1.アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤服用患者におけるLDLアフェレー
  シス施行時のショック
+−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|成分名            |該当商品名               |
+−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|アラセプリル         |セタプリル(大日本製薬)        |
|マレイン酸エナラプリル    |レニベ−ス(萬有製薬)         |
|カプトプリル         |カプトリル、同−R(三共)       |
|シラザプリル         |インヒベース(日本ロシュ)       |
|塩酸デラプリル        |アデカット(武田薬品工業)       |
|塩酸ベナゼプリル       |チバセン(日本チバガイギー)       |
|リシノプリル         |ロンゲス(塩野義製薬)、ゼストリル(ゼネ|
|               |                  カ)|
+−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|薬効分類等:血圧降下剤                         |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果:(カプトプリル普通錠の場合)                 |
|     本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
(1)高脂血症とLDLアフェレーシス療法
 高脂血症は、血清中の脂質成分(コレステロール、トリグセリド、リン脂質、遊離
脂肪酸)のいずれかまたはそのうちの複数の濃度が高い状態である。WHO分類によ
れば、血清中のカイロミクロンの増加する1型、LDL(low density lipoprotein)
が増加する2a、3b型、IDL(Intermediate density lipoprotein)の増加する
3型、VLDL(very low density lipoprotein)が増加する4型、カイロミクロン
とVLDLの増加する5型に分類される。治療は原則としては、生活指導や食事療法
であるが、これらの療法で効果のみられない場合に、薬物療法が行われている。さら
に、難治性家族性高脂血症等で薬物療法にも反応しない症例において、特殊な療法と
して、部分的回腸バイパス手術や門脈・下大静脈吻合術や血漿交換、プラズマフェレ
ーシス等がある。プラズマフェレ−シスのなかでも体外循環で分離された血漿中のL
DLを選択的に除去するLDLアフェレーシス(L−A)療法は、血清中LDLの濃
度が高い2a及び2b型に有効であり、我が国をはじめ各国で行われている。
 L−A療法は、体外循環において血漿分離器により分離した血漿をデキストラン硫
酸を固定したセルロースゲルを充填したカラムに通して、血漿中のLDLを選択的に
吸着させ、除去する治療法である。このLDL吸着器に使用されるカラムは、国内で
は、鐘淵化学工業(株)がリポソーバーLA−15、同LA−40、同LA−Sとい
う販売名で医療用具として認可を受け製造販売しており、難治性の家族性高コレステ
ロール血症、巣状糸球体硬化症及び閉塞性動脈硬化症の適応を有している。
 
(2)症例の紹介
 最近、海外において、ACE阻害剤服用中の患者がL−A療法を受けた際に、潮紅、
呼吸困難、血圧低下、徐脈等のアナフィラキシー様症状を発現したとする報告があり
(文献1〜3)、同様の症例について国内での調査を行ったところ、ACE阻害剤服
用患者のL−A施行時にショックを発現したとする症例が13例報告された。報告さ
れた症例の一部を表1に紹介するとともに、以下に患者背景等について示す。
a.年齢
 19歳から76歳までの広範囲にわたっているが、50歳未満4例、50歳代2例、
60歳代3例、70歳代4例であった。
b.性別
 男性11例、女性2例であった。
c.原疾患及び合併症
 L−A施行の原因疾患としては家族性高コレステロール血症5例、巣状糸球体硬化
症3例、閉塞性動脈硬化症5例であった。また、循環器系の疾患として、高血圧症8
例、狭心症7例、心筋梗塞1例が認められた。その他の合併症としては、糖尿病が最
も多く4例、慢性腎不全3例、ネフローゼ症候群2例、胃潰瘍2例、その他に脂肪肝、
慢性肝炎、肝機能障害、高尿酸血症が各1例であった。
d.服用したACE阻害剤の種類
 マレイン酸エナラプリル5例、カプトプリル2例、リシノプリル2例、アラセプリ
ル2例、シラザプリル2例であった。
e.副作用発現までのL−A施行回数について
 L−Aを以前から施行していて、途中からACE阻害剤の投与を開始した症例が6
例、反対にACE阻害剤を投与中の患者にL−A療法を導入した症例が7例あったが、
1例を除いた12例は併用後、初回のL−A施行時にショックを発現している。残る
1例についてもACE阻害剤を投与中にL−Aを開始し、併用後2回目の治療時にシ
ョックを発現している。
 なお、以前にL−Aを継続していた症例では、ACE阻害剤を併用する前は2〜
79回(このほかに最高7年間の治療を行っている症例があり、その回数は不明)の
治療を行っているが、特に異常は認められていない。
f.症状
 報告された全例について、急激な血圧低下が認められている。収縮期血圧が50〜
100oHgまで下がっており、60oHg以下になった症例が5症例あった。また、顔
面又は全身の潮紅が5例に認められ、嘔気又は嘔吐をきたしたものも4例に認められ
ている。また、腹痛、舌下や唇、手指のしびれ、熱感がそれぞれ3例ずつ認められた。
意識喪失、胸部圧迫感、頻脈はそれぞれ2例に認められ、チアノーゼも1例に認めら
れた。
g.転帰
 いずれの症例も酸素吸入、昇圧剤、副腎皮質ホルモン剤の投与等により回復してい
る。また、9例はショック発現後ACE阻害剤の投与を中止し、その後のL−Aで異
常を認めていない。なお、ショック症状発現後L−Aを続行し、治療を予定どおり終
了している症例が8例ある。
 
