1.ドロキシドパと悪性症候群

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|成分名             |該当商品名              |

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、ドロキシドパ          、ドプス(住友製薬)          、

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|薬効分類等:抗パーキンソン剤                      |

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|効能効果:パーキンソン病(Yahr重症度ステージIII)におけるすくみ足、たち |

|     くらみの改善                         |

|     シャイドレーガー症候群、家族性アミロイドポリニューロパチーにお|

|     ける起立性低血圧、失神、たちくらみの改善           |

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(1)悪性症候群

 悪性症候群は、フェノチアジン系、ブチロフェノン系などの抗精神病薬による治療

中に高熱、意識障害、筋強剛、発汗、脱水症状などを呈する重篤な副作用であり、1960

年代にフランスで報告された。我が国でも使用上の注意には、フランス語のSyndrome 

Malin(サンドローム・マラン)が用いられている。英語では、Neuroleptic Malignant

Syndromeであるが「悪性」は放置するとときに死に至る重い副作用という意味を示し

ていた。最近では抗精神病薬だけでなく、抗うつ薬(塩酸アミトリプチリンなど)、

炭酸リチウム、スルピリド、塩酸メトクロプラミドの投与中や、レボドパ、塩酸アマ

ンタジンなどの抗パーキンソン剤の突然の休薬によって起こることも知られている。

主な発症の機序としては、脳内のドーパミン受容体の働きが急激に遮断されることに

よると考えられている。このほかに、麻酔中に起こる悪性高熱症がSyndrome Malinと

類似していることから、骨格筋の筋小胞体からのカルシウム遊離が異常に促進される

ことも関連するという説もある。

 典型的な症状及び検査所見としては、体温上昇(40°を超える場合もあり、通常の

解熱剤には反応しない)、血清CPK値の上昇(数千から数十万mU/mlに達する場合もあ

る)、脱水状態、呼吸困難、白血球増多やGOT、GPT、LDHの上昇などがみられる。治

療としては原因薬剤が投与初期の場合は投与中止を、継続投与中の場合の投与量変更

後や投与中止後に症状があらわれた場合にはいったん元の投与量に戻し、その後慎重

に減量し、体冷却、水分補給等の対症的な全身管理を行う。治療薬としては、筋小胞

体のCa遊離抑制剤のダントロレンナトリウム等があり、近年は本症候群についての知

識の普及と治療法の進歩により死亡例は極めて少なくなっている(文献1)。



(2)症例の紹介

 ドロキシドパは、平成元年1月に承認された抗パーキンソン剤である。

 本剤投与により、悪性症候群を発現した症例が4例報告されている。報告された症

例は男性3例、女性1例、年齢は51〜71歳で、いずれの症例も原疾患のパーキン

ソン病は中等度から重度であり、投与初期に発現した1例は投与開始5日目で症状が

あらわれ、残る3例は継続投与中の用量変更時に発現しており、変更から発現まで3

〜4日で症状があらわれている。主な症状として、発熱(38°以上)、CPK上昇(4

mu/ml以上)がみられている。

 報告された症例の一部を紹介する。(表1)



表1 症例の概要

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|No.1                             企業報告|

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|患者 性          男                      |

|   年齢         54                     |

|   使用理由       パーキンソン病                |

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|1日投与量・投与期間:300mg(1年5ヵ月)              |

|           600mg(1ヵ月)                |

|           900mg(1ヵ月)                |

|           600mg(7日間)                |

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|副作用−経過及び処置                           |

|脊髄小脳変性症のパーキンソンニズムのため、抗パーキンソン剤の投与をしていた|

|が、すくみ足が強くなったのでドロキシドパの投与を開始し、約1年5ヵ月後すく|

|み足が更に強くなったので600mgに増量したが更にすくみ足が著明となり、転倒傾 |

|向が増加したので900mgに増量した。その後幻覚・妄想が出現し、本剤を減量した |

|ところ発熱(38-39°)し、本剤を中止した。1週間後CPKも1,161と高値となる。 |

|悪性症候群と診断し、ダントロレンナトリウムにて治療を開始した。ダントロレン|

|ナトリウム投与後約2ヵ月で軽快した。                   |

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|No.2                             企業報告|

