〜現在に到る運動負荷時体液・内分泌応答からみた健康・体力

〜現在に到る運動負荷時体液・内分泌応答からみた健康・体力

−測れる体力と健康指標との相関−

 

東京慈恵会医科大学 臨床検査医学

鈴木政登

 

高齢になっても生き甲斐をもち,しかも独力で日常生活ができることが向後の期待される高齢者像であろう.期待される高齢者像到達への医・科学的支援は,体育学,医学など学際領域からなる日本体力医学会々員の重要な使命の1つと考える.

(1) 加齢にともなう運動負荷時血液生化学成分および内分泌応答からみた習慣的   運動の影響

8〜82歳までの健康男女合計555名を対象に,負荷漸増運動を課し,VO2maxおよび血液成分の変化を観察した.HRmax,VO2maxおよび運動直後の血中乳酸濃度 (LAmax) は加齢により減少した.運動習慣を有する者は筋量あたりVO2maxが有意に高く,習慣的運動によって細胞内酸化系酵素活性も亢進することが窺われる.また,VO2maxが高い者ほどLAmaxが高く,血漿量の減少 (・%PV),血圧,白血球数の増加が顕著となる傾向であった.生体内組織の多くは,加齢にともないb-adrenergic response が減少し,高齢者は若年者に比し運動時血漿カテコールアミン (pAd, pNorad) 濃度が高くなる.また,トレーニング後にはVO2max の増加とともにpNorad濃度も高値となる.さて,最大運動時の体液成分の変動幅が増幅されることは,健康という観点から好ましいことであろうか?

(2) 測れる体力と健康指標との相関

期待される高齢者になるためには,そこに到る過程で健康阻害要因をいかに除去し,望ましい体力レベルを維持するかが重要と思われる.ここでは,20〜59歳の男性3116名を対象に,定量可能な健康指標(血圧,肥満度,血清脂質など),日常生活における健康阻害要因(運動不足,喫煙習慣など)と,健康関連体力とされる全身持久性能力 (推定VO2max) ,筋力および柔軟性などとの関連を調べた.定義された「健康」,「体力」いずれも抽象的要素が含まれるため,牽強付会かも知れないが敢えて両者間の関連を算出し,健康指標からみた体力の臨界レベルおよび望ましい体力レベルを設定した.

(3) 運動負荷時尿成分応答による糖尿病control状態推定の試み

健康人では,中等度運動後には尿中アルブミン排泄 (uAlb) 増加はみられないが,糖尿病 (DM) または境界域DMでは糖尿病のcontrol状態を示す指標 (FBS, HbA1c など) が悪化する程uAlb排泄が増す.中等度運動後のuAlbを指標として,当該運動強度の適否,運動による腎への負担や糖尿病のcontrol状態などが,推定できると思われる.

習慣的運動が重要であることに異論はないと思われる.しかし,生活に運動を取り入れ,それが生き甲斐の1つになるまでには,運動の啓蒙,生活のゆとり,環境整備など解決すべき問題が多い.それらの問題解決の遅速は,期待される高齢者造成費と寝たきり,痴呆など高齢者のcareに要する費用の試算が決めるかも知れない.




「測れる体力・健康、測れない体力・健康」のプログラムへ
プログラムへ
大会ホームページへ