5.[解説] インターフェロン製剤の副作用
 
 インターフェロンは当初腎癌等の悪性腫瘍に対する治療剤として認可されたが、と
くに本年に入って、C型慢性活動性肝炎への使用が認められるようになり、使用症例
が増加している。インターフェロンは多彩な生物活性を有することから副作用につい
てもすでに多くのものが知られており、発現頻度の高いものや重篤なものも少なくな
い。
 インターフェロン製剤による治療を行う場合には、これらの副作用の内容やその対
応についてあらかじめ十分理解したうえで、その治療対象とする疾患への効果を勘案
しながら、投与中の経過を慎重に観察し、投与継続の可否を判断することが重要であ
る。
 
 インターフェロン(IFN)製剤は腎癌や多発性骨髄腫などの悪性腫瘍に対する治
療薬として当初承認され、その後、製剤により差異はあるもののIFNαとβ製剤は
B型およびC型慢性活動性肝炎の治療へも適応が拡大された。とくに、本年に入って、
C型慢性活動性肝炎への使用が認められたことにより、対象症例が著しく増加してい
る。
 IFNは多彩な生物活性を有することから、副作用についてもこれまでに多くのも
のが知られている。IFN製剤による治療を行う場合には副作用の内容やその対応に
ついてあらかじめ理解しておくことが大切である。
 IFN製剤の副作用の内容や発現頻度はこれまでの報告をみるかぎりIFN製剤の
種類、投与量や投与方法または対象症例などによってかなり異なっている。ここでは、
これまで報告されたIFN製剤の副作用のうち、臨床において経験することの多い主
な副作用とその対策について、B型およびC型慢性活動性肝炎50例についての私自
身の治療経験(自験例)を基にして解説する。
 
1.インフルエンザ様症状
 インフルエンザ様症状はIFN本来の作用によるものと考えられており、IFN製
剤で一般的にみられる副作用である。
 自験例では発熱は50例全例でみられ、37℃台に止まるものもあったが(約20
%)、大多数は38℃以上であった。悪寒・戦慄を伴う例が約20%にみられた。発
熱は投与初期に高く、しだいに下降して投与1週間目頃にはほとんどの症例で37℃
台に落ち着いた。しかし、間隔をあけて投与すると、再度高熱を出すことがある。発
熱は解熱剤でコントロール可能であり、解熱剤の予防的投与も有効である。全身倦怠
感は約60%にみられたが、投与を中止するほどの重篤な症例はなかった。関節痛、
腰痛、筋肉痛などは約50%に、頭重感や頭痛は約20%でみられた。いずれも軽症
で、多くは一過性であった。使用したIFN製剤はα、α−2a、βであったが、こ
れらの症状の発現頻度に製剤による明らかな差はみられなかった。
 
2.消化器症状
 消化器症状もIFN製剤で一般的にみられる副作用である。自験例では食欲不振は
約50%にみられ、程度は一般に軽いが、まれに悪心、嘔吐を伴い、強い食欲不振を
訴えることがある。悪心は約15%でみられ、ときに嘔吐を伴うことがあった。上腹
部の不快感や痛みが約15%に、一過性の下痢が少数例に発現した。消化器症状は全
般的にみて軽症であるが嘔吐を伴い強い食欲不振が続く場合には投与中止を考慮する
必要があるものと思われる。
 
3.血液障害
 白血球減少と血小板減少はIFN製剤で高頻度にみられ、とくに注意を要する副作
用である。これら血液障害が発現した症例ではIFN投与1〜2週間頃までに最も低
値となり、通常そのまま不変か、やや改善する。白血球、血小板がどの程度にまで達
したならば投与を中止すべきかは効果との勘案も必要で個々の医師の専門的判断の必
要があるが、自験例では白血球減少は50例中約80%にみられた。全例顆粒球の減
少によるもので、約50%の症例で顆粒球数が1000以下まで減少した。500以
下まで減少した例が4例あり、このうち1例は投与を中止した。残り3例は一過性か、
減量によりやや改善したので、投与を継続した。
 血小板減少は約85%に発現した。このうち5万/mm3 以下まで減少した例は5例
で、3万/mm3 以下まで減少した2例は投与を中止した。治療開始前すでに血小板数
が少ない症例ではとくに注意する必要がある。白血球減少や血小板減少はIFN製剤
投与中止により回復した。これらの副作用発現頻度についても使用したIFN製剤間
で明らかな差はみられなかった。IFN製剤による血液障害としてはこの他に貧血や
骨髄抑制などが報告されている。
 
