1.インターフェロン製剤と自己免疫現象
 
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|成分名             |該当商品名              |
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| インターフェロン−α     |オーアイエフ(大塚)         |
|                |IFNαモチダ(持田)        |
|                 |スミフェロン(住友)         |
| インターフェロン−α−2a   |キャンフェロンA(武田)       |
|      (遺伝子組換え型) |ロフェロンA(日本ロシュ)      |
| インターフェロン−α−2b   |イントロンA(シェリング・プラウ)  |
|      (遺伝子組換え型) |                   |
| インターフェロン−β     |IFNβモチダ(持田)        |
|                |フェロン(東レ)           |
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|薬効分類等:その他の生物学的製剤                    |
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|                    |   IFN−α   |IFN-β|
|                    +−−−−−−−−−−−+−−−+
|                  商 |オ|I|ス|キ|ロ|イ|I|フ|
|                  品 |||F|ミ|ャ|フ|ン|F|ェ|
|                  名 |ア|N|フ|ン|ェ|ト|N|ロ|
|                    |イ|α|ェ|フ|ロ|ロ|β|ン|
|                    |エ|モ|ロ|ェ|ン|ン|モ| |
|                    |フ|チ|ン|ロ| |A|チ| |
|                    | |ダ| |ン| | |ダ| |
| 効能効果               | | | |A| | | | |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+
|腎癌                  |○|○|○|○|○|○| | |
|多発性骨髄腫              | | |○|○|○|○| | |
|ヘアリ−細胞白血病           | | |○| | | | | |
|慢性骨髄性白血病            | | |○| | |○| | |
|膠芽腫                 | | | | | | |○|○|
|髄芽腫                 | | | | | | | |○|
|星細胞腫                | | | | | | | |○|
|皮膚悪性黒色腫             | | | | | | |○|○|
|HBe抗原陽性でかつDNAポリメラ−ゼ | | | | | | | | |
|  陽性のB型慢性活動性肝炎のウイルス | | |○|○|○|○|○|○|
|  血症の改善             | | | | | | | | |
|C型慢性活動性肝炎におけるウイルス血症 | | |○|○|○|○| |○|
|  の改善               | | | | | | | | |
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(1)症例の紹介                                インターフェロン(IFN)−α、βは、ウイルス感染を受けた細胞が産生するウ
イルス増殖抑制作用を有する生理活性物質として発見された。IFN−α、βは分子
量約2万の類似性の高いタンパク質で、βには糖鎖がついている。その後の研究によ
り、抗ウイルス作用のほかに細胞増殖抑制作用や免疫調節作用を有することが明らか
となり、現在、腎癌、多発性骨髄腫、ウイルス性肝炎等の疾患に用いられている。
 最近、国内でIFN−α製剤投与中の甲状腺機能低下症が3例(文献1,2)、甲
状腺機能亢進症が1例(文献3)報告された。このうち3例でIFN−α製剤投与後
に甲状腺刺激抗体(TSAb)、抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体(TRAb)及び
抗核抗体、抗ミクロソーム抗体、抗サイログロブリン抗体等の自己抗体(自己の生体
構成成分に対する抗体)が陽性化していることなどから、これらの甲状腺機能異常は
IFN−αが関与した自己免疫現象に関連していることが疑われた。
 IFNと免疫機能との関係については、すでに1970年末からIFNには in
vitro で抗体の産生、各種T細胞の機能、細胞表面抗原の発現、ナチュラルキラー細
胞の活性化及びマクロファージの機能等を統御する働きがあることが指摘され、また、
1980年代初頭には、全身性エリテマトーデス(SLE)の動物モデルにおいて
IFNがその病態の進展に関与しているという報告(文献4)がされてきた。また、
ヒトにおいても、すでに外国では自己免疫現象との関連を疑う甲状腺機能異常(文献
5〜13)の報告が行われており、IFN製剤と自己免疫現象との関連についても注
目されている。
 なお、このほかにIFN−α製剤による自己免疫現象との関連を疑う報告として外
国では、慢性関節リウマチ(文献9,14)、SLE(文献5,15)、溶血性貧血
(文献16)、悪性貧血(文献5)、血小板減少(文献17,18)、乾癬(文献
19)、自己免疫性肝炎(文献20)等がある。国内では類似の症例として、IFN
−α製剤投与により自己免疫性肝炎(文献21)、乾癬(文献22,23)、溶血性
貧血が、また、IFN−β製剤投与により溶血性貧血が報告されているが、自己免疫
現象との関連は明らかでない。
 IFN−α製剤投与により報告された症例の一部を紹介する(表1)。
 
(2)安全対策
 IFNは免疫系に対しさまざまな影響を及ぼすことが知られていることから、報告
のあった自己免疫現象によると疑われる4例の甲状腺機能異常とIFN−α製剤との
関係は否定できない。自己免疫疾患の患者又は何らかの自己抗体が陽性を示す等その
素因のある患者に対するIFN製剤投与については、投与の必要性を十分検討のうえ、
投与する場合には症状の悪化又は新たな自己免疫疾患の発現に留意する必要がある。
特に、C型慢性活動性肝炎に対し使用する場合には、自己免疫性肝炎でないことを確
認のうえ、投与を行うことが大切である。このため、IFN製剤の「使用上の注意」
に必要な記載を行い注意を喚起することとした。
 また最近、(a)IFN−α製剤ではすでに報告されていたショックの発現が
IFN−β製剤でも報告されたこと、(b)IFN−α製剤で痴呆様症状を発現した
とする症例が報告された(文献24,25)こと、(c)IFN−α製剤で、肝臓で
の薬物代謝酵素の活性を抑制し、特に、テオフィリン、アンチピリンのクリアランス
を低下させ、血中濃度を高めることが報告された(文献26,27)ことから、以上
3点についても、併せて、「使用上の注意」の改訂を行うこととした。
 
