1.インターフェロン−α製剤と自殺企図、間質性肺炎
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|成分名             |該当商品名              |
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|インターフェロン−α      |オーアイエフ(大塚製薬)       |
|                |IFNαモチダ(持田製薬)      |
|                |スミフェロン(住友製薬)       |
|インターフェロン−α−2a   |キャンフェロンA(武田薬品工業)   |
|       (遺伝子組換え型)|ロフェロンA(日本ロシュ)      |
|インターフェロン−α−2b   |イントロンA(シェリング・プラウ)  |
|       (遺伝子組換え型)|                   |
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|薬効分類等: その他の生物学的製剤                   |
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|効能効果:(スミフェロンの場合)                    |
|      腎癌、多発性骨髄腫、ヘアリー細胞白血病、慢性骨髄性白血病、 |
|      HBe抗原陽性でかつDNAポリメラーゼ陽性のB型慢性活動性 |
|      肝炎のウイルス血症の改善、C型慢性活動性肝炎におけるウイル |
|      ス血症の改善                        |
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1.drug induced-depression
 ある種の薬剤投与によりうつ状態が惹起され、重篤な場合には自殺企図に至る例が
あることが知られており、臨床的に注意すべき点の一つである。うつ状態を惹起する
薬剤としてはこれまでにレセルピン、塩酸フルナリジン、抗精神病薬、インターフェ
ロン(IFN)等が知られており、「使用上の注意」に必要な記載を行い注意を喚起
している。
 drug induced-depression への対応として重要な点は、原因と思われる薬剤の中断
ないし中止と、慎重な経過観察であるといわれている。抑うつの要因としては薬剤の
種類、用量、投与期間・経路、個人の既往歴・原疾患・病前性格、家族負因などがあ
げられる(文献1)。
 
(1)症例の紹介
 IFN−α製剤の「使用上の注意」にも既に重篤なうつ状態や自殺企図についての
記載を行い、注意を喚起してきたが、現在までにIFN−α製剤投与を受けた患者で
自殺企図があらわれたとする症例が32例報告され、うち12例が自殺により死亡し
ている。投与後の状況について情報が得られている症例では、IFN−α製剤の投与
後にうつ状態、不安、不眠、焦燥等があらわれ、その後自殺企図に至った症例が多い。
 報告された症例の一部を表1に紹介するとともに、以下に患者背景等について述べ
る。
1.年齢
 26歳から67歳であった。
2.性別
 男性20例、女性12例であった。
3.原疾患
 C型慢性活動性肝炎(C型肝炎を含む)26例、B型肝炎1例、慢性骨髄性白血病
3例、多発性骨髄腫1例、腎癌1例であった。
4.投与開始から発現までの期間
 IFN−α製剤投与開始から、自殺企図発現までの期間を表2に示す。
 
表1 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         37                     |
|   使用理由       C型慢性活動性肝炎              |
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|1日投与量・投与期間:α−2a 900万単位 14日間(連日)      |
|           600〜300万単位 3週間(週3回間欠)     |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|IFN−α−2aの投与開始から2週間後に退院し、間欠投与に変更した。投与開|
|始から約1ヵ月後に不眠、不穏状態が発現したため投与量を減量した。その後外来|
|受診時に表情が硬く、異常言動があり危険と判断し、入院させジアゼパム、塩酸イ|
|ミプラミンを投与した。翌日には表情が柔らかくなり、改善がみられたが、翌々日|
|早朝、自殺を図った。クロルプロマジンの投与を行い入眠したが、夕方起き上がり|
|再度自殺を図った。4日後には不穏状態は消失した。             |
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|No.2                             企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          女                      |
|   年齢         57                     |
|   使用理由       C型慢性活動性肝炎              |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:α−2b 1000万単位 14日間(連日)     |
|           10週間(週3回間欠)               |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|IFN−α−2bの投与前から神経症的であった。投与後も同様の訴えがあったが|
|軽微であったため投与を継続した。抗うつ薬を投与したところ動悸が発現したため|
|、1回のみで投与を中止した。特に訴えなく精神的な落ち込みもなかったが、投与|
|から約3ヵ月後に自殺を図った。                      |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
表2 IFN−α製剤投与開始から、自殺企図発現までの期間
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  期   間            症 例 数
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  1ヵ月未満              3
  1ヵ月以上2ヵ月未満        13
  2ヵ月以上3ヵ月未満         9
  3ヵ月以上4ヵ月未満         3
  4ヵ月以上              4
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
5.既往
 うつ、精神病の既往のある症例が7例あった。
6.その他
 IFN−α製剤の投与中に自殺企図がみられた症例が23例で、他の9例は投与中
止又は投与終了後の発現であった。自殺企図発現の前に不眠、不安、焦燥、うつ状態、
妄想、異常言動があらわれている症例が多く、これらの症状に対し睡眠導入剤、抗不
安薬等が投与されていた症例もあった。
 
