6.[医療用具安全性情報] シリコーン製人工乳房の安全性について
 
 シリコーン製人工乳房(シリコーンバッグ)の安全性について、最近米国において
検討され、限定された条件においてのみ使用されることとなった。我が国においても、
十数年前から市販され、現在約2万人が使用中と推定される。シリコーン製人工乳房
の安全性検討の経緯を紹介するとともに、現在使用中の者に対し、定期健康診断時な
どの機会をとらえ、異常の有無を確認する必要があることを啓発したい。
 
(1)米国の状況
 1976年、米国の食品医薬品化粧品法が改正され、医療用具は製造承認が必要に
なったが、シリコーン製人工乳房はそれ以前から販売されていたため、法律改正後も
届出により販売が許可され、約200万人に使用された。
 1991年初め、米国食品医薬品庁(FDA)は、シリコーン製人工乳房によって
癌や免疫異常が起こるのではないかとの指摘が消費者団体等からあることから、また、
法律改正により、人工乳房は厳しく審議する必要がある区分に分類されたことなどか
ら、製造業者に対し、安全性を立証するデータを提出するよう要求した。
 これに応えて、安全性に関するデータが提出されたが、同年11月、FDAの諮問
委員会(General & Plastic Surgery Devices Panel)は、それらのデータに基づき、
「使用継続を認める」旨の結論を出した。ただし、(1)インフォームドコンセントの実
施、(2)患者登録を行い追跡するとの条件を付した。
 しかし、1992年1月、FDA長官は、「さらに新たな安全性に関する資料がみ
つかったので、それに対する諮問委員会の評価が出るまで、シリコーン製人工乳房の
使用を一時的にみあわせるよう医師に要請する」と発表した。
 諮問委員会は、1992年2月に開催され、(1)シリコーン製人工乳房の埋入と免疫
関連障害又は結合組織障害との因果関係は不明、(2)乳癌手術後の乳房再建に対する継
続使用は認める、(3)美容のための豊胸手術には原則として使用しない、(4)すでに埋入
を受けている患者は定期的に医師の検診を受ける必要がある、との答申をしたが、FD
Aはさらに検討した結果、1992年4月、シリコーン製人工乳房の使用を「乳癌術
後や豊胸破損の事例を対象とした治験のみ」に限定する旨を発表した。
 なお、米国のシリコーン原料の製造元であるダウ・コーニング社は、1992年3
月、人工乳房のためのシリコーン(原料及び製品)の製造販売から撤退することを発
表した。
 
(2)我が国の状況及び対応
 我が国においては、シリコーン製人工乳房は1979年に米国から輸入されたが、
当初から薬事法に基づき、日本での臨床データを含め、各種の安全性、有効性につい
て審査され、承認を受けたうえで販売された。承認に際しては、3年間の副作用調査
が義務づけられたが、重篤な副作用は認められなかった。また、その後も企業及びモ
ニター施設から副作用の報告はない。
 米国の措置を受け、我が国でも、シリコーン製人工乳房の販売の一時停止、埋入手
術の一時的自粛を要請するとともに、関係専門家による安全性の再検討を実施したが、
その結果は、「シリコーン製人工乳房と自己免疫疾患との因果関係は不明であり、直
ちに禁止するほどの危険性はない」とのことであった。
 ただし、米国の製造販売の中止により、日本においても原料入手が困難になり、製
造が不可能となったため、我が国のシリコーン製人工乳房は事実上なくなることとな
った。
 
(3)シリコーン製人工乳房の安全性
 シリコーン製人工乳房は、シリコーン膜の袋(バッグ)の中に、油状のシリコーン
ジェルが封入されているもので、バッグの破損などにより油状のシリコーンジェルが
漏出した場合、長期間を経ると自己免疫疾患が発生することが疑われているが、その
確率はきわめて低いと推定され、因果関係も証明されていない。
 以上の状況を勘案すると、すでに美容等のため、シリコーン製人工乳房を埋入して
いる者は、直ちに危険なわけではないが、製品の劣化の可能性もあるので、シリコー
ン製人工乳房の安全性等の情報を十分に知り、常に異常の有無に注意を払う必要があ
る。
 (社)日本美容医療協会(東京都港区元麻布3−11−3 TEL 03-5410-1444)が、
この件に関する相談窓口を設けているので、必要に応じて相談することが望ましい。