骨格筋細胞と環境因子

骨格筋細胞と環境因子

 

吉岡利忠(第53回日本体力医学会大会会長)

 

骨格筋筋束からほとんど傷をつけることなく1本の筋線維(筋細胞)を分離することができる。哺乳類用に処方された弛緩液中で分離された単一筋線維は、その微細構造や収縮機能が維持されていると同時に、生きている細胞内に存在する種々な酵素も活性を失うことなく保持されている。さらに筋鞘剥離標本(スキンドファイバー)やグリセリン筋を用いることによって収縮張力も記録することができる。

筋線維は、筋芽細胞どうしの融合によって完成され、形態的、生化学的、収縮特性などの特徴からいくつかの種類の筋細胞として成熟する。一般的に3種類の筋線維を分けるが、それらの筋線維の構成比率の違いによって、筋器官は遅筋、中間筋および速筋を区別する。たとえば、速筋では速筋筋線維の占める割合が高く、ついで中間筋線維、遅筋線維と続く。

さて、体重の5割以上は骨格筋である。この骨格筋は身体の活動や不活動により機能的にも形態的にも変化し、その適応性、順応性は他の臓器に比較して顕著である。その背景を知るには、個々の筋線維が発揮する特性を知る必要があり、このためには生理機能を保持した単一筋線維を用いた研究で成し遂げられる。骨格筋における代謝特性や収縮特性はトレーニングの種類や強度により異なる反応を示し、代謝特性では瞬発的トレーニングを負荷することによって無酸素的に筋収縮エネルギーを供給するための解糖系酵素活性が、また持久性トレーニングでは有酸素系による酸化系酵素活性が、それぞれ特異的に上昇する。酸化系酵素活性の上昇は、細胞内ミトコンドリアの数や大きさの増大という構造上の変化に依存しているし、筋収縮時間、筋力、疲労耐性にも変化を生ずる。筋細胞に与えられる環境因子の変化による影響を、ミトコンドリア容量、細胞内イオン環境、エネルギー供給の観点から酸化系および解糖系酵素活性、クレアチンキナーゼとそのアイソザイム、電子顕微鏡による微細構造などの分析から、トレーニングに伴う骨格筋さらには不活動筋の特徴について述べてみる。筋細胞をとりまく環境因子によっていかに筋機能および構造が修飾されるものか、私共の数年にわたる研究結果を報告する。


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