筋電図から運動制御機構を模索する - Known or Still Unknown

  筋電図から運動制御機構を模索する - Known or Still Unknown

                  森 本  茂(横浜国立大学教育人間科学部)

 

 ”測れる”又は”測れない”と言うことは”測定”が可能であるか否かを意味する.測定は、事象に任意の”物差し”をあてることにより数値化したり(計量的測定)、数値化の依らずに一枚の写真の如くパターンとして事象を捉えたりすることで行われる(観察的測定).単に生命現象を数値化・パターン化することだけが、本シンポジウムのテーマの”測れる、測れない”の意味するところではない.例えば、数値、数値の経時的変化動態、観察対象への”揺さぶり”に伴う数値の変化などへの観察と思考から事象に法則性の有無と応用性を見出すことで”測れる、測れない”事が成り立つと考えられる.

 筋電図学的手法を用いて”健康・体力を測る”事に対し如何なる問題が提起されるか考えてみたい.

 疾患時の脳波、心電図と並列した範疇として”異常筋電図”がある.これらは”記録波形”をパターンとしてとらえ、正常と異常を判断する.疾病のある状態を”健康”の対語として単純に考えたとき、ここに”健康”を測ることが可能となる.

 骨格筋(線維)の収縮の引き金となる電気現象を電極を介して捉えたものが筋電図である.従って、筋収縮の誘因が随意、反射あるいは不随意であっても、骨格筋(線維)と神経系との2つの機能的組み合わせの結果を筋電位は表している.ここから、筋電図学的手法を用いて測定可能な体力要素が、運動制御(神経-筋協応能)の分野にあることが提示できる.筋電図学的手法から得られた結果を体力の評価の指標として用いようとする場合、如何なる”物差し”を設定できるかに問題が生じる.筋電図学的手法のひとつである筋内埋入電極法を用いて導出される運動単位の活動電位は、デジタル信号として捉えられるため、時間と言った”物差し”をあてて定量化できる.しかし、観血的な手法であるため、一般的に用いることは困難である.これに対して、表面電極法は電気現象を非観血的に容易に採取できるため、一般的に用いられている方法である.しかし、表面筋電位(波形)は、活動する多くの運動単位の活動電位が干渉しあうこと、筋および皮下組織の持つフィルター効果等からランダムな様相となり、定量的に扱うことが容易ではない.筋放電をパターンとして取り扱うこと以外に、”表面筋電位(振幅)には如何なる情報が内在しているのか”を知ることは重要課題であると考えている.この為には、振幅値を定量的な測定の対象として扱うために、”目盛り”を設定することが可能であるのかについて解決しなくては成らない.また、波形(時間に伴った電位変化)は如何なる仕組みにより成り立つのかを解釈し、如何なる”目盛り”をあてたとき、如何なる情報を引き出すことが出来るか見出す必要があると考える.

 

 

 

 




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