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|患者 性          男                      |

|   年齢         71                     |

|   使用理由(合併症   アルツハイマー病(高脂血症)         |

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|1日投与量・投与期間:100mg 5日間                 |

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|副作用−経過及び処置                           |

|異常興奮、粗暴等があり、ハロペリドール等で治療を続けていたが、アルツハイマ|

|ー病に対し塩酸アマンタジンを投与した。その後、レボドパ・カルビドパ配合剤も|

|追加し、増量したところ歩行困難、動作緩徐となったため、ハロペリドールを減量|

|した。歩行困難はその後も持続。約1年後に起き上がり困難の訴えがあり、レボド|

|パ・カルビドパ配合剤を減量し、ドロキシドパの投与を開始したところ、5日目の|

|朝突然全身痙攣発作を起こし、昼に再度発作を起こしたため緊急転院となった。転|

|院時、意識はもうろうとしていて、筋固縮がかなり強く(特に四肢、頚部)、曲が|

|らない状態であった。水分補給のため点滴とダントロレンナトリウム注射の投与を|

|開始し、転院から6日目には経口摂取が可能となったため、ダントロレンナトリウ|

|ムの経口剤を追加した。その3週間後には臨床症状は改善した。        |

|                                     |

| 臨床検査値                               |

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|               投与中止日  投与中止3日目        |

|  血清CPK値(mU/ml)    371     2950         |

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|併用薬:ハロペリドール、レボドパ・カルビドパ配合剤、塩酸アマンタジン、  |

|    アルプラゾラム、ビンポセチン、イデベノン、ニセルゴリン      |

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(3)安全対策

 今回報告された4例はいずれの症例も典型的な悪性症候群とはいい難いが、悪性症

候群は一つの疾患ではなく様々な病態の下に生じる症候群と考えるべきであり、筋肉

の崩壊など多くの要因が関係している。

 報告された症例はいずれも全例に高熱と血清CPK値の上昇が認められていること、

また、ドロキシドパはノルエピネフリン作動性神経機能改善剤であり、薬理学的にも

悪性症候群を起こす可能性があること等から因果関係は否定できない。このため、ド

ロキシドパの「使用上の注意」に、Syndrome Malinが発現することがある旨を記載し、

注意を喚起することとした。



(4)報告のお願い

 悪性症候群は、これまでに抗精神病薬の投与量を急激に増量した時や抗パーキンソ

ン薬の投与を急に中止した時に起こることが知られているが、必ずしもこの原則どお

りの症例ばかりではない。また、抗うつ薬、ベンザミド系薬剤(メトクロプラミド等)

の投与によっても起こることが知られているので、これまで報告のなかった薬剤によ

り悪性症候群が起こる可能性も否定できない。なお、「悪性症候群」、「横紋筋融解

症」、「高CPK血症」は病態がかなり重複している概念であり、尿中のミオグロミンの

測定法が確立されていなかった頃には「横紋筋融解症」や「高CPK血症」も「悪性症候

群」の中に含められていた可能性があると考えられる。

 以上のことから、悪性症候群の疑いのある症例を経験した場合には、使用薬剤の種

類、投与量、投与期間等をできるだけ詳細に記載し報告をお願いしたい。





<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>

<ドロキシドパ>

副作用

 Syndrome malin:高熱、意識障害、高度の筋硬直、不随意運動、血清CPKの上昇等

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  があらわれることがあるので、このような場合には、投与開始初期の場合は中止

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  し、また、継続投与中の用量変更・中止時の場合は一旦もとの投与量に戻した後

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  慎重に漸減し、体冷却、水分補給等の適切な処置を行うこと。

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 その他:ときに胸痛、ほてり、浮腫、のぼせ、発熱、CPK上昇、眼瞼浮腫、倦怠感、

                         〜〜〜〜

  脱力感、両手の痛み、肩こりがあらわれることがある。



<参考文献>

1)厚生省薬務局:向精神薬による悪性症候群.医薬品副作用情報99、P12-13(1989)