1.硫酸アルベカシンと腎機能障害
 
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|成分名                |該当商品名            |
|     硫酸アルベカシン      |ハベカシン(明治製菓)      |
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|薬効分類等:アミノグリコシド系抗生物質                  |
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|効能効果 :メチシリン・セフェム耐性の黄色ブドウ球菌のうち本剤感性菌による|
|      下記感染症                          |
|         敗血症、肺炎                      |
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(1)症例の紹介
 MRSAは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococ-
cus aureus)の略称であるが今日ではほとんどすべてのβ−ラクタム薬に対して耐性
を獲得した耐性菌をいう。すでに1970年代には欧州や米国において院内感染の原
因菌として問題にされはじめ、日本においては1980年代の初めから多剤耐性の黄
色ブドウ球菌の検出率が増加し、MRSAによる院内感染が大きな社会問題となって
いる。
 硫酸アルベカシンは、MRSAに対する有効性が認められて平成2年(1990年)
9月に承認され、同年12月に発売されたアミノグリコシド系抗生物質である。発売
後約1年間に約9000例に使用されたが、このうち投与中に急性腎不全等の腎機能
障害を発現した症例が現在までに42例報告されている。これらの症例を年齢別にみ
ると60歳以上が34例(81%)、さらに65歳以上が26例(62%)と高齢者
に多く、投与期間でみると投与開始後7日以内に発現した例が17例、8〜14日以
内に発現した例が12例と2週間以内の発現が全体の69%であった。1日投与量は
150〜200mgが28例(67%)と最も多く、100mg以下に減量投与され
た症例は8例であった(表1〜3)。また、各種悪性腫瘍、脳血管障害、心不全等の
重篤な原疾患を有する患者が多く、特に全身状態が不良な患者に薬剤の影響が強くあ
らわれたものと考えられる。
 報告された症例の一部を紹介する(表4)。
 
表1 腎機能障害発現症例数(年齢別)
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 年 齢(歳)   症例数       使用成績調査症例数*
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  0〜44      3          335
 45〜54      1          232
 55〜64     12          553
 65〜74     11          892
 75〜84     13          945
 85〜        2          310
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 合 計       42         3267
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*:平成3年(1991年)1〜7月の期間中に本剤を使用した
  3267例の年齢分布
 
表2 腎機能障害発現症例数(投与期間別)
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 投与期間(日)        症例数
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  1〜 7           17
  8〜14           12
 15〜21            6
 22〜              7
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 合 計             42
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
表3 腎機能障害発現症例数(1日投与量別)
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| 1日投与量(mg)       |   症例数  |
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|       〜100      |     7* |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|    150〜200**    |    28* |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|    400〜         |     1  |
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|その他の | 75<−−150  |     1  |
|     +−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|投与量変 |100<−>200  |     4  |
|     +−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|更例   |150−−>300  |     1  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−+
|     合   計       |    42  |
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* :該当用量の範囲内の投与量変更例を含む
**:承認用量
 
(2)安全対策
 すでにアミノグリコシド系抗生物質は腎機能障害を発現しやすいことが知られてお
り、腎機能障害患者や高齢者では投与量を減量するなど十分な注意がなされている。
しかも硫酸アルベカシンの投与患者はMRSA感染症で一般に全身状態が不良であり、
薬剤の影響を受けやすい状態にあると考えられる。よって硫酸アルベカシンの投与に
あたっては、特に次の点に一層注意する必要がある。
1)使用はMRSAによる感染症(肺炎、敗血症)患者に限ること。
 単にMRSAが喀痰中に検出されたという理由で本剤を投与することは適当ではな
 い。
2)高齢者、腎機能障害患者、重篤な原疾患・合併症のある患者等のハイリスク患者に
 は投与量の設定等にも十分留意し、特に慎重に投与すること。
3)投与中は頻回に腎機能検査を実施すること。
4)できるだけ短期間の使用にとどめること。
 また、「使用上の注意」に必要な改訂を行い、注意喚起の徹底を図ることとした。
 
《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》
 
一般的注意
(2)急性腎不全等の重篤な腎障害があらわれることがあるので、投与中は腎機能検
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  査を行うなど慎重に投与すること。特に高齢者や重篤な基礎疾患・合併症を有す
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  る患者では、投与量の設定等にも十分留意し、患者の状態を観察しながら、特に
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  慎重に投与すること。
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次の患者に投与しないことが望ましいが、やむをえず投与する必要がある場合には慎
重に投与すること
(2)腎障害のある患者
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表4 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         60                     |
|   使用理由(合併症)  MRSA肺炎(腎機能障害)          |
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|1日投与量・投与期間:400mg14日間、200mg1日間        |
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|副作用−経過および処置                          |
|MRSA肺炎発症3日後より本剤を1回200mg、1日2回(1日量400mg|
|)点滴静注し、投与15日目に本剤の投与量を通常の投与量(1日量200mg)|
|に半減した。しかし腎機能障害の悪化を認めたため本剤の投与を中止した。グルコ|
|ース・インスリン療法、フロセミド及びポリスチレンスルホン酸ナトリウム投与に|
|て処置した結果、軽快傾向を示した。                    |
|                                     |
|  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    |
|             投与1日目  5日目 15日目 44日目    |
|  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    |
|  BUN(mg/dl)      35    38    71    35      |
|  クレアチニン(mg/dl)    1.6      2.1       3.7       2.2      |
|  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−    |
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|No.2                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         78                     |
|   使用理由(合併症)  MRSA肺炎(肺癌術後呼吸不全症、胃潰瘍穿孔)|
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|1日投与量・投与期間:75mg1日間、150mg11日間         |
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|副作用−経過および処置                          |
|肺癌のため、左肺全摘出術施行(以後2ヵ月間人工呼吸器にて管理)。2日後に胃|
|潰瘍穿孔のため手術を施行。その後MRSA肺炎を発症。各種抗生物質を投与した|
|が軽快しないため、胃潰瘍の手術施行後45日目に塩酸ミノサイクリンに切り替え|
|た。切り替え後40日目から本剤の投与を追加(1日目:75mg×1回/日、2|
|日目より:75mg×2回/日)した。本剤投与12日目に急性腎不全が発現し |
|た。その2日後に本剤の投与を中止したが、その後心不全に至り、呼吸不全にて死|