3.<解説> 高脂質血症治療薬の副作用について
 
 動脈硬化発生との関連から、血清コレステロール、あるいはトリグリセリド、高比
重リポタンパク(HDL)−コレステロールの異常値の判定基準が、それぞれ220mg/
dl以上、150mg/dl以上、40mg/dl以下とされるようになった。一方、薬剤による高脂
質血症の改善が動脈硬化の進展防止、一部改善に寄与することも判明してきた。臨床
家としては、いかにこれら薬剤を選択し安全に用いるかが重大な責務となっている。
 
1.薬剤の適応と副作用のチェック
 高脂質血症、とくに血清コレステロール、トリグリセリド、HDL−コレステロー
ルの異常が動脈硬化性疾患の重要な危険因子であることが判明して以来、高脂質血症
の治療によるメリットについても多くの追跡調査が示されるようになった。血清コレ
ステロール値を、他の危険因子との兼ね合いもあるが、180〜220mg/dl程度にまで低
下させることにより、一部では動脈硬化所見の改善も認められることがわかってきた。
 したがって、臨床家としてはいかに適切に薬剤を選び、安全に用いていくかが重要
であり、その意味でもそれぞれの薬剤の特徴と、副作用についての知識を十分に認識
して治療にあたらなければならない。
 表5に、主な高脂質血症治療薬についてその適応をまとめて示してある。基本的に
はどのような異常が患者側にあるかを検査によって知り、それに応じた薬剤を選ぶこ
とになる。
 副作用の発現のうち、発疹、悪心・嘔吐、便秘、下痢などの胃腸症状は、投与後直
ちに発現してくるが、GOT、GPT、CPK、LDH、などの肝あるいは筋肉由来
の酵素は、投与後2〜4週間くらいから異常値となる場合が多い。したがって投与開
始後必ず2〜4週間後には採血し、安全性を確認することが望ましく、血清脂質の改
善の程度とともに、投与の継続が可能かどうか知るべきであろう。
 
 
表5 主な高脂質血症治療薬の適応
−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           |   異常値を示すリポタンパク(または脂質)
           |−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           | VLDL    LDL(β-VLDL)  LDL     HDL*  
  薬剤       | (TG)     (TG、C)    (C)     (C)
−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
フィブラート系薬剤  |   ++            ++            +            +
ニコチン酸系薬剤   |   ++            +             +            +
陰イオン交換樹脂   |                               ++           +
プロブコール     |   +             +             ++
HMG-CoA還元酵素阻害薬 |   +             +             +++          +
−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
TG:トリグリセリド、C:コレステロール、VLDL:超低比重リポタンパク、
LDL(β-VLDL):中間型リポタンパク(異常VLDL)、LDL:低比重リポタンパク
HDL:高比重リポタンパク
+++:著効、++:有効、+:やや有効
*HDLの低値:HDL-C≦40mg/dl
 
 
2.個々の薬物の副作用
2.1. フィブラート系薬剤
 悪心、下痢、軟便、発疹などの他に脱毛、疲労感など、自覚的には直ちに確認でき
るものである。
 GOT、GPT、CPK、LDHなどの上昇が2週以降に認められることがある。
肝生検では異常が認められていないがGOT、CPKなどが上昇している場合は、筋
肉由来であることもあり、その際筋肉痛などに注意すべきである。とくにクレアチニ
ンが1.5mg/dl以上では投与量を減らすか、投与しないほうがよい。著しい場合には横
紋筋融解症が生じる。肝炎の患者には投与すべきではない。また、コレステロール系
胆石を生じることがあるが、胆汁酸投与で予防できる。
 
2.2. ニコチン酸系薬剤
 発疹、発赤、かゆみ、心窩部痛、頭痛、低血圧症状など、投与後比較的早期から認
められる。
 心房細動、その他不整脈や、耐糖能異常、GOT、GPT上昇等の肝機能障害、高
尿酸血症などが生じやすいので、投与前から異常値がある患者には注意すべきであろ
う。β遮断薬などと併用すると、より降圧作用が明らかとなる。発疹、発赤などはア
スピリンなどのプロスタグランジン合成抑制作用で防止できる例もあるが、そのメリ
ットについては不明である。
 
2.3. 陰イオン交換樹脂
 便秘が最も多く、老年者ほど、その頻度は高くなる。緩下剤投与で改善しうる。そ
の他、悪心・嘔吐、腹部膨満感、放屁、食欲不振なども認める。
 注意しなければならない点は、投与が長期にわたると、ビタミンK、A、Dの不足
などが生じたり、アルカリホスファターゼなどの上昇、ジギタリス等の吸収不足など
をみることである。
 
2.4. プロブコ−ル
 食欲不振、夜間頻尿、めまい、しびれなどの自覚症状のほかに、GOT、GPT、
CPKなどの上昇する例がある。
 新鮮な心筋梗塞、心不全、あるいはQTの延長例には投与すべきではない。ときに、
アルカリホスファターゼ、BUNなどが上昇することもある。
 
2.5. HMG-CoA還元酵素阻害剤
 悪心・嘔吐、腹部膨満感、胸やけ、頭痛、めまい、不眠などが認められることがあ
る。一部、水溶性と脂溶性とで頻度が異なるともいわれている。
 GOT、GPT、アルカリホスファターゼ、LDHの上昇、CPKの上昇と筋肉痛
が、シクロスポリン、フィブラート系薬剤との併用でやや頻度が増すといわれている。
肝障害例には、脂肪肝を除いては投与しないほうがよい。
                   (防衛医科大学第1内科教授・中村治雄)