6.[医療用具安全性情報]
 
手術用手袋等天然ゴム製医療用具によるアナフィラキシー反応について
 
 米国で、手術用手袋等の天然ゴム製品に接触してアナフィラキシー反応を発現する
症例が報告されており、米国食品医薬品庁(FDA)は、医療関係者に対して、天然
ゴムによる即時型アレルギー反応について注意を促した。
 天然ゴム製品によって接触皮膚炎が起こることはよく知られており、それはゴム加
工時に添加される加硫促進剤などの化学物質によることが明らかとなっている。これ
は一種の遅延型アレルギー反応である。今回問題となっている症状は、IgE抗体が
関与する即時型アレルギー反応であると考えられている。アナフィラキシー反応を引
き起こすこともあるが、一般的には、あまり知られていない。そこで、現在までに得
られた情報を紹介する。
 
(1)症例の概要
 症状としては、局所的な蕁麻疹からアナラフィラキシー反応までさまざまである。
生命に関わるようなアナフィラキシー反応を示すことは多くはないが、天然ゴム製の
手袋等による接触蕁麻疹の既往をもつ者が手術を受け、天然ゴム製の手術用手袋をし
た医師や看護婦の手が粘膜組織に接触した場合にはアナフィラキシー反応を生じた例
もある。また、天然ゴム製の手袋の製造に携わっている労働者のなかには接触蕁麻疹
とともに喘息の発現がみられたとの報告もある。文献により報告されている症例をい
くつか表1に示す。
 
(2)発症原因
 原因物質は天然ゴム中のタンパクであるとされている。しかしどの程度の量のタン
パクが重篤なアレルギー反応を引き起こすのかはいまだ不明である。FDAは天然ゴ
ム製医療用具の製造業者に、可能なかぎりタンパクの量を少なくするよう働きかけて
いる。
 
(3)天然ゴムを使用した医療用具
 天然ゴムを使用した医療用具としては手術用手袋のほか、各種カテーテル、麻酔用
マスク、歯科用防湿用ゴムシートなどがある。
 
(4)米国FDAの対応
 FDAに寄せられる天然ゴム製の医療用具によるアレルギー反応の症例は、最近増
加している。FDAはこの事態を重くみて、その刊行物であるFDA Medical Bul-
letin(文献1)に「Allergic Reactions to Latex-Containing Medical Devices」
として記事を掲載している。
 FDAが医療関係者に対して行っている勧告の主な内容は次のとおりである。
a.下記のような患者に対しては、たとえば、天然ゴム製の手袋の着用またはオモチャ
 のゴム風船をふくらましたのちにそう痒、発疹、喘鳴などがあったかどうかなど、
 天然ゴムによるアレルギー反応の既往の有無についても十分に問診すること。
  ・手術を受ける者
  ・X線検査を受ける者(天然ゴム製のカテーテルや浣腸器により造影剤を注入す
   る場合)
  ・二分脊椎の者
  ・普段天然ゴム製品に触れている医療関係者
  
b.天然ゴムによるアレルギ−反応が疑われた場合には、プラスチック製等の代替品の
 使用を考慮すること。
 (例)患者が天然ゴムに対してアレルギー反応を有する場合、天然ゴム製の手術用
   手袋の上に他の材料でできた手袋を着用する。
    医療従事者と患者の双方が天然ゴムに対しアレルギー反応を有する場合には、
   両者が天然ゴムに接触しないよう配慮する。
c.天然ゴム製の医療用具を使用する際は、特に天然ゴム製の医療用具が粘膜と接触す
 るような場合は、常にアレルギー反応の発現の可能性に注意すること。
d.天然ゴムが原因であると疑われるアレルギー反応が生じた場合は、その患者に天然
 ゴムアレルギーの疑いがある旨を説明すること。
e.天然ゴムアレルギーの患者には受診前にその旨自分から申告するよう患者に指導す
 ること。重篤な天然ゴムアレルギーをもつ患者には、そのことを示すブレスレット
 等を身に付けさせるというようなことも考慮すること。
 
