1.テガフール・ウラシルと膵炎
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|成分名 |該当商品名 |
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、テガフール・ウラシル 、ユーエフティ(大鵬薬品) 、
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|薬効分類等:抗悪性腫瘍代謝拮抗剤 |
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|効能効果:頭頚部癌、胃癌、結腸・直腸癌、肝臓癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、|
| 肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚癌の自覚的・他覚的症状の寛|
| 解 |
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(1)症例の紹介
薬剤性膵炎の原因薬剤としてこれまでに知られているものには、フロセミド等の利
尿剤、L−アスパラギナーゼ等の抗悪性腫瘍剤、プレドニゾロン等の副腎皮質ホルモ
ン剤やアザチオプリン等の免疫抑制剤等がある。
テガフール・ウラシルはフルオロウラシルの腫瘍内濃度を高く維持するためにテガ
フールに核酸構成成分であるウラシルを配合した製剤であり、本剤を投与された患者
で膵炎が発現したとする症例が3例報告されている。報告された症例は男性2例、女
性1例、年齢は48〜83歳でいずれも消化管癌の手術後に本剤が投与されている。
投与期間は10〜123日と症例によりかなり差がある。また再投与した症例におい
ては、再投与から4日で膵炎の発現をみている。
報告された症例の一部を紹介する(表1)。
(2)安全対策
これまで報告された3例をみると、テガフール・ウラシル投与中に腹痛、嘔吐が発
現し、血清アミラーゼ値上昇等が認められている。他の抗癌剤が同時期に併用されて
いる場合もあり、それらの関与も否定できない。しかしながら、テガフール・ウラシ
ルの再投与により同様の症状が再発している症例があることから、報告数は3例と少
ないものの本剤投与と膵炎発現との因果関係は否定できない。
したがって、本剤投与中に腹痛、血清アミラーゼ値の上昇等が認められた場合には
膵炎を疑い、投与を中止し適切な処置を行う必要がある。
本剤の「使用上の注意」の副作用の項には既に血清アミラーゼ値上昇の記載を行っ
ていたが、膵炎発現についての注意を喚起するため下記の改訂を行った。
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<テガフール・ウラシル>
副作用
膵臓:まれに急性膵炎があらわれることがあるので、観察を十分に行い、腹痛、血
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清アミラーゼ値上昇等が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
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表1 症例の概要
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|No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 69 |
| 使用理由 結腸癌術後 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:4カプセル(テガフールとして400mg)/日、約4ヵ月 |
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|副作用−経過及び処置 |
|右半結腸切除(治癒切除)術施行後、1ヵ月後から本剤の投与を開始した。投与約|
|3ヵ月後に軽度の両手・足の色素沈着、食欲低下を認め、更に1ヵ月後色素沈着、|
|食欲低下ともに顕著となった。本剤の投与を中止したが夕方から上腹部痛が発現 |
|し、保存的治療にて一時やや軽快するも、3日後再度上腹部痛が強くなり、黄疸を|
|認め、生化学検査にて、血清アミラーゼ、GOT、GPT、総ビリルビンの上昇を|
|認めた。また、胸部及び腹部X線には特に異常は認められなかった。絶食、抗生物|
|質、メシル酸ガベキサート等の投与を行い、2日後には上腹部痛、黄疸は回復傾向|
|であった。約1週間後に色素沈着も軽快し、ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造|
|影法)、腹部CTを行ったところ、肝、胆、膵に特に異常は認められなかった。 |
| |
|臨床検査値 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 投与前 投与34日目 投与61日目 中止後 中止後 中止後 |
| 4日目 6日目 10日目 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 総ビリルビン 0.3 0.9 1.2 3.9 1.2 1.2 |
| (mg/dl) |
| GOT 31 30 28 437 35 15 |
| GPT 32 22 15 145 83 25 |
| 血清アミラーゼ 120 169 204 4072 251 188 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:健胃消化剤 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 83 |
| 使用理由 胃癌術後 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:4カプセル(テガフールとして400mg)/日 |
| 1回目投与;約1ヵ月半、2回目投与;4日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|胃部分(治癒)切除術1ヵ月後から本剤の投与を開始した。同時にシスプラチン、|
|マイトマイシンC、エトポシドを週1回で投与を開始した(計6回投与)。3剤投|
|与終了18日後(テガフール・ウラシル投与開始から約1ヵ月半)に腹痛、嘔吐、|
|下痢、ショックを起こし、US及びCT上膵腫大、腹水、血清アミラーゼ2426、ヘ|
|マクリット値≦30、総蛋白5.6、血小板数51000にて重症急性膵炎と診断し、本剤の|
|投与を中止とした。メシル酸ガベキサート、ウリナスタチン、抗生物質等にて処置|
|し、2週間後CTにて改善を認め、副作用発現から1ヵ月後回復した。その後約2|
|週間後に本剤を再投与したところ、4日後に腹痛、嘔吐、下痢を認め、血清アミラ|
|ーゼ884と上昇した。前回と同様の処置を行い2週間後に状態が安定し発症から約 |
|2ヵ月後に軽快した。 |
| |
|臨床検査値 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 1回目投与 2回目投与 |
| 投与54日目 中止後31日目 投与4日目 中止後14日目 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 血清アミラーゼ 2426 152 884 135 |
| リパーゼ 668 15 297 14 |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:シスプラチン、マイトマイシンC、エトポシド、胃粘膜抽出製剤、 |
| シアノコバラミン、総合消化酵素剤、止瀉剤 |
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