「生活の中で体力・健康を知って活用する視点」

 

小木和孝(労働科学研究所)

 

 体力や健康は、私たちの日常生活の中にとけこんでいる概念だといってよい。日常会話の中でごく自然に語られ、ひとりひとりが自分の生活史の範囲で体力や健康がどう変化してきているかについての実感ももっている。周辺の人たちと、自他の体力や健康について、ある種の共感すらもてる。また、生活の質向上のための健康づくりに当たって、それぞれに体力や健康を知ろうと努めている。このように、多くの人が日常の変化について自ら知って活用している点で、体力や健康は、栄養、環境適応、疲労とストレス、高齢化、生活満足などの概念と似ている。

 こうした事実から、体力や健康について測定して指標化できる面だけでなく、各自や仲間同士の体力・健康について必ずしも測定できないが経験的に知っている面もあることが分かる。日常生活の中で、この後者も重要な役回りを演じている。その例として、次のような生活技術への応用場面を挙げることができよう。

  1. 自他の体力・健康についての自覚と共感(測定なしに会話もし、行動もする)
  2. 体力・健康についての生活上の工夫と習慣(生活の知恵をふんだんに生かす)
  3. その維持・増進のためのセルフケア(自主判断によって休養し改善する)
  4. 体力や健康が危機にあるときの迅速な対応(測ってからとはだれも考えない)
  5. お互いの世話と介護、自然な助け合い(皆が顔の見える交わりを尊重する)

 測れないなりに体力や健康を知ることが、少なくとも二つの点で役立つ。一つには、体力や健康の変化を経験的に知ることで、どうすればその維持・増進を図れるかを、いわば“生活技術”として体得できる。もう一つには、体力や健康に問題点が生じたときに、いちはやく対応できる。じょうずに活用していく手段として、対話、生活ニーズのランクづけ、チェックリストの利用、自主プランづくり、グループワークなどがある。

 したがって、体力や健康について測定した指標値なり、総合判定結果は、この多彩な生活技術応用を支援するサポート情報としての意義をもつことになる。つまり、測れる体力・健康は、部分情報にすぎない。科学的な上位情報・判定指標として扱わずに、むしろ測れないが利用している経験的な判断を補完する“介入支援情報”として扱うことが奨められる。その意味で実用的な指標にするには、その測定結果から、体力・健康のどの生活面を補う介入を、どう支援できるかがわかるようにしていく必要がある。

 介入軸としては、上記の(1)(5)に相当して、生活習慣の質向上、仕事と生活環境の整備、セルフケア策、危機管理、助け合いなどが重要である。これら多面の介入に役立つ指標化(対策指向の指標化)なら、測れない経験的判断と併用できる。また、介入が実際に効果的であることを、ある時は指標で、別の時には自覚で確かめることもできよう。測定可能な指標だけにたよらずに、自主判断を活用することで、個々人の条件と生活に見合った有効な体力づくり・健康づくりがすすむとみたい。

 




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