1.漢方製剤(柴朴湯、柴苓湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯)と膀胱炎様症状
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|成分名             |該当商品名              |
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|柴朴湯             |ツムラ柴朴湯エキス顆粒(ツムラ)他  |
|柴苓湯             |ツムラ柴苓湯エキス顆粒(ツムラ)他  |
|小柴胡湯            |ツムラ小柴胡湯エキス顆粒(ツムラ)他 |
|柴胡桂枝湯           |ツムラ柴胡桂枝湯エキス顆粒(ツムラ)他|
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|薬効分類等:漢方製剤                          |
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|効能効果:(ツムラ柴朴湯エキス顆粒の顆粒の場合)            |
|      気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、時に動悸、めま |
|      い、嘔気などを伴う次の諸症                 |
|        小児ぜんそく、気管支ぜんそく、気管支炎、せき、不安神経症|
|     (ツムラ柴苓湯エキス顆粒の場合)               |
|      吐き気、食欲不振、のどのかわき、排尿が少ないなどの次の諸症 |
|        水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ       |
|     (ツムラ小柴胡湯エキス顆粒の場合)              |
|      体力中等度で上腹部がはって苦しく、舌苔を生じ、口中不快、食欲|
|      不振、時により微熱、悪心などのあるものの次の諸症      |
|        諸種の急性熱性病、肺炎、気管支炎、感冒、胸膜炎・肺結核な|
|        どの結核性諸疾患の補助療法、リンパ節炎、慢性胃腸障害、肝|
|        機能障害、産後回復不全                 |
|     (ツムラ柴胡桂枝湯エキス顆粒の場合)             |
|      発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸|
|      症                             |
|        感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患、胃潰瘍・十二指腸|
|        潰瘍・胆のう炎・胆石・肝機能障害・膵臓炎などの心下部緊張|
|        疼痛                          |
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(1)漢方製剤と副作用
 漢方薬は、その作用が緩和で、また、副作用が少ないとされ、医療用医薬品のみな
らず一般用医薬品としても広く使用されている。しかし、頻度は低いものの肝障害等
の副作用の発現が知られている。漢方製剤による副作用としては、「小柴胡湯による
間質性肺炎」について本情報No.107(平成3年3月号)及び、No.118(
平成5年1月号)で情報提供を行い、さらに解説として「漢方薬の副作用」No.
111(平成3年11月号)、「生薬製剤(漢方薬を含む)による薬剤性肝障害」
No.117(平成4年11月号)を掲載し、注意喚起を図ってきた。
 
(2)症例の紹介
 漢方製剤による膀胱炎様症状については本情報No.111に小柴胡湯によるアレ
ルギー性膀胱炎、柴胡桂枝湯による好酸球性膀胱炎が1例ずつ紹介されている。これ
らの報告を含めこれまでに漢方製剤投与により排尿困難、排尿痛、頻尿、膿尿、血尿
などの症状を示す膀胱炎様症状を発現したとする報告が計8例報告されている。
 処方別にみると、柴朴湯3例、柴苓湯2例、小柴胡湯2例、柴胡桂枝湯1例となっ
ている。使用薬剤と原疾患の関係では、柴胡桂枝湯、柴朴湯は気管支喘息等、柴苓湯
は尿蛋白等、小柴胡湯は慢性肝炎等であった。性別は、男性1例、女性7例であった。
また、投与開始から膀胱炎様症状発現までの期間は6ヵ月が1例あるものの、他の症
例では1年4ヵ月から3年9ヵ月と期間に差がみられた。すべての症例が漢方製剤投
与中に膀胱炎様症状が発現し、投与中止で症状の改善をみている。さらに症状改善後、
前記薬剤を再投与したところ、同様の症状が発現した例も5例あった。8例中7例が
漢方製剤の中止により症状が回復していることにより、漢方製剤と膀胱炎様症状発現
との関係が強く疑われる。残る1例(柴朴湯)は漢方製剤の投与前にフマル酸ケトチ
フェンが投与され、さらにフマル酸ケトチフェンの再投与により症状が再発している
ため柴朴湯の関与に関しては不明である。
 報告された症例の一部を紹介する(表1)。
 