(5)報告のお願い
 現在のところ、我が国では同様の症例の報告はないが、天然ゴムアレルギーと疑わ
れる症例を経験した場合には、報告をお願いしたい。
 
《参考文献》
1)FDA Medical Bulletin,2:2(1991)
2)CDC:Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR),26:437(1991)
3)中村晃忠:生体材料,6:29(1991)
4)Axelsson,J.G.,et al.:Allergy,42:46(1987)
5)Leynadier,F.,et al.:Anaesthesia,44:547(1989)
6)Swartz,J.,et al.:Can.J.Anaesth,37:589(1990)
 
表1 症例の概要(文献3より)
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.1                              文献4|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性     女                           |
|   年齢    27                          |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|子供のとき時からアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息の既往症をも|
|つ。1977年から掃除婦として働きはじめゴム手袋を仕事に使ってきた。197|
|8年、手に湿疹があらわれたので、手の保護の目的で、より頻繁に手袋を使った。|
|1年後に手袋をはめるたびに手が痒くなるのに気づき、なるべく手袋をはめるのを|
|控えた。しかし、その1年後、ゴム手袋をはめた15分後に手が痒くなったので手袋|
|を外したが、手およびび手首が腫れて斑点があらわれ、瞼にも浮腫があらわれた。|
|1983年、家事に手袋を使用した際、5分後に手の痒みと蕁麻疹、眼の周囲の血|
|管神経性浮腫があらわれ、呼吸困難に陥り、ほとんど気を失いかけた。抗ヒスタミ|
|ン薬を服用して症状は改善し、1時間後には消失した。            |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2                              文献4|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性     女                           |
|   年齢    44                          |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|子供のころからアトピー性湿疹あり。1971年ころから、鼻炎、寒い日の運動後|
|の喘鳴、食物によるアナフィラキシーなどを経験した。長い間家事にゴム手袋を使|
|用していたが、使用開始10〜15分後に手に痒みを感じたり、小さな蕁麻疹や腫れを|
|経験してきた。また、ゴム風船をふくらます際に、唇のそう痒感と腫れに気づいた|
|。1984年歯科で根管充填の際にラバーダムを使用したが、20分後に頬が痒くな|
|るとともに腫れ、呼吸困難、顔面蒼白となった。抗ヒスタミン剤とヒドロコルチゾ|
|ンが投与され、1時間後には回復した。                   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3                              文献5|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性     女                           |
|   年齢    32                          |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|食物アレルギー(バナナ、アボカド)あり。ここ3年間ゴム手袋着用10分以内に始|
|まる蕁麻疹をたびたび経験した。以前、3回麻酔を受けたことがあったが問題はな|
|かった。今回、通常の麻酔下に卵管形成術が行われた。ゴム手袋をはめた手で看護|
|婦が天然ゴム製の尿道カテーテルを装着した15分後、アナフィラキシー様症状が出|
|現(血管性浮腫、蕁麻疹、喘鳴、次いで虚脱、チアノーゼ)。エピネフリン投与な|
|どで回復。                                |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.4                              文献6|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性     女                           |
|   年齢    14                          |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置                          |
|二分脊椎(spina bifida)のために、出生時よりゴム製の膀胱留置カテーテルを使|
|用してきた。8歳のとき、ゴム風船をふくらましたのちに眼の周囲の浮腫と紅斑お|
|よび舌のもつれを経験。また、ゴム手袋に触れると丘疹が出現した。今回、胆嚢切|
|開術を実施。麻酔45分後に腹内の処置を開始しパックが挿入された。その直後にア|
|ナフィラキシーに陥った。手術中止、腹内パックを除去したが改善は見られずほと|
|んど呼吸停止。酸素吸入、人工呼吸を行い、エピネフリン投与などで蘇生。   |
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