3.バソプレシンと横紋筋融解症
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|成分名             |該当商品名              |
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|バソプレシン          |ピトレシン(三共)          |
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|薬効分類等:脳下垂体後葉ホルモン                    |
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|効能効果:下垂体性尿崩症、各種疾患に基づく多尿の鑑別、腸内ガスの除去(鼓|
|     腸、胆のう撮影の前処置、腎盂撮影の前処置)、食道出血の緊急処置|
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(1)症例の紹介
 バソプレシンは、脳下垂体後葉ホルモンであり、遠位尿細管における水分再吸収促
進による抗利尿作用、腹部内臓の細動脈収縮・門脈血量減少による食道出血時の止血
作用、腸管平滑筋に対する直接収縮作用などを有しており、下垂体性尿崩症、食道出
血の緊急処置等に用いられている。
 バソプレシン投与後に横紋筋融解症が発現したとする症例が2例報告されている。
 報告された症例の年令は51歳及び73歳で性別はいずれも男性であった。使用理
由は両例とも食道静脈瘤破裂に伴う食道出血であった。また、いずれも他の薬剤が同
時に併用されていたが、バソプレシンの投与後に筋肉痛、CPK上昇、血中及び尿中
ミオグロビン上昇等が確認されていること、初回投与後にCPK上昇を認め、投与中
止によりCPK値は正常化したが、再投与後に症状が発現している症例があることな
どから、バソプレシンが横紋筋融解症の発現に関与したことが強く疑われる。
 報告された症例の一部を紹介する。(表4)
 
表4 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         51                     |
|   使用理由(合併症)  食道静脈瘤破裂による食道出血(肝癌、肝硬変) |
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|投与量:288U/日 0.2U/分                    |
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|副作用−経過及び処置                           |
|多発性肝腫瘍患者の食道静脈瘤出血に対し内視鏡的静脈瘤結紮術を行ったが、その|
|翌日、吐血したことから、バソプレシンの持続静注を開始したところ、CPKの上|
|昇が認められた。その後投与中止によりCPKは正常化したが、約1ヵ月後再び吐|
|血し、下部食道からの潰瘍部出血を考え、輸血、止血剤、およびバソプレシンの再|
|投与を行ったところ、激しい筋肉痛、CPK、LDH、GOT等の急速な上昇が認|
|められ横紋筋融解症と診断し、バソプレシンの投与を中止した。その後赤色尿を呈|
|し、急性腎不全、高カリウム血症のため死亡した。              |
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|併用薬:ブクラデシンナトリウム、フロセミド、ファモチジン         |
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|No.2                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         73                     |
|   使用理由(合併症)  食道静脈瘤破裂による上部消化管出血(肝硬変、 |
|              糖尿病)                   |
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|投与量:0.4〜0.2U/分                       |
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|副作用−経過及び処置                           |
|肝硬変の治療中、患者が吐血したため内視鏡検査を行ったところ出血性潰瘍は認め|
|られず食道静脈瘤破裂と診断し入院。バソプレシン、ファモチジンの投与及び輸血|
|を開始し、投与2日目に四肢筋痛、筋力低下が発現したためバソプレシンを減量し|
|た(0.4−0.2U/分)。投与3日目にはCPK及び血中・尿中ミオグロビン値の急激な|
|上昇が認められた。投与4日目には更に上昇が認められたため、本剤の投与を中止|
|したが、翌日食道静脈瘤破裂により死亡した。                |
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(2)安全対策
 横紋筋融解症については高脂血症用剤に関して、本情報No.112(平成4年1
月)、No.119(平成5年3月号)で情報提供しているが、その病態は骨格筋の
融解、壊死により筋細胞成分が血液中に流出するというものである。自覚症状として
は四肢の脱力、痛み、赤色尿などがあり、検査所見としては、血中・尿中ミオグロビ
ンのほかCPK、GOT、GPT、LDH、アルドラーゼなど筋原性酵素の急激な上
昇が認められる。この場合同時に急性腎不全等の重篤な腎障害を併発することが多い。
 バソプレシン投与により横紋筋融解症が発現したとされる報告は、現在までに国内
では2症例であるが、いずれも本剤投与後に症状が発現しており、1例は再投与で症
状が再発していること等から判断して、バソプレシンと横紋筋融解症発現との関連は
否定できない。バソプレシンによる横紋筋融解症については既に外国で報告されてい
たが(文献1)、国内でも症例が認められたことから、バソプレシンの投与に際して
は、更に横紋筋融解症発現の可能性に留意する必要がある。
 現行の「使用上の注意」の「その他」の項には、外国における横紋筋融解症発現の
記載がなされているが、今般、新たに「副作用」の項に横紋筋融解症があらわれるこ
とがある旨を記載し、更に注意を喚起することとした。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<バソプレシン>
4.副作用
 (6)筋肉:筋肉痛、脱力感、CPKの上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特
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   徴とし、急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれることがあるので注
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   意すること。
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<参考文献>
1)Pierce,S.T.,et al.:American Journal of Gastroenterology,88:424(1993)