 
表1 症例の概要
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|No.1                  モニター報告、企業報告、文献1|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         16                     |
|   使用理由(合併症)  気管支喘息                  |
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|1日投与量・投与期間:柴朴湯5.0g、約3年1ヵ月            |
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|副作用−経過及び処置                           |
|気管支喘息のため、柴朴湯の投与を開始したが、2年11ヵ月後、残尿感、排尿痛|
|が発現した。尿路感染症と診断し約1ヵ月半抗生物質を投与したが、症状は改善し|
|なかった。膀胱鏡の検査結果でトラニラスト誘発膀胱炎様症状の所見に似ているこ|
|とから柴朴湯による副作用を疑い、投与を中止した。中止10日後、検査値はほぼ|
|正常に戻った。                              |
|柴朴湯の再投与を行ったところ、再び残尿感、排尿痛が発現した。       |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 検査値      投与前 投与中(2年11ヵ月) 投与中止後(1ヵ月) |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 尿蛋白       0     100         0       |
| (mg/dl)                                |
| 沈渣 赤血球          1/3         0       |
| 沈渣 白血球   1/2    40/1        1/1     |
| 中間尿細菌培養         (−)                 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2                      モニター報告、企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         7                      |
|   使用理由(合併症)  ネフローゼ症候群               |
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|1日投与量・投与期間:柴苓湯2.7g、7ヵ月               |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|ネフローゼ症候群により柴苓湯の投与を開始した6ヵ月後、頻尿、膿尿が出現し |
|た。抗生物質を投与するも改善がみられず、難治性膀胱炎と診断し入院した。さら|
|に、抗生物質の投与を継続したが症状が改善しないため、発症1ヵ月後、柴苓湯の|
|投与を中止した。その後徐々に膿尿改善傾向を示し、投与中止2週間後に退院し |
|た。                                   |
|その後、柴苓湯の再投与を行っているが、頻尿、排尿痛、膿尿が出現し、中止によ|
|り改善している。                             |
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|No.3                      モニター報告、企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         68                     |
|   使用理由(合併症)  慢性肝炎(高血圧症、糖尿病、甲状腺機能亢進症)|
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|1日投与量・投与期間:小柴胡湯5.0g、約2年10ヵ月          |
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|副作用−経過及び処置                           |
|慢性肝炎のため小柴胡湯の投与を開始した2年8ヵ月後、頻尿、排尿痛を訴え、種|
|々の抗生物質を投与するも治癒しなかった。小柴胡湯を休薬したところ、7日後に|
|回復した。小柴胡湯の関与を疑い再投与を実施したところ、7日後に粘膜の発赤と|
|再発を認めたため、小柴胡湯のアレルギー性膀胱炎と判断した。小柴胡湯の中止に|
|より症状は回復した。                           |
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|併用薬:硫酸ペンブトロール、プロピルチオウラシル、ニフェジピン      |
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|No.4                      モニター報告、企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         5                      |
|   使用理由(合併症)  喘息様気管支炎                |
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|1日投与量・投与期間:柴胡桂枝湯3.75g、約3年4ヵ月         |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|喘息様気管支炎による柴胡桂枝湯の投与を開始した3年後、頻尿、排尿痛、尿中白|
|血球増多を認め、入院。尿路感染症として治療を受けていた。症状の改善がみられ|
|ないため、他院を受診したところ、尿中好酸球を多数認めたため、アレルギー性膀|
|胱炎を疑い、薬剤投与を中止した。中止12日後に症状及び尿中好酸球は消失し |
|た。その後併用していたフマル酸ケトチフェンを3週間投与したが、症状は認めら|
|れなかった。                               |
|柴胡桂枝湯を再投与したところ、13日後に膀胱炎様症状と尿中好酸球の増多を認|
|めた。                                  |
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|併用薬:フマル酸ケトチフェン                       |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
(3)安全対策
 今回報告された4処方では、サイコ、ハンゲ、オウゴン、ニンジン、タイソウ、カ
ンゾウ、ショウキョウの7成分が共通している。しかし、現時点では原因となった成
分やこれらの漢方製剤による膀胱炎様症状発現の機序については不明である。また、
膀胱炎様症状が薬剤起因性であることに気づかずに、症状が発現したのちも漢方製剤
の投与が継続された例もあったことから、漢方製剤を投与中に膀胱炎様症状が発現し
た場合には薬剤の投与を中止し、適切な処置を行う必要がある。このため、今回報告
のあった柴朴湯、柴苓湯、小柴胡湯及び柴胡桂枝湯の「使用上の注意」に必要な記載
を行い、注意を喚起することとした。
 
(4)報告のお願い
 漢方製剤による膀胱炎様症状としては、このほかに「温清飲」による膀胱炎様症状
の学会報告(文献2)がある。今回、報告のあった製剤以外の漢方製剤についても膀
胱炎様症状を起こす可能性があるため、同様の症例を経験した場合には報告をお願い
したい。
 また、薬剤による膀胱炎様症状発現については、今回報告された漢方製剤によるも
ののほか、トラニラストによるものが報告されており、すでに本情報No.63(昭
和58年10月)で情報提供を行っている。今回の報告症例のなかに、すでに膀胱炎
様症状を起こすことが知られているトラニラストの類薬であるフマル酸ケトチフェン
を併用している症例が2例あった。これら抗アレルギー薬による膀胱炎様症状の発現
についても今後注目していく必要があると考えられるので、同様の症例を経験した場
合には報告をお願いしたい。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<柴朴湯、柴苓湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯>
 副作用
  泌尿器:まれに頻尿、排尿痛、血尿、残尿感等の膀胱炎様症状があらわれること
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    があるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、
    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    適切な処置を行うこと。
    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
<参考文献>
1)井口淑子他:小児科診療,7:1383(1993)
2)米瀬淳二他:日本泌尿器科学会第479回東京地方会(1991)