解症が発現する可能性があることに注意する必要がある。具
体的には横紋筋融解症の前駆症状と考えられる全身倦怠感、筋肉痛の発現やCPK等
の上昇に注意し、異常があればCPKアイソザイムや、尿中・血中ミオグロビンを測
定することや、必要に応じて投与を中止するなど適切な処置をとることが必要がある。
今回報告のあったニューキノロン系抗菌剤の「使用上の注意」に横紋筋融解症につ
いての記載を行い、その他の製剤にも可能性がある旨記載させ、注意を喚起すること
とした。
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<フレロキサシン、エノキサシン、トシル酸トスフロキサシン、スパルフロキサシン、
ノルフロキサシン>
副作用
筋肉:筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とし、
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急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれることがあるので注意すること。
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<塩酸シプロフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、
塩酸ロメフロキサシン>
副作用
筋肉:筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とし、
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急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれる可能性があるので注意するこ
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と。
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