(3)安全対策
 L−A自体が血液を体外循環させて行う療法であることから、体内の循環血量不足
による血圧低下がショック発現の要因である可能性も否定はできないが、今回報告さ
れた症例はいずれもACE阻害剤投与中の患者にL−Aを施行した際にショックを発
現しており、その後ACE阻害剤を中止し、L−Aを継続して副作用の発現を認めて
いないことから、両者の併用によりショックが発現した可能性が強く疑われる。
 また、カプトプリルの投与症例で、L−A施行当日のみ薬剤の投与を中止すること
により異常が認められなかったとする症例がある一方、リシノプリルの投与症例で、
ショックが発現したためリシノプリルの投与を中止し3日後に再度L−Aを施行しシ
ョックが再発した症例もある。これらの差異は薬剤によって血中濃度半減期に差があ
るため、とする説もある。
 しかしながら、現在得られている情報からはACE阻害剤服用患者におけるL−A
施行中のショック発現の機序については不明であるものの、両者の併用によりショッ
クが発現するおそれがあるため、安全対策上L−A療法を必要とする患者にはACE
阻害剤を投与すべきではないと判断される。また、L−Aの対象患者は、高齢者が多
く、糖尿病、腎障害等多くの合併症をもつ場合があるため、他の薬剤においても相互
作用があらわれる可能性がある。したがって、L−A施行の際には、患者の状態に注
意し、ショックの発現に十分注意する必要がある。 ACE阻害剤とLDL吸着器の
「使用上の注意」に、両者の併用時にショックがあらわれることがあるのでL−A療
法を受けている患者にはACE阻害剤を投与しない旨を記載することとした。
 なお、ACE阻害剤は、呼吸困難を伴う顔面等の腫脹を症状とする血管浮腫があら
われることが以前から知られており、本情報No.84(昭和62年4月号)におい
て情報提供を行い、報告のあった薬剤の「使用上の注意」の副作用の項に記載してき
ている。これらの症状の発現頻度はきわめて低いものと考えられるが、重篤な副作用
症状であることから、今般、一般的注意の項にも記載を行い、より一層の注意を喚起
することとした。
 
(4)報告のお願い
 ACE阻害剤服用患者おけるAN69透析膜(ポリアクリロニトリル膜の一種)に
よる血液透析施行時のアナフィラキシー様症状については、すでに本情報No.115
(平成4年7月号)で海外における発現状況の情報提供を行った。国内ではまだAN
69膜使用時の同様の報告はないものの、今回のL−Aを含む体外循環療法における
ショック等の発現についての情報収集が重要と考えられる。同様の症例を経験した場
合には報告をお願いしたい。
 
<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>
「アラセプリル、マレイン酸エナラプリル、カプトプリル、シラザプリル、塩酸デラ
プリル、リシノプリル、塩酸ベナゼプリル(リポソーバーについても同様に改訂)」
一般的注意
 アンジオテンシン変換酵素阻害剤服用中の患者はデキストラン硫酸セルロースを用
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いたLDLアフェレーシス施行中にショックを発現することがあるので、LDLアフ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ェレーシスを受けている患者には投与しないこと。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
表1 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.1                           モニター報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         76                     |
|   使用理由(合併症)  閉塞性動脈硬化症、高血圧症(慢性腎不全、不眠)|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:リシノプリル10mg 約1ヵ月           |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|LDLアフェレーシス治療開始45分後に血圧低下(130/80−>74/− |
|mmHg)したため、治療を中止した。リシノプリルを中止し、3日後に再度治療|
|を行ったところ、血圧低下[146/70−>126/50mmHg(30分後)|
|−>測定不能(40分後)]、意識レベル低下、便失禁となった。生理食塩水投与|
|で回復した。。それ以降リシノプリル投与を継続し、LDLアフェレーシスの施行|
|を中止した。                               |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:ニフェジピン、メシル酸ドキサゾシン、フロセミド、         |
|    アルファカルシドール、ベラプロストナトリウム、塩酸リルマザボン  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2                             企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         48                     |
|   使用理由(合併症)  家族性高脂血症、高血圧症(慢性肝炎、腎障害、 |
|                                 狭心症)|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:マレイン酸エナラプリル5mg 5日間        |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|20回のLDLアフェレーシスを行い異常は認められていなかった。マレイン酸エ|
|ナラプリル投与開始後21回目のLDLアフェレーシス治療を行ったところ、治療|
|開始40分後に嘔吐、血圧低下(60/−mmHg)し、ショック状態となった。|
|補液、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、カルニゲンの投与で回復した。その|
|後、本剤の投与を中止し、LDL−アフェレーシス治療を続けているが、異常は認|
|められていない。                             |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3                             企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         63                     |
|   使用理由(合併症)  難治性ネロフーゼ症候群を伴う高脂血症、    |
|              慢性腎不全                  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:カプトプリル                    |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|LDLアフェレーシス治療2回目まで異常なし。カプトプリルの投与を開始し、3|
|回目治療時、血圧低下(収縮期血圧150→60mmHg)、胸部圧迫感、便意、|
|顔がほてる等の症状が発現した。生理食塩水、人血清アルブミンの補液により回復|
|した。その後、4、7、8回目のLDLアフェレーシス治療当日朝のカプトプリル|
|服用を休止して治療を行ったところ、異常はみられなかった。治療当日の朝もカプ|
|トプリルを投与した5、6回目の治療では、軽い血圧低下、顔がほてるなどの症状|
|が発現した。その後、LDLアフェレーシス施行当日朝のカプトプリル服用を中止|
|して治療を行っているが、異常は認められていない。             |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
<参考文献>
1)Olbricht,C.J.,et al.:Lancet,340:908(1992)
2)Kroon,A.A.,et al.:Lancet,340:1476(1992)
3)Keller,C.,et al.:Lancet,341:60(1993)