2.スパルフロキサシンと光線過敏症

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|成分名             |該当商品名              |

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、スパルフロキサシン       、スパラ(大日本)           、

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|薬効分類等:ニューキノロン系抗菌剤                   |

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|効能効果:ブドウ球菌属等のうち本剤感性菌による次の感染症        |

|        咽喉頭炎等(詳細略)                  |

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(1)薬剤性光線過敏症

 光線過敏症は、太陽等に露光することによって、紅斑、小水疱、丘疹、色素沈着等

皮膚の異常反応をきたす病態である。光線過敏症は、発現機序、症状により光毒性と

光アレルギー性に大別される。ポルフィリン症、色素性乾皮症などの遺伝性、あるい

は代謝性光線過敏症があり、その他に基礎疾患があって日光照射による基礎疾患の悪

化をみる光線増悪皮膚症が知られている。また、種々の薬剤の投与により日光にあた

る部位に炎症等を生じる薬剤性光線過敏症がある。

 光線過敏症の原因薬剤としては、ケトプロフェン、ピロキシカム等の非ステロイド

性消炎鎮痛剤、エノキサシン等のニューキノロン系抗菌剤(文献1)、テトラサイク

リン系抗生物質、チアジド系利尿薬等が知られており、報告のある薬剤においては「

使用上の注意」に光線過敏症についての記載を行い注意を喚起している。

 薬剤性光線過敏症は、ある種の薬剤の投与により日光の当たる部位に炎症等が生じ

るもので、発疹の状態は様々であるが、日光に当たりやすい顔面の突出部(額、頬、

鼻部)、頚部、前胸部、手背等に異常があらわれ、逆に日光の当たらない部分、例え

ば髪の生え際、おとがい下面等には異常がみられない。また、薬剤使用から日光曝露、

皮疹出現に時間的な相関がみられることが診断の参考となる。薬剤使用後から発症ま

での時間は、早い場合は数時間、ときに半年以上使用を継続したところ発症した症例

等様々である(文献2)。

 薬剤性光線過敏症の治療としては、第一に被疑薬の投与を中止すること、患者に日

光の曝露を避けさせることが重要である。また、症状によっては、抗ヒスタミン剤、

副腎皮質ホルモン剤の投与等の対症療法が必要になる場合もある(文献3)。



(2)症例の紹介

 スパルフロキサシンは平成5年7月に承認された持続性ニューキノロン系抗菌剤で

ある。他のニューキノロン系抗菌剤については、既に光線過敏症の発症が知られてお

り、スパルフロキサシンにおいても承認時より臨床試験成績に基づき「使用上の注意」

に光線過敏症があらわれることがある旨記載を行い注意を喚起してきた。しかしなが

ら、スパルフロキサシンの市販後に行われている使用成績調査で光線過敏症が発現し

たとする報告が現在までに53例報告されている。

 報告された症例の内訳は、性別は男性37例、女性16例、年齢は14歳〜89歳

で、60〜80歳が半数以上を占めていた。投与開始から症状発現までの日数は、2

日から約3ヵ月であった。症状は軽度から中等度であり、特に重篤な症例はみられな

かった。発症後本剤の服用を中止し、他に措置をとらず回復している症例が約半数あ

った。その他の症例についても、服用中止、抗ヒスタミン剤、副腎皮質ホルモン剤等

の投与で比較的短期間に回復している。

 報告された症例の一部を紹介する(表2)。



表2 症例の概要

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|No.1                             企業報告|

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|患者 性          女                      |

|   年齢         72                     |

|   使用理由       慢性副鼻腔炎                 |

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|投与量・投与期間:200mg/日、6日間                 |

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|副作用−経過及び処置                           |

|投与開始7日目に顔から首にかけて、光線過敏症が発現した。特に頬部に色素沈着|

|と落屑がみられ、頬部、前額を中心に浮腫が出現した。それまで投与していた薬剤|

|を中止し、強力ネオミノファーゲン等の静注を開始した。また、ベタメタゾン含有|

|製剤の投与を開始した。3日後かなり回復し、発症から1週間後には回復が確認さ|

|れた。                                  |

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|併用薬:カルボシステイン、塩酸アゼラスチン、辛夷清肺湯          |

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|No.2                             企業報告|

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|患者 性          男                      |

|   年齢         78                     |

|   使用理由       呼吸器感染                  |

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|投与量・投与期間:200mg/日、5日間                 |

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|副作用−経過及び処置                           |

|投与開始5日後両頬部、両手背の紅斑、落屑が出現し、服薬を中止した。5日後来|

|院し、プレドニゾロン静注を行い、副腎皮質ホルモン外用剤を処方した。10日後|

|に光線過敏症の回復が確認された。                     |

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|併用薬:塩酸プロカテロール、塩酸アンブロキソール、アズレンスルホン酸ナトリ|

|    ウム・L−グルタミン                       |

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(3)安全対策

 ニュ−キノロン系抗菌剤による光線過敏症の発症は以前より知られており、本情報

No.83(昭和62年2月号)でも「エノキサシンによる光線過敏症について」を

掲載し、また他のニューキノロン系抗菌剤についても「使用上の注意」への記載を行

い注意を喚起してきたところである。しかしながら、スパルフロキサシンについて、

市販後の使用成績調査における光線過敏症が現在53例(0.53%)報告されてお

り、本剤は他のニューキノロン系抗菌剤に比べ光線過敏症の発生頻度が高いおそれが

あるため、スパルフロキサシンと光線過敏症発現について改めて注意喚起を行うもの

である。

 本剤の投与にあたっては、事前に患者に対しできるだけ日光への曝露を避けること

と、発疹等が発現した場合には服用を中止するよう指導する必要がある。また、投与

中に光線過敏症が発現した場合は、投与を中止し、患者に露光を避けさせ、適切な処

置を行う必要がある。

 これまでにも本剤の「使用上の注意」の副作用の項には既に光線過敏症についての

記載を行っていたが、より一層の注意喚起を行う必要があるため、下記の改訂を行っ

た。



<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<スパルフロキサシン>

一般的注意

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 光線過敏症、発疹等の皮膚症状があらわれることがあるので、投与にあたっては、

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 事前に患者に対し以下の点について指導すること。

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 (1)日光曝露をできるだけ避けること。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (2)発疹等があらわれた場合には服薬を中止すること。

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 また、このような症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (臨床適用の項参照)。

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<参考文献>

1)厚生省薬務局:エノキサシンによる光線過敏症について、医薬品副作用情報

  No.83,p2(1987)

2)厚生省薬務局:薬剤と光線過敏症、医薬品副作用情報 No.100,p10(1990)

3)高橋隆一他:薬の副作用チェックマニュアル、中外医学社,東京,p52(1994)