4.[解説] 生薬製剤(漢方薬を含む)による薬剤性肝障害
 
 漢方薬および生薬製剤は、医療用医薬品として使用されているものもあるが、一般
的に作用が緩和であることから、一般用医薬品として使用されているものが多い。
 これら漢方・生薬製剤の薬効は、長年の臨床経験に基づいたものであり、その安全
性も経験的に確認されているものであり、副作用の発現は、一般に多くはないと考え
られているが、これら医薬品についても、頻度は低いながら、副作用が発現すること
は知られている。最近、一般用医薬品たるこれらの製剤により薬物アレルギーによる
と判断される薬剤性の肝障害を生じたとする症例が多数報告されている。
 近年、これらの薬剤の使用が増加しているとみられることから、漢方・生薬製剤に
よっても、薬剤性の肝障害が起こりうることを知り、これらの薬剤の関与を見逃さな
いようにすることが、日常診療上も服薬指導上も医療関係者、とくに医師、薬剤師に
とって重要である。
 
 漢方薬および生薬製剤は、医療用医薬品として使用されているものもあるが、一般
的に作用が緩和であることから、一般用医薬品として使用されているものが多い。
 これら漢方・生薬製剤の薬効は、長年の臨床経験に基づいたものであり、その安全
性も経験的に確認されているものである。
 すなわち、漢方・生薬製剤については、その成分の大部分が自然界にある草根木皮
であることから、副作用の発現は、一般に多くはないと考えられている。しかし、こ
れらの医薬品についても、頻度は低いながら、副作用が発現することは知られており、
漢方薬、とくに医療用の漢方薬については、本情報No.111(1991年11月
号)において解説が掲載されているとおりである。
 一方、一般用医薬品たるこれらの漢方・生薬製剤により薬物アレルギーによると判
断される薬剤性の肝障害を生じたとする症例が現在までに文献に多数報告されている。
近年、これらの薬剤の使用が増加しているとみられることから、漢方・生薬製剤によ
る肝障害についても十分注意する必要がある。
 現在までのところ、漢方薬および生薬製剤全体としては肝障害の報告例は多くはな
いが、製品によっては比較的多くの報告がなされるてる。
 これまで、文献等で報告されている薬剤性肝障害の被疑薬とされているものをあげ
ると次のとおりとなる。
1)漢方製剤・・・小柴胡湯、柴苓湯、防風通聖散、十味敗毒湯など
2)生薬製剤・・・金鵄丸(痔疾用剤)など
 これらの製剤の服用者数は明らかではないので、発生頻度の比較は困難であるが、
これらのなかでも、学会誌等で比較的多くの報告がなされているのは、小柴胡湯と金
鵄丸であり、肝障害との因果関係も確認されている報告も含まれている。もともと、
これらの製剤では、発疹、そう痒感などのアレルギー症状が、消化器症状とともに副
作用症状の主体をなすことが多く、いわゆる過敏反応(薬剤アレルギー)による肝障
害が起こりうる可能性が示されている。
 一般用医薬品においても、「服用中、服用後に種々の不都合な症状があらわれた場
合には、服用を中止したり、医師や薬剤師に相談すること」が使用上の注意に記載さ
れ、注意喚起がなされているが、実際の症例のなかには、医師が患者からこれらの漢
方・生薬製剤を服用していることを聴取できず、原因の特定が遅れ、患者が服用を継
続したために重症化した例も報告されている。
 すなわち、漢方・生薬製剤は安全であるという患者および医療関係者の先入観念が
原因特定を見逃させたり、遅らせたりする可能性が重症化の要因となりうることにと
くに留意すべきである。
 その他、これまでの文献報告等からまとめると、漢方・生薬製剤による薬剤性肝障
害には以下のような特徴がみられるとされている。
 (1)中・高年齢者に多い傾向がみられること
 (2)服用後発症するまでの期間が長いこと
 (3)典型的初発症状(発熱、発疹、好酸球増多、皮膚そう痒感)が明確でない症例も
  多いこと
 (4)治癒に要する期間は遷延する傾向がみられること
 なお、配合成分(生薬)のうち、いずれの成分が原因となっているかについても、
いくつかの報告で検討されているが、現在までのところ特定の成分(生薬)が最も引
き起こしやすいといったような結果は得られていない。
 以上、述べたように、一般用医薬品として製造・販売されている漢方・生薬製剤に
よっても、薬剤性の肝障害が起こりうることを知り、これらの薬剤の関与を見逃さな
いようにすることが、日常診療上も服薬指導上も医療関係者、とくに医師、薬剤師に
とって重要である。
 
<参考文献>
溝口靖紘他:臨床免疫,22:1061(1990)
溝口靖紘他:和漢医薬学会誌,6:340(1989)
鮫島美子他:臨床消化器内科,4:1793(1989)
溝口靖紘他:日内会誌,75:1453,(1986)
佐藤英司他:肝臓,25:674(1984)
山崎 潔他:肝臓,32:724(1991)
前田裕伸他:臨床と研究,68:1562(1991)
田沢潤一他:日消病会誌,82:2673(1985)
絵森昌門他:日内会誌,73:696(1984)
高畑賢司他:日消病会誌,75:1883(1978)
田沢潤一他:肝臓,26:1669(1985)
戸塚慎一他:肝臓,24:1032(1983)
溝口靖紘他:肝臓,26:376(1985)
日原雅文他:神奈川医会誌,10,68(1983)
加藤誠一他:日消病会誌,80,274(1983)
久保精志他:医療,40:257(1986)
佐竹以久子他:肝臓,27:238(1986)
前田裕伸他:日消病会誌,86:1577(1989)
久保精志他:日消病会誌,82:2673(1985)
 
      (元慶應義塾大学教授・伊藤宗元、関東逓信病院副院長・多賀須幸男)