1.アルプロスタジル製剤とショック
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|成分名             |該当商品名              |
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|アルプロスタジル アルファデクス|注射用プロスタンディン(小野薬品)他 |
|アルプロスタジル(脂肪粒子製剤)|パルクス注(大正製薬)        |
|                |リプル(ミドリ十字)         |
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|薬効分類等:プロスタグランジンE1剤                  |
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|効能効果:[アルプロスタジル(脂肪粒子製剤)の場合]          |
|      ・慢性動脈閉塞症(バージャー病、閉塞性動脈硬化症)における四|
|       肢潰瘍ならびに安静時疼痛の改善              |
|      ・下記疾患における皮膚潰瘍の改善              |
          進行性全身性硬化症、全身性エリテマトーデス      |
|      ・振動病における末梢血行障害に伴う自覚症状の改善ならびに末梢|
|       循環・神経・運動機能障害の回復              |
|      ・動脈管依存性先天性心疾患における動脈管の開存       |
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(1)症例の紹介
 アルプロスタジル(プロスタグランジンE1)は、血管平滑筋弛緩作用による血流
量の増加及び血小板凝集抑制等の生理活性を有するプロスタグランジンの一種である。
 アルプロスタジル アルファデクスは、不安定なアルプロスタジルをα−シクロデ
キストリン包接化合物として安定化した注射剤で、低容量製剤(20μg)は慢性動
脈閉塞症(バージャー病、閉塞性動脈硬化症)に動・静脈内投与で用いられるほか、
血行再建術後の血流維持等に静脈内投与で用いられる。また、高容量製剤(500μ
g)は高血圧症または軽度の虚血性心疾患を合併する患者の外科手術時の低血圧維持
等に用いられる。
 アルプロスタジル(脂肪粒子製剤)は、アルプロスタジルを微細な脂肪粒子中に溶
解した注射剤で、慢性動脈閉塞症や振動病に用いられるほか、進行性全身硬化症・全
身性エリテマトーデスにおける皮膚潰瘍等に用いられる。
 これらのアルプロスタジル製剤の投与後にショックを発現した症例が5例報告され
ている。報告された5例は、男3例、女2例、年齢は28歳〜82歳で、うち3例が
50歳以上であった。また、4例が閉塞性動脈硬化症等の動脈閉塞症に使用されてお
り、1例が手術時の低血圧維持に使用されていた。製剤別にみるとアルプロスタジル
アルファデクス1例、アルプロスタジル(脂肪粒子製剤)4例であった。うち4例は
初回投与後に発現しており、残る1例も2日目の投与後に発現している。いずれの症
例も急激な血圧低下をきたし、ショック状態となり意識障害等を伴っている。また、
1例では全身発赤も認められている。
 いずれの症例もアルプロスタジル製剤の投与後に症状が発現しており、薬剤との関
係は否定できない。
 報告された症例の一部を紹介する(表1)。
 
表1 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         74                     |
|   使用理由(合併症)  閉塞性動脈硬化症、腰部脊柱管狭窄症(高血圧症)|
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|投与量:アルプロスタジル(脂肪粒子製剤)10μg             |
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|副作用−経過及び処置                           |
|閉塞性動脈硬化症の患者にアルプロスタジル注射液を投与したところ、投与1〜2|
|分後に血圧の低下及び意識レベルの低下が発現し、ショック症状を呈した。直ちに|
|昇圧剤の投与を行ったが、血圧測定不能、意識レベルの低下がさらに進行し、嘔吐|
|、発汗、尿・便失禁が認められた。輸液、副腎皮質ホルモン剤の投与等を行ったと|
|ころ、血圧、意識レベルともに速やかに回復した。              |
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|No.2                         企業報告、文献1|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         48                     |
|   使用理由(合併症)  血腫除去手術時の低血圧麻酔          |
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|投与量:アルプロスタジル アルファデクス0.04μg/kg/分      |
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|副作用−経過及び処置                           |
|右中大脳動脈破裂による血腫の除去手術麻酔時の低血圧維持のため、アルプロスタ|
|ジル アルファデクスを投与したところ、投与20分後に血圧低下、房室ブロック|
|が発現し、ショック症状を呈した。直ちに急速輸液、カテコールアミン、副腎皮質|
|ホルモン剤等の投与を行ったところ、徐々に症状は回復した。         |
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(2)安全対策
 アルプロスタジル製剤によるショックについては、一過性の心筋虚血により発現し
たとする説(文献1)があり、その原因としては冠動脈スパズムが考えられている。
 アルプロスタジル製剤の投与に際してはショックが発現するおそれがあるので、十
分な観察のもとに慎重に投与する必要がある。これまでも、「使用上の注意」に血圧
低下については記載を行っていたが、今回新たに、ショックがあらわれることがある
旨を記載し、注意を喚起することとした。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<アルプロスタジル アルファデクス、アルプロスタジル(脂肪粒子製剤)>
 
4.副作用
 (1)ショック:まれにショックを起こすことがあるので、観察を十分に行い、異
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   常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
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<参考文献>
1)内橋慶隆他:日立医学会誌、12(57):62(1990)