3.カルバマゼピンと聴覚異常
 
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|      |    成 分 名     |    該当商品名    |
|成分名   +−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+
|該当商品名 |カルバマゼピン       |テグレトール(日本チバガイ|
|      |              |ギー)他3社       |
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|薬効分類等 |抗てんかん剤                      |
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|効能効果  |(テグレトールの場合)                 |
|      |てんかん、躁病、躁うつ病の躁状態、精神分裂病の興奮状態、|
|      |三叉神経痛(詳細略)                  |
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(1)症例の紹介
 カルバマゼピンの投与中にピアノの音階を正確につかめない、チャイムの音が大き
く聞こえる、チャイムの音に違和感を感じるなどの聴覚異常を起こしたとする報告が
4例報告されている。報告された症例の年齢は10〜11歳、性別は男1例、女2例、
不明1例であった。4例のうち3例については血中濃度が測定されているが、1例で
有効血中濃度よりも高い濃度が測定されているものの、他の2例には濃度異常は認め
られていない。また、高い血中濃度が認められた1例では投与量を減量しても、また、
他の3例では同量または増量して投与を継続しても、その後は聴覚異常を認めていな
い。カルバマゼピンの投与開始から症状発現までの期間は、数日から1〜2週間頃ま
でであり、継続投与によっても回復していることから投与初期の一過性の中毒症状で
あったとも考えられる。外国文献1)にも、ジルチアゼム併用例で血中濃度上昇時に一
過性の聴覚過敏を生じた例が報告されている。
 報告された症例の一部を紹介する(表3)。
 
(2)安全対策
 本剤投与による聴覚異常については、投与継続しても回復しているなど因果関係に
ついては明らかではない。しかしながら、症状発現時にもうろう状態等を認めておら
ず原疾患の部分発作とも考えにくいこと、減量により回復している症例もあることな
ど本剤との関係も否定できない。
 本剤の投与にあたっては聴覚異常等があらわれることを知ったうえで、特に投与初
期には患者の状態等に注意する必要がある。
 
          <使用上の注意(下線部追加改訂部分)>
 <カルバマゼピン>
 副作用
  (12)その他:ときに発熱、口渇、また、まれに脱毛、聴覚異常があらわれる
                            〜〜〜〜
     ことがある。
 
表3 症例の概要
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|No.1                            企業報告|
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|患者 性          女                     |
|   年齢         11                    |
|   使用理由(合併症)  てんかん                  |
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|1日投与量:カルバマゼピン600mg−>400mg           |
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|副作用−経過および処置                         |
|覚醒時に意識喪失を伴う痙攣発作があらわれ、発作は連日発現し、1日に数回み|
|られるようになった。カルバマゼピン1日600mgの投与を開始したところ、|
|その後痙攣発作は消失したが、2週間後くらいから「ピアノのレッスン時にキー|
|を間違えても気づかない、音階を正確につかめない」という聴覚異常を訴えるよ|
|うになった。約1ヵ月後に転院し、検査時に音階の間違いは認められたが、ほか|
|には会話も正常であり、複視、眼振、視力障害、聴力障害等は認められなかった|
|。服用2時間後の血中濃度は13.6μg/mlと高値を示した。投与量を40|
|0mgに減量したところ、同血中濃度は8.2μg/mlとなり、聴覚異常は消失|
|し、その後発作の再発もない。                      |
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|No.2                            企業報告|
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|患者 性          女                     |
|   年齢         10                    |
|   使用理由(合併症)  間代性痙攣(部分てんかん)         |
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|1日投与量:カルバマゼピン200mg−>300mg           |
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|副作用−経過および処置                         |
|左顔面に限局する発作および左半身に広がる間代性痙攣発作に対し、バルプロ酸|
|ナトリウム投与を開始した。しかしながら、コンプライアンスが不良で痙攣発作|
|が認められていたため、バルプロ酸ナトリウムの投与を中止し、カルバマゼピン|
|の投与を200mgから開始し、300mgまで増量した。その後耳鳴りやチャ|
|イムの音が大きく聞こえる等の聴覚異常が認められたが、血液、生化学、血清・|
|免疫学的検査、神経学的所見に異常は認められず、EEGも初診時と同様であっ|
|た。血中濃度は6.3μg/mlと治療域にあった。聴覚異常は服用後1時間前後|
|にみられることが多く、血中濃度も治療域であったことから投与量を変えず経過|
|を観察したところ数週間後には全くみられなくなった。           |
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<参考文献>
1)Saeed Ahmd:American Heart Journal,120:1485(1990)