2.テルフェナジンと心臓血管系症状
 
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|      |      成 分 名    |    該当商品名    |
|成分名   +−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+
|該当商品名 |テルフェナジン       |トリルダン(マリオン・メレ|
|      |              |ル・ダウ)        |
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|薬効分類等 |アレルギー性疾患治療剤                 |
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|効能効果  |気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう|
|      |痒(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)            |
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(1)発現状況
 テルフェナジンは平成2年(1990年)1月に承認された抗ヒスタミン作用を有
するアレルギー性疾患治療剤である。
 テルフェナジンとQT延長、心室性不整脈等の心臓血管系症状については、すでに
本情報No.107(平成3年3月号)において外国における25例の報告状況につ
いて情報提供しているが、外国ではその後の発現を含め現在までに47例が報告され、
米国は平成4年(1992年)7月に再度「使用上の注意」を改訂し、医療機関へ情
報提供を行っている。その内容は、ア.心臓血管系症状の報告が1991年5月現在
で47例と増加傾向にあること、イ.ketoconazole(抗真菌剤、国内未発売)との併
用でテルフェナジンの血中濃度が上昇すること及び心電図上QT延長が認められるこ
と、ウ.同様の症状はエリスロマイシンとの併用及び著しい肝機能障害例、過量投与
例においても認められること等であった。
 最近国内において、テルフェナジンの投与により、QT延長、心室性不整脈等の心
臓血管系症状を発現したとする症例が2例報告されている。年齢・性別は40歳代の
男女で、投与量はいずれの症例も120mgと通常の用量で、投与期間は6日間及び
約6ヵ月であった。しかしながら、これらの症例は慢性腎不全で腎透析中の症例と、
投与中止1ヵ月後も症状が継続した症例であり、特殊な例であったと考えられる。な
お、因果関係については2例とも必ずしも明確ではない。
 報告された症例を紹介する(表4)。
 
(2)安全対策
 今回報告された2症例のみではテルフェナジンとこれらの症状との因果関係につい
て判断するには情報が不足している。しかし、発現状況は異なるとはいえ外国での状
況も考え併せると、本剤の投与による心臓血管系症状の発現の可能性は否定できない。
これまで「使用上の注意」には外国の発現状況についての記載を行ってきたが、今回、
国内での類似の報告があったことより一層の注意を喚起するため、必要な記載を行う
こととした。
 また、他剤との相互作用に関してはketoconazoleが国内未発売であるため、わが国
で問題となるのはエリスロマイシンをはじめとするマクロライド系抗生物質であるが、
これらについては外国を含め現在まで症例が報告されているエリスロマイシン、ジョ
サマイシン、オレアンドマイシン、クラリスロマイシンについて、「使用上の注意」
の相互作用の項にテルフェナジンと併用する際の必要な注意を記載することとした。
 
(3)報告のお願い
 国内のテルフェナジンによる心臓血管系症状の報告はまだ少なく情報が不足してい
る。しかしながら、外国では多くの報告があり、今後、国内症例の発現に注目して情
報収集を行う必要があると思われる。同様の症例を経験した場合には報告をお願いし
たい。
 
 <<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
 
<テルフェナジン>
一般的注意
(1)次のような場合に、まれにQT延長、心室性不整脈等があらわれることがある
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  ので慎重に投与すること。なお、高齢者では、一般に肝機能が低下していること
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  が多いので注意すること。
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   a.肝障害のある患者[主として肝臓で代謝される(「体内薬物動態」参照)の
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    で、血中濃度が上昇しやすい。]
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   b.心疾患のある患者
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   c.QT間隔の延長を起こしやすい患者(低カリウム血症、低マグネシウム血症、
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    先天性QT延長症候群等)
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   d.本剤の代謝に影響を与える薬剤との併用(「相互作用」の項参照)
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   e.過量投与
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投与禁忌
(2)重篤な肝障害のある患者
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慎重投与
(1)肝障害のある患者
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(2)高齢者(「高齢者への投与」の項参照)
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副作用
(1)循環器:まれにQT延長、心室性不整脈(torsades de pointes を含む)があ
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  らわれることがある(「一般的注意」の項参照)ので、異常が認められた場合に
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  は投与を中止すること。なお、失神があらわれた場合には心電図をとり、QT延
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  長、不整脈の存在を確認すること。
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高齢者への投与
 本剤は肝臓で代謝される(「体内薬物動態」参照)薬剤であるが、高齢者では肝機
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能が低下していることが多く、高い血中濃度が持続するおそれがあるので、患者の状
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態を観察しながら、慎重に投与すること。
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相互作用
 外国において、エリスロマイシンとの併用により、まれにQT延長、心室性不整脈
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があらわれるとの報告があるので、併用を避けること。また、他のマクロライド系抗
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生物質(ジョサマイシン、オレアンドマイシン、クラリスロマイシン)と併用する場
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合には、観察を十分に行い、慎重に投与すること。
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表4 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         49                     |
|   使用理由       皮膚そう痒症(慢性腎不全、MRSA感染症、  |
|                偽バーター症候群、低カリウム血症等)   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・期間:120mg/日、約7ヵ月                  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|腎不全が悪化し、腎透析を行っている患者(食事摂取ができず、高カロリ−輸液施|
|行中)の皮膚そう痒症に対しテルフェナジンの投与を続けていたところ、透析中に|
|約20秒間意識を喪失したため、ECGモニタ−を装着した。心室性期外収縮(V|
|PC)を認めたが塩酸リドカイン静注で消失した。透析終了前に再びVPCが多発|
|したのち、torsades de pointes が発現し、5秒後に消失した。透析終了30分後|
|に再度発現した。その後不整脈は発現していない。              |
|                                     |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  |
|         投与開始 投与約 投与最終日 投与中止 投与中止    |
|         1年前   4ヵ月後 (発現日)  1日後   14日後     |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  |
|  尿酸(mg/dl)   14    10   10.2    6.1    6.8      |
|  Cr(mg/dl)   5.6    10.6   8.9    5.2    9.2      |
|  BUN(mg/dl)   110    203   79     32     35      |
|  Ca (mg/dl)   9.9    8.5   4.4    8.6    8.9      |
|  P (mg/dl)    4.0    10.4   14     5.6   10.8      |
|  Na(mEq/l)    137    133    130    142    131      |
|  K (mEq/l)    2.8    3.3    3.1    3.3    4.7      |
|  Cl(mEq/l)    93     83    87    101    98      |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬剤:塩酸ミノサイクリン、ホスホマイシンナトリウム、硫酸アルベカシン、|
|     硫酸ネチルマイシン、クロチアゼパム、アロプリノ−ル、L−アスパラ|
|     ギン酸カリウム                         |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2                             企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         42                     |
|   使用理由       皮膚そう痒症                 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・期間:120mg/日、6日間                   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|皮膚そう痒症に対しテルフェナジン、肛門周囲膿瘍に対しクラリスロマイシン40|
|0mgをそれぞれ投与したところ、6日目の夜に期外収縮が発現した。翌日心室性|
|期外収縮が頻発(ショ−トラン、R on T現象、心室変行伝導あり)、夜からジ|
|ソピラミドの投与を開始した。2日後には発現回数が減少したが、発作時には胸内|
|苦悶、咳反射を必ず伴っていたため、塩酸メキシレチンを追加投与した。3日目の|
|胸部X線で心肥大は認められず、CTR正常であった。約1ヵ月後に症状発現はま|
|れになった。                               |
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〈参考文献〉
Honig,P.K.,et al.:Clin.Pharmacol.Ther.,51:156(1992)