《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》
インターフェロン−α<スミフェロンの場合(他のIFN−α製剤についても同様
に改訂)>
 
一般的注意
 自己免疫現象によると思われる甲状腺機能異常等があらわれることがあるので、自
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己免疫性疾患の患者又はその素因のある患者には慎重に投与すること。
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副作用
 精神神経系:ときに痙攣、抑うつ、意識障害、見当識障害、知覚異常、幻聴、めま
  い、冷感、不眠、いらいら感等、また、まれに痴呆様症状(特に高齢者)があら
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  われることがあるので、症状の激しい場合及び減量しても消失しない場合には投
  与を中止すること。
 皮膚:ときに湿疹、紅斑、脱毛、足爪変色等、また、まれに乾癬があらわれること
                      〜〜〜〜〜〜〜〜
  がある。
 内分泌:自己免疫現象によると思われる甲状腺機能異常があらわれることがある。
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相互作用
 肝臓での各種医薬品の代謝を抑制することがあり、特に次の医薬品の血中濃度を高
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めることが報告されているので、これらの医薬品と併用する場合には慎重に投与する
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こと。
〜〜〜
   テオフィリン、アンチピリン
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インターフェロン−β
<フェロンの場合(他のIFN−β製剤についても同様に改訂)>
 
副作用
 ショック:まれにショックがあらわれることあるので観察を十分に行い、異常が
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  認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
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 その他:類薬(インターフェロン−α製剤)で自己免疫現象によると思われる甲状
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  腺機能異常があらわれたとの報告がある。
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表1 症例の概要
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|No.1                         企業報告、文献1|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         38                     |
|   使用理由       腎癌                     |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・期間:インターフェロン−α−2b、600万単位、週2回、1年間|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|腎腫瘍のため右腎摘出後、IFN−α−2bの投与を開始した。患者は投与前から|
|基礎に自己免疫性甲状腺疾患が存在していた。本剤の投与開始11カ月後、全身倦|
|怠感、嘔気、頭重感等の症状が出現し来院した。びまん性でやや硬い甲状腺腫を触|
|知した。眼瞼は浮腫状に腫脹していた。検査値より原発性甲状腺機能低下症を示し|
|ていた。さらに1カ月後、本剤の投与を終了した。未治療にて経過観察していたと|
|ころ、約5カ月後、自覚所見は消失した。                  |
|                                     |
|+−−−−−−−−+−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
||        |    |    |投与後|   投与中止後   | |
||        |正常値 |投与前 |11カ月 |1カ月|2カ月|3カ月| |
|+−−−−−−−−+−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
||TSH(μU/ml)|0.1〜4.0| 0.03 | 40.3| 50.8| 52.3|  9.2| |
|+−−−−−−−−+−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
||Free T4(ng/dl)|0.9〜2.1| 1.6  |  0.3|  0.6|  0.4|  1.2| |
|+−−−−−−−−+−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
||抗ミクロソーム |100倍  |40X40  |160X |160X |80X80 |80X80 | |
||      抗体| 以下 |  倍 | 160倍| 160倍| 倍 | 倍 | |
|+−−−−−−−−+−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
||抗サイログロブ |100倍  |100倍  |40X40 |40X40 |20X20 |20X20 | |
||    ロン抗体| 以下 | 以下 | 倍 | 倍 | 倍 | 倍 | |
|+−−−−−−−−+−−−−+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+ |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2                        企業報告、文献22|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          男                      |
|   年齢         29                     |
|   使用理由       B型慢性活動性肝炎              |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・期間:インターフェロン−α−2a、1ヵ月間、2日中止後1ヵ月間|
|         投与量不明                       |
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|副作用−経過および処置                          |
|IFN−α−2aの投与を開始したころより、右上腹部に境界鮮明な紅斑が出現し|
|ていたが、投与5日ほどで、紅斑は肘に広がり、頭皮の痒みを訴えはじめた。投与|
|20日目ころには、さらに前頭部から顔面にかけて発赤が出現し、腹部の紅斑は乾|
|燥して直径1〜2cmの尋常性乾癬様となった。その5日後、右眼の奥が痛いとの訴|
|えがあった。本剤の投与を2日間中止することで眼痛が軽減したので、本剤の投与|
|を再開したところ、右頚部のリンパ節が腫脹し、眼痛が再発した。また、顔面の発|
|赤は口のまわりから鼻の奥まで広がり、ときどき鼻出血がみられた。8日後、本剤|
|の投与を終了したところ、各症状とも消失した。約10カ月後、再び肝機能が悪化|
|したため、インターフェロン−αを投与しところ、前回投与時と同様の症状が発現|
|した。                                  |
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|併用薬:総合ビタミン剤、アミノエチルスルホン酸、             |
|    メチルメチオニンスルホニウムクロリド               |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 
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