4.腎機能障害
 自験例でタンパク尿がIFNα、β製剤ともに1例ずつみられた。タンパク尿に起
因する低アルブミン血症はβ製剤に多いとされているが、α製剤でも長期投与におい
ては注意が必要であると考えられた。このほかに、BUNやクレアチニンの上昇、製
剤によっては腎不全等の腎障害の報告がある。低アルブミン血症や腎障害が進行する
場合は投与を中止することが必要であると考える。
 
5.肝機能障害
 自験例のうち、C型慢性活動性肝炎の1例で、IFNαー2a製剤投与中にいった
ん正常化した血清トランスアミナーゼ値が再上昇したため、投与を中止した例があっ
た。この症例では抗核抗体などの自己抗体は陰性であったが、IFN中和抗体が高力
価で陽性であった。遺伝子組換え型のIFN製剤ではIFN中和抗体の出現率が高い
と報告されており、投与中に肝機能が悪化した場合には、IFN中和抗体の出現を考
慮に入れる必要がある。最近、IFNα製剤投与中に自己免疫性肝炎が顕性化した症
例の報告がみられる。現在自己免疫性肝炎はIFN製剤の適応から除外されているが、
自己免疫性肝炎の診断基準を完全に満たさない症例に使用するような場合は、より慎
重な経過観察が必要であると考えられる。肝障害の悪化がみられた場合にも投与を中
止する必要がある。
 
6.皮膚・附属器障害
 自験例では、発疹は約10%と頻度は低かったが、発疹のため投与を中止した例が
IFNα製剤で2例みられた。脱毛はIFNα製剤投与2〜3ヵ月目頃から高頻度に
発現した。しかし脱毛の程度には個人差があり、ほとんど目立たないものから、洗髪
時に洗面器が真黒になるものまでさまざまであった。この他にそう痒感を訴える症例
が少数例みられた。
 
7.精神・神経障害
 IFNαおよびγ製剤で抑うつ、うつ状態の報告がある。IFN製剤投与中に意欲
の減退を訴える患者は少なくない。うつ状態等の発症はその素因を有する患者に多い
とされており、治療開始前に十分な問診を行う必要がある。また、IFNα製剤で、
痙攣、意識障害、知覚障害などが報告されている。これらの症状が発現した場合は投
与を中止する必要があると思われる。なお、不眠やめまいなども頻度は高くないもの
の、IFN製剤全般で共通してみられると報告されている。
 
8.循環器障害
 IFN製剤で心電図異常が報告されている。
 
9.内分泌障害
 IFNα製剤投与中に甲状腺機能低下症および亢進症が発症したとの報告がある。
いずれも投与前に自己免疫疾患の素因を有しており、IFNが関与した自己免疫異常
により発症したことが疑われている。IFN製剤投与中に、甲状腺機能異常が発現し
た場合には投与を中止することが必要である。
 
10.ショック
 IFN製剤はタンパク質製剤であることから、まれにショックを起こすことがあり
うる。
 
11.その他
 欧米では、IFNα製剤投与中にSLE、慢性関節リウマチ、溶血性貧血、悪性貧
血、乾癬などの発症または顕在化した症例の報告がある。IFNβとγ製剤での報告
は少ないが、IFNβ製剤で溶血性貧血、IFNγ製剤でSLEや乾癬の報告がある。
その他に最近、小柴胡湯との併用による間質性肺炎、血糖上昇も報告されている。
 また、IFNα製剤で薬物代謝を抑制する可能性があるとの報告がある。今後さら
に検討すべき課題ではあるが、IFN製剤投与中に他剤を併用する場合には、その効
果の発現にも注意する必要があると考えられる。
 
まとめ
 当初、悪性腫瘍の治療薬として登場したIFNαとβ製剤はC型慢性活動性肝炎の
治療に頻繁に用いられるようになっている。IFN製剤は現在唯一のC型慢性活動性
肝炎の治療薬と考えられるが、その副作用は悪性腫瘍に対比した場合の良性疾患の治
療薬としてみた場合には症状が重く、発現頻度も高いと考えられる。したがってIF
NをB型やC型慢性活動性肝炎に使用し重篤な副作用が発現した場合には、投与中止
の時期を誤らないことが大切である。また、IFNは多彩な生物活性を有することか
ら、未知の新たな副作用が発現する可能性もある。IFN製剤により治療を行う際に
は、重篤な副作用を確実に把握するために投与中の経過を慎重に観察する必要がある。
 
                      (獨協医科大学助教授・松本和則)