3.インタ−フェロン製剤(α、β)と眼底出血
+−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|成分名            |該当商品名               |
+−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|インターフェロン−α     |オ−アイエフ(大塚製薬)        |
|               |IFNαモチダ(持田製薬)       |
|               |スミフェロン(住友製薬)        |
|インターフェロン−α−2a  |キャンフェロンA(武田薬品工業)    |
|      (遺伝子組換え型)|ロフェロンA(日本ロシュ)       |
|インターフェロン−α−2b  |イントロンA(シェリング・プラウ)   |
|      (遺伝子組換え型)|                    |
|インターフェロン−β     |IFNβモチダ(持田製薬)       |
|               |フエロン(東レ)            |
+−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|薬効分類等:その他の生物学的製剤                    |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果:(スミフェロンの場合)                    |
|     腎癌、多発性骨髄腫、ヘアリー細胞白血病、慢性骨髄性白血病、  |
|     HBe抗原陽性でかつDNAポリメラーゼ陽性のB型慢性活動性肝炎|
|     のウイルス血症の改善、C型慢性活動性肝炎におけるウイルス血症の|
|     改善                             |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
(1)症例の紹介
 眼底出血は、網膜、脈絡膜、視神経乳頭部、硝子体の出血をいい、特に治療の必要
がない場合もあるが、視力低下をきたすような場合には治療が必要だといわれている。
 インターフェロン(IFN)製剤の投与により眼底出血を発現したとする症例が
27例報告されている。報告された症例は視力低下感、飛蚊視等を訴える場合もある
が、多くは自覚症状がない症例である。報告された症例の一部を表3に紹介するとと
もに、以下に患者背景等について示す。
 年齢は27〜70歳で、50歳以上が17例であった。性別は男17例、女9例、
不明1例であった。IFN成分別にみると、αが11例、α−2aが9例、α−2b
が6例、βが1例であり、原疾患としてはC型慢性活動性肝炎が24例、以下B型慢
性活動性肝炎2例、慢性骨髄性白血病1例であった。投与開始から眼底出血発現(確
認)までの期間は27例中20例(74%)が3ヵ月未満であった(表4)。最も短
い症例は14日、長い症例は約6ヵ月であった。
 
表3
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|No.1                         企業報告、文献1|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         59                     |
|   使用理由(合併症)  C型慢性活動性肝炎              |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:α、600万単位 12日間(連日)         |
|             300万単位 約5ヵ月間(週3回)       |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|C型慢性活動性肝炎に対してIFN−αの投与を開始したところ下痢を訴えたため|
|、2日間休薬し、以後週3回に減量した。投与開始から20週後飛蚊視、眼がかゆ|
|いなどの訴えにて受診したところ、視力低下を認め、眼底出血(右点状出血)が認|
|められた。特別な治療はせず、眼底検査を繰り返しながら、投与を継続した。その|
|後自覚症状は続いたが、点状出血はうすくなり、IFN−α投与終了時には自覚症|
|状、点状出血は消失した。                         |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2                         企業報告、文献1|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         49                     |
|   使用理由(合併症)  C型慢性活動性肝炎              |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:α−2b、1000万単位 12日間(1日休薬)   |
|                約14週間(週3回)           |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|IFN−α−2b投与開始後約12週後に自覚症状なく、眼底所見は線状出血、軟|
|性白斑を認めた。投与開始16週後に線状出血はほぼ消失し、軟性白斑は小さくな|
|っていた。                                |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3                             企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         52                     |
|   使用理由(合併症)  C型慢性活動性肝炎(糖尿病)         |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:α−2a、900万単位 15日間(連日)      |
|                600万単位 5ヵ月半(週3日)     |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|IFN−α−2a投与前から軽度の眼底出血がある患者に治療を開始したところ、|
|約4ヵ月半後に眼底出血が著明となった。その1ヵ月後に眼底出血が増悪したため|
|、光凝固療法を行った。IFN投与終了後軽快(眼底にわずかな出血斑を認めるの|
|み)。                                  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
表4 発現時期
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 期間             症例数
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 1ヵ月未満           5
 1ヵ月以上2ヵ月未満      8
 2ヵ月以上3ヵ月未満      7
 3ヵ月以上4ヵ月未満      2
 4ヵ月以上           5
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
(2)安全対策
 報告された眼底出血の自覚症状としては、飛蚊視、眼のかゆみ・かすみ、視力低下
感等があり、その後眼底検査により軟性白斑(綿花様白斑)、網膜出血等が確認され
ているが、視力低下感等の自覚症状が認められた症例は10例のみで、8例について
は自覚症状が認められていない。残る9例については発現時の情報がなく、自覚症状
の有無についても不明であることから、症例数が多いものの、因果関係や発生頻度を
評価するための情報が十分得られているとはいいがたい。また、糖尿病(7例)、高
血圧症(4例)、貧血(1例)を合併している症例があり、本来これらの疾患では眼
底出血がみられることが知られている。さらに、報告された症例の多くは重篤とはい
えず、27例中6例はIFN製剤の投与を中止しているが、他の症例は投与を継続し、
投与中又は投与後に症状が回復もしくは軽快している。以上の点から、因果関係につ
いて不明な点が多いものの、IFN製剤の投与後に眼底出血が発現しているため、薬
剤の関与について完全には否定できない。また、これらはIFN製剤による網膜の微
小循環障害により発現したとする報告がある(文献1、2)が、C型肝炎ウイルスが
関与しているとする報告もある(文献3)。
 したがって、IFN製剤の投与にあたっては眼底出血があらわれるおそれがあるの
で、患者の状態を観察し、視力低下、飛蚊症、眼のかゆみ等があらわれた場合には、
適切な処置を行う必要があると考えられる。投与中の患者の視力低下感、飛蚊視等の
自覚症状の訴えに注意し、異常が認められた場合には眼底検査を行い、IFN製剤の
投与継続の可否についても検討する必要があると考えられる。
 今般、IFN製剤の「使用上の注意」の副作用の項に眼底出血があらわれることが
ある旨の記載を行い、注意を喚起することとした。
 
(3)報告のお願い
 IFN製剤は多彩な生物活性を有しており、副作用についてもすでに多くの症状が
知られている。本情報でもNo.107(平成3年3月号)で「痙攣」、No.11
5(平成4年7月号)で「自己免疫現象」、No.118(平成5年1月号)で「間
質性肺炎」について情報提供を行い、No.117(平成4年11月号)には専門家
による副作用全般の解説も紹介し、注意を喚起してきている。
 上記のごとくこれまでにもIFN製剤についての副作用について情報提供を行って
きたが、本剤の使用状況から勘案し、今後も新たな副作用が発現する可能性がある。
今回の眼底出血をはじめ、これまでに知られている副作用症状又は新たな副作用症状
と考えられる症例を経験した場合には、投与の前後の症状、臨床検査値等の情報がと
くに重要になるので、これらも考慮のうえ報告をお願いしたい。
 
<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>
「インターフェロン−α注射液、注射用乾燥インターフェロン−α、注射用乾燥イン
ターフェロン−α−2a、注射用乾燥インターフェロン−α−2b、インタ−フェロ
ン−β」
副作用
 眼:眼底出血等の網膜の微小循環障害があらわれることがあり、飛蚊視、視力低下
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 感等を伴うことがあるので、このような症状があらわれた場合には適切な処置を行
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 うこと。
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<参考文献>
1)関 孝一他:肝臓,34:385(1993)
2)宮本和久他:あたらしい眼科,10:497(1993)
3)阿部 徹他:臨床眼科,47:297(1993)