(2)安全対策
 自殺企図に至った原因については、得られている情報だけから判断するのは非常に
困難である。患者自身の性格、職場・家庭等の生活環境上の悩みやストレス、原疾患
及び原疾患に罹患したことによる心理的落ち込み、既往歴等、様々な要因が考えられ、
IFN−α製剤との関係については不明な点が多い。しかしながらIFN−α製剤に
よりうつ状態が発現することは以前より知られており、報告された症例もIFN−α
製剤の投与後にうつ状態が認められている症例があることから、薬剤により惹起され
たうつ状態により自殺企図に至った可能性は否定できない。うつ状態以外に不眠、不
安、焦燥、妄想、異常言動といった精神神経症状を発現した症例もあったことから、
IFN−α製剤の投与にあたっては患者の精神状態に十分注意し、うつ状態があらわ
れた場合には投与を中止し、その後の経過を慎重に観察する必要がある。また、投与
後にうつ状態以外に不眠、不安、焦燥等があらわれた症例も報告されているため、こ
れらの症状があらわれた場合にも経過観察を慎重に行い、投与中の場合は投与の中止
について慎重に検討する必要がある。これら精神神経症状への対応と投与継続の可否
検討に関しては、治療担当医と精神科等の専門医が連絡を取り合うことが重要である。
 また、IFN−α製剤の投与前には患者及び家族に対する説明・指導が不可欠であ
り、事前にうつ状態、自殺企図等の発現の可能性について十分理解させ、不眠、不安
等があらわれた場合には直ちに連絡するように注意を与えておく必要がある。
 これまでにも、IFN−α製剤の「使用上の注意」には一般的注意の項に「重篤な
うつ状態があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察すること」との記載
を行い、その他の項に自殺企図に関する記載も行うなど注意を喚起してきたが、その
後の発現状況を勘案し、今回更に、自殺企図について警告欄を新設し、一般的注意、
副作用の各項の記載を整備し、より一層の注意を喚起することとした。
 
 
2.小柴胡湯併用例における間質性肺炎
 本情報No.118(平成5年1月号)で情報提供を行った間質性肺炎については、
小柴胡湯との併用例で多く報告されている点を強調したが、その後も併用例での発現
が報告されている。No.118では31例中20例(65%)が小柴胡湯併用例で
あったのに対し、No.118による情報提供後の発現例はこれまでに46例報告さ
れており、うち11例(24%)が小柴胡湯併用例であった。前回の情報提供後も両
剤の併用による間質性肺炎の発現例が報告されているため、安全性の観点から両薬剤
の併用を禁忌とする改訂を行うこととした。両薬剤ともにそれぞれ単独でも間質性肺
炎を起こすことが知られているため、投与にあたっては咳や呼吸困難等があらわれた
場合には直ちに医師に連絡するよう患者を指導する点について一般的注意に記載し、
間質性肺炎についてより一層の注意を喚起することとした。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
〈インターフェロン−α注射液、注射用乾燥インターフェロン−α、注射用乾燥イン
ターフェロン−α−2a、注射用乾燥インターフェロン−α−2b〉
 
警告
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|本剤の投与により間質性肺炎、自殺企図があらわれることがあ|
|〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜|
|るので、「使用上の注意」に十分留意し、患者に対し副作用発|
|〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜|
|現の可能性について十分説明すること。          |
|〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜          |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
一般的注意
 (1)間質性肺炎があらわれることがあるので、発熱、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器
   症状があらわれた場合には、速やかに胸部X線等の検査を実施し、本剤の投与
   を中止するとともに適切な処置を行うこと。また、咳嗽、呼吸困難等があらわ
                       〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   れた場合には直ちに連絡するよう患者に対し注意を与えること。なお、間質性
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   肺炎は小柴胡湯との併用例で多く報告されているため、併用を避けること。
                         〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 (2)重篤なうつ状態、自殺企図があらわれることがあるので、患者の精神状態に
           〜〜〜〜〜                 〜〜
   十分注意し、不眠、不安、焦燥等があらわれた場合には投与を中止するなど、
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   投与継続の可否について慎重に検討すること。また、投与にあたってはこれら
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   精神神経症状発現の可能性について患者及びその家族に十分理解させ、不眠、
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   不安等があらわれた場合には直ちに連絡するよう注意を与えること。
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
禁忌
  小柴胡湯を投与中の患者
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  自己免疫性肝炎の患者 
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
相互作用
  (1)小柴胡湯との併用例で間質性肺炎の発現が報告されているので、併用を避
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    けること。
    〜〜〜〜〜
 
副作用
 精神・神経系:抑うつ、自殺企図、また、ときに痙攣、眠気、意識障害、見当識障
            〜〜〜〜〜
 害、せん妄、錯乱、幻覚、不安、不眠、焦燥、興奮、躁状態、めまい、知覚異常、
          〜〜〜
 また、まれに痴呆様症状(特に高齢者)等があらわれることがある。
 
<参考文献>
1)厚生省薬務局:医薬品による抑うつ,医薬品副作用情報 No.115,p9-10(1992)