3.アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤及びAN69透析膜とアナフィラキ
  シー様症状
 
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|成分名                |該当商品名            |
|     アラセプリル        | セタプリル(大日本)      |
|     マレイン酸エナラプリル   | レニベ−ス(萬有)       |
|     カプトプリル        | カプトリル、同−R(三共)   |
|     シラザプリル        | インヒベ−ス(日本ロシュ)   |
|     塩酸デラプリル       | アデカット(武田)       |
|     リシノプリル        | ロンゲス(塩野義)、      |
|                   | ゼストリル(ICI)      |
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|薬効分類等:血圧降下剤                          |
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|効能効果 :(カプトプリル普通錠の場合)                 |
|       本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧 |
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(1)症例の紹介
 最近、海外において、ACE阻害剤服用中の患者がAN69膜による血液透析を受
けた際に血管浮腫(顔面浮腫、喉頭浮腫)、嘔吐、腹部痙攣、気管支痙攣、血圧低下、
チアノーゼ等のアナフィラキシー様症状を発現したとする報告がなされた(文献1〜
13)。
 AN69膜とはアクリロニトリル基とソディウムメタリルスルフォネート基との共
重合体からなるポリアクリロニトリル(PAN)膜の一つで国内ではホスパル社が輸
入販売している透析膜である。
 降圧剤として広く用いられているACE阻害剤投与中の過敏反応としてはまれに呼
吸困難を伴う血管浮腫があらわれることが知られているが、今回報告されているアナ
フィラキシー様症状はこれとは異なるものである。また、透析施行中のアレルギー反
応としては、透析器の消毒に用いられるエチレンオキサイド(EO)に対するアナフ
ィラキシー様症状が知られているが、報告症例ではEOアレルギーの関与は明らかに
なっていない。なお、報告症例のうちEOに対する放射性免疫測定法(RAST)を
実施した症例の多くでは陰性の結果を得ている。
 一方、今回の海外での報告によればアナフィラキシー様症状が発現したのは、いず
れもACE阻害剤の服用とAN69膜による血液透析が組み合わされた症例に集中し
ており、ACE阻害剤の投与を中止したり、透析膜をAN69膜から他の膜に変更す
ることで再発が防止されている。このことから、両者の相互作用について関心が寄せ
られている。
 しかし、同じ組み合わせの治療を継続しても透析膜の洗浄方法を変更することで再
発を防止できたとする報告(文献2,9,13)や、これらの相互作用を否定する報
告(文献14)もある。
 この組み合わせでのアナフィラキシー様症状発現の機序については種々論議されて
いる。AN69膜という多陰イオン体により血中キニン系の代謝が亢進しブラジキニ
ン産生の増大をもたらし、さらにACE阻害剤によりブラジキニン代謝が妨げられて
ブラジキニンの蓄積をもたらすとする考察(文献2)もあるが、実証的裏付けはなく
因果関係とともにいまだ明らかではない。
 海外で報告されている症例の一部を紹介する(表3)。
 
(2)安全対策
 現在までのところ国内では同様の報告はない。しかし、これらの報告に鑑み、AC
E阻害剤服用中の患者に、AN69膜による血液透析を行う際には、重篤なアナフィ
ラキシー様症状が発現する可能性があることに留意すべきである。個別症例の経過が
確認できる報告によれば、症状はACE阻害剤とAN69膜の組み合わせ療法が開始
されてから数回〜20数回目の透析時の透析開始直後に発現している。このため透析
中、特に透析開始直後の患者の状態を十分観察し、異常が認められた場合には直ちに
透析を中止し、適切な処置をとる必要がある。なお、抗ヒスタミン剤の投与は無効と
の報告(文献3,7)もあるので留意されたい。
 ACE阻害剤とAN69膜の「使用上の注意」に必要な記載を行い注意を喚起する
こととした。
 
(3)報告のお願い
 現在までに国内でACE阻害剤服用患者がAN69膜による血液透析中にアナフィ
ラキシー様症状を発現したとの報告は確認されていないが、同様の症例を経験した場
合には報告をお願いしたい。
 
《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》
<アラセプリル、マレイン酸エナラプリル、カプトプリル、シラザプリル、塩酸デラ
プリル、リシノプリル>
 
その他
 (2)外国において、アンジオテンシン変換酵素阻害剤服用中の患者が、アクリロ
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  ニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69)を用いた透析中にアナフ
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  ィラキシー様症状を発現したとの報告がある。
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         67                     |
|   使用理由       高血圧症                   |
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|1日投与量・期間:マレイン酸エナラプリル2.5mg            |
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|副作用−経過および処置                          |
|AN69膜を用いた血液透析を7ヵ月間行っていた患者の高血圧症に対しマレイン|
|酸エナラプリルの投与を開始した。マレイン酸エナラプリル投与9日目の透析時に|
|眼と口腔粘膜に軽度の浮腫と血圧低下がみられた。さらにその次の透析時に顔、頬|
|・喉頭粘膜に強度の腫脹がみられ、血圧低下、嘔吐、腹部痙攣があらわれた。これ|
|らの症状は透析開始直後に発現した。その後透析膜を他の膜に変更し、本剤の投与|
|を中止した。1ヵ月後に本剤を再開したが、その後異常は認められなかった。  |
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文献 
 1)Tielemans,C.,et al.:Kidney Int.,38:982(1990)
 2)Verresen,L.,et al.:Lancet,336[8727]:1360(1990)
 3)Wenzel-Seifert,K.,et al.:Nephrol.Dial.Transplant.,5:821(1990)
 4)Jadoul,M.,et al.:Lancet,337[8733]:112(1991)
 5)van Es,A.,et al.:Lancet,337[8733]:112(1991)
 6)Dinarello,C.A.,et al.:Lancet,337[8737]:370(1991)
 7)Alvarez-Lara,M.A.,et al.:Lancet,337[8737]:370(1991)
 8)Tielemans,C.,et al.:Lancet,337[8737]:370(1991)
 9)Caravaca,F.,et al.:Nephron,60:372(1992)
10)Rousaud Baron F et al.:Nephron,60:487(1992)
11)Perez-Garcia,R.,et al.:Nephron,61:123(1992)
12)Teruel,J.,et al.:Nephrol.Dial.Transplant,7:275(1992)
13)Verresen,L.,et al.:Lancet,337:1294(1991)
14)Mazuecos,A.,et al.:Nephron,59:519(1991)