2.フマル酸ケトチフェンと膀胱炎様症状
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|成分名             |該当商品名              |
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|フマル酸ケトチフェン      |ザジテン(サンド薬品)他       |
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|薬効分類等:アレルギー性疾患治療薬                   |
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|効能効果:(ザジテン(経口剤)の場合)                 |
|    気管支喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹・皮膚炎、蕁麻疹、皮膚そう痒症|
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(1)症例の紹介
 フマル酸ケトチフェンは、アレルギー性疾患治療薬で昭和57年(1982年)に
経口剤が承認され、その後点鼻液、点眼液が承認されている。ケミカルメディエータ
ー遊離抑制に基づく抗ヒスタミン作用等を有し、かつ、気道及び鼻粘膜等の組織の過
敏性を減弱させる作用をもち、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等に用いられている。
これまでにフマル酸ケトチフェン投与により膀胱炎様症状を発現したとする症例が5
例報告されている。
 報告された症例は、性別が男性1例、女性4例、年齢は5歳〜56歳で、15歳以
下の症例が3例であった。本剤の使用理由は、蕁麻疹2例、皮膚炎1例、喘息及び喘
息様発作が各1例であった。投与開始から膀胱炎様症状発現までの期間は2年の症例
が1例あったものの、他の4例は24日〜2ヵ月程度であった。排尿痛、頻尿、血尿
等の自覚症状の他に、膀胱鏡の所見で膀胱粘膜の発赤(血管拡張)と浮腫、粘膜剥離、
出血巣の存在など強度の炎症等が認められた症例もあった。いずれの症例も薬剤投与
中に症状が発現しており、投与中止により症状の改善、回復がみられている。
 報告された症例の一部を表3に紹介する。
 
表3 症例の概要
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|No.1                      モニター報告、企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         39                     |
|   使用理由       蕁麻疹                    |
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|1日投与量・投与期間:2mg 1ヵ月                   |
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|副作用−経過及び処置                           |
|四肢内側の蕁麻疹にフマル酸ケトチフェンの投与を開始したところ、24日後から|
|肉眼的血尿、頻尿、排尿時痛が発現した。4日後、膀胱鏡にて粘膜の浮腫、発赤が|
|認められた。さらに4日後、本剤の投与を中止した。10日後入院したが、膀胱炎|
|様症状が軽快し始めており、肉眼的血尿も認めなかった。投与中止18日後に回復|
|した。                                  |
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|併用薬剤:フマル酸クレマスチン、トラネキサム酸、グルタチオン       |
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|No.2                      モニター報告、企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         13                     |
|   使用理由       喘息                     |
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|1日投与量・投与期間:1〜2mg 2年4ヵ月               |
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|副作用−経過及び処置                           |
|5歳頃から喘息様発作が発症し、数種の薬剤を投与されていたが、フマル酸ケトチ|
|フェン投与開始から1年10ヵ月後、症状悪化のためフマル酸ケトチフェン及び併|
|用していた柴朴湯を増量した。その後、頻尿が発現し、近医にて膀胱炎と診断され|
|た。その後も服用を継続し抗生物質等で加療するも症状が軽快しなかった。排尿回|
|数は1日20〜30回を数えた。膀胱鏡所見では膀胱粘膜に強度の炎症所見が認め|
|られた。投与中の薬剤すべてを中止したところ、排尿回数は1日10回以下に減少|
|した。投与中止9日後、喘息様発作のため、フマル酸ケトチフェンとテオフィリン|
|を投与したところ、頻尿が再発した。3日後投与を中止し、18日後には症状が回|
|復した。リンパ球幼若化試験を行ったところ、フマル酸ケトチフェンが陽性であっ|
|た。                                   |
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|併用薬剤:柴朴湯、テオフィリン、塩酸ブロムヘキシン、塩酸ツロブテロール  |
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(2)安全対策
 薬剤による膀胱炎様症状については、本剤の類薬であるトラニラストによるものが
報告されており、すでに本情報No.63(昭和58年10月号)で情報を提供し、
「使用上の注意」にも膀胱炎様症状の記載を行っている。また、本情報No.123
(平成5年11月号)では、「漢方製剤(柴朴湯、柴苓湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯)
と膀胱炎様症状」を掲載し、漢方製剤による膀胱炎様症状の発症についても注意を喚
起している。
 今回報告された症例はいずれも他の薬剤が同時に投与されており、なかには膀胱炎
様症状の発現が知られている漢方製剤(柴朴湯、小柴胡湯)との併用例が2例あった。
また、慢性膀胱炎の既往歴をもつ症例もあった。しかしながら、フマル酸ケトチフェ
ンの再投与により症状が再発した症例もあったことから、本剤と膀胱炎様症状発現と
の因果関係は否定できない。フマル酸ケトチフェンを投与中に膀胱炎様症状があらわ
れた場合には、本剤の投与を中止し適切な処置を行う必要がある。
 このため、フマル酸ケトチフェンの「使用上の注意」に膀胱炎様症状があらわれる
ことがある旨を記載することとした。
 また、今回の報告のなかには、症状発現後も薬剤投与を継続している症例があった
ことから、薬剤投与中に膀胱炎様症状が起った場合には、薬剤起因性膀胱炎の可能性
を考え、使用薬剤の投与を中止し、経過を観察するなど適切な処置をとることが必要
である。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<フマル酸ケトチフェン>
 副作用
  泌尿器:まれに頻尿、排尿痛、血尿、残尿感等の膀胱炎様症状があらわれること
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   があるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適
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   切な処置を行うこと。
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