2.カプトプリルと天疱瘡様症状
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|成分名             |該当商品名              |
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| カプトプリル         |カプトリル、カプトリル−R(三共−ブリ|
|                |               ストル)|
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|薬効分類等:降圧剤(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)          |
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|効能効果:(カプトプリル普通錠の場合)                 |
|     本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧症 |
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(1)症例の紹介
 カプトプリルはレニン・アンジオテンシン系に作用する経口降圧剤で、アンジオテ
ンシン変換酵素を阻害することにより生理的昇圧物質であるアンジオテンシンIIの
生成を抑制し降圧作用を示す代表的なACE阻害薬である。昭和57年(1982年)
に普通錠が、同63年(1998年)に徐放錠が承認されている。カプトプリルにお
ける皮膚及び過敏症の副作用としては、発疹、そう痒、光線過敏症、血管神経性浮腫
等が知られており、血管神経性浮腫については本情報No.84(昭和62年4月号)
で情報提供を行っている。
 カプトプリル投与により天疱瘡及び天疱瘡様症状を発現したとする症例が2例報告
されている。また別に、同様の症例について、国外6報(重複があるため4症例だと
思われる)、及び国内1報の文献報告がある(文献1〜7)。
 報告された症例を紹介する(表2)。報告された症例の年齢・性別は69歳男性と
53歳女性で、投与量は37.5〜75mgと通常の投与量であり、投与開始から皮
膚症状発現までの期間は6〜8ヵ月であった。両症例とも貼付試験等の結果は陰性で
あるが、これらの試験は必ずしも精度の高いものとはいえず、投与期間と皮膚症状の
経過からカプトプリルの関与は否定できないものと考えられる。なお、このうち1例
についてはその後他のACE阻害剤であるエナラプリル、デラプリルによる内服試験
が行われ、陽性を認めており、他のACE阻害剤においても発現する可能性が考えら
れる症例であった。
 
(2)安全対策 
 天疱瘡及び天疱瘡様症状は全身の皮膚に水疱を生じる自己免疫性水疱症であり、両
者は組織学的に棘融解の有無及び免疫グロブリンの沈着態度で区別されるとされてい
る。薬剤により誘発されるものとしては、D−ペニシラミン、チオプロニンによる報
告がすでに知られている。
 これまでに報告されている文献等の検討によると、D−ペニシラミン等における発
生機序としては分子内遊離のSH基が表皮細胞膜及び表皮細胞間のタンパク質のSH
基と結合して抗原性を獲得し抗体が産生され、それが天疱瘡抗体と交叉反応性を示し、
天疱瘡様病変を惹起しているという意見と自己反応性T細胞の関与を注目する考えが
ある。カプトプリルについても構造が類似している点があることから、同様の発生機
序が考えられている(文献2)。
 これまでカプトプリルによる皮膚障害の報告は少なく、また、天疱瘡及び天疱瘡様
症状等の皮膚障害の発現についても、その使用量から勘案して発現頻度は低いと考え
られる。
しかしながら、報告された症例はカプトプリルの投与後に皮膚症状が発現し、中止に
より改善していることから因果関係は否定できない。
 したがって、本剤の投与にあたっては発現頻度は低いものの、これらの皮膚障害が
発現するおそれがあることに留意して患者の状態に注意し、発疹、水疱等の異常が認
められた場合には、直ちに薬剤の投与を中止するなどの適切な処置をとる必要がある
と考えられる。
 
(3)報告のお願い
 現在我が国で市販されているACE阻害剤には、カプトプリルのほかに以下の薬剤
がある。これらについては天疱瘡様症状を発現したとする報告は現在までのところ国
内ではない。しかしながら、これらの薬剤についても天疱瘡様症状等の皮膚障害の発
現に注意していく必要があると考えられるので、同様の症例を経験した場合には報告
をお願いしたい。
 アラセプリル[セタプリル(大日本製薬)]、マレイン酸エナラプリル[レニベー
ス(萬有製薬)]、シラザプリル[インヒベース(日本ロシュ)]、塩酸デラプリル
[アデカット(武田薬品工業)]、リシノプリル[ロンゲス(塩野義製薬)、ゼスト
リル(ゼネカ)]、塩酸ベナゼプリル[チバセン(日本チバガイギー)]
 
<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>
「カプトプリル」
副作用
  (4)皮膚:ときに発疹、そう痒、また、まれに天疱瘡様症状、光線過敏症等が
                        〜〜〜〜〜〜〜
    あらわれることがあるので、このような場合には減量又は中止するなど適切
                              〜〜〜〜〜〜
    な処置を行うこと。
 
表2 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         53                     |
|   使用理由       本態性高血圧症                |
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|投与量・投与期間:37.5mg〜75mg 9ヵ月間            |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|本態性高血圧症に対し、カプトプリルの投与を開始したところ、投与後6ヵ月頃よ|
|り上背部にそう痒性の皮疹が発現した。皮疹は次第に背部、腰部、胸背部、四肢近|
|位部内側に拡大した。受診時、大豆大〜母指頭大の浮腫性紅斑が散在、小水疱及び|
|びらんのある天疱瘡様の皮疹が認められた。蛍光抗体直接法で表皮細胞間にIgG|
|及びC3の沈着が認められ、血中抗体価は160倍陽性であった。すべての薬剤の|
|投与を中止し、抗ヒスタミン剤の内服及び副腎皮質ホルモン剤の外用療法で軽快し|
|た。その後、カプトプリルによるパッチテスト、皮内反応、リンパ球幼若化試験を|
|行ったがいずれも陰性であった。                      |
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|併用薬:塩酸ジラゼプ、トラピジル、メシル酸ジヒドロエルゴトキシン     |
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|No.2                             企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         69                     |
|   使用理由       高血圧症                   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:75mg 3ヵ月間                   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|高血圧症に対しカプトプリル、ニフェジピンの投与を開始したところ、約8ヵ月後|
|に躯幹にびらんを伴う紅斑が発現し、全身に拡大した。ニフェジピンを中止したの|
|ち、しばらくしてカプトプリルを中止するとともにプレドニゾロンの投与を開始し|
|た。一時軽快したが、プレドニゾロンの中止により悪化した。その後転院し、副腎|
|皮膚ホルモン剤の外用療法により皮疹は改善し、一部に痂皮を残してほぼ色素沈着|
|のみとなった。その後カプトプリルによる貼付試験、リンパ球刺激試験を行い陰性|
|であった。また、他のアンジオテンシン変換酵素阻害剤であるデラプリル、エナラ|
|プリルの内服試験を行い陽性であった。                   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:ニフェジピン、塩酸プラゾシン、トリクロルメチアジド        |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
<参考文献>
1)Parfrey,P.S.:Br.Med.J.,281:194(1980)
2)Yoshiike,K.:臨床皮膚科,41:953(1987)
3)Flageul,B.:Therapie,42:325(1978)
4)Clement,M.I.:Arch.Dermatol.,117:525(1981)
5)Flageul,B.:Dermatologica,173:248(1986)
6)Katz,R.A.:Arch.Dermatol.,123:20(1987)
7)Mallet,L.:DICP,23:63(1989)