高齢者のトレーナビリティー

高齢者のトレーナビリティー

 

勝田 茂(筑波大学体育科学系・運動生理学研究室)

 

人生80年時代にふさわしい、ゆとりと豊かさに満ちた社会を実現するために、高齢化に対する研究が様々な学問分野において推し進められている。これに対する体力医学分野における役割は今後ますます高くなっていくものと思われる。そして、誰もが人生の最後の瞬間まで自由で自立した生活を送りたいと願っている。このような考え方をBoweKahnは、Science(1987)において「Successful aging」という言葉を用いて表現している。Successful agingを達成するための重要な要因の一つに、間違いなく運動機能の維持が挙げられるであろう。

一方、平成8年度の通産省「高齢社会対応型産業研究会」報告書によれば、2025年までの予測として、65歳以上を対象に健康な者と介護や援護が必要な者とに二分すると、全体の85%前後は健康な者に区分されることが示されている。したがって、この健康と区分される層はまさしく体力医学の分野で対応する層であると考えられる。

このような観点に立ってわれわれの研究室では、平成8年度から高齢者の運動機能にターゲットを絞り、特に筋について生理学的、生化学的および分子生物学的手法によりヒト及び動物を対象にして研究を進めてきている。特にヒトに関する研究は、高齢化率(65歳以上人口)が平成9年度23%である茨城県大洋村(人口約11,000)との共同研究を実施している。

これまでにおこなってきたもののいくつかとして、

1)20歳代から80歳代の男女約200名を対象に移動能力に大きくかかわる股関節を構成する筋群の横断面積の検討を磁気共鳴影像法(MRI)により実施し、加齢およびライフスタイルとの関係を検討した。

2)上記のデータをもとに、筋量増大のトレーニングメニューを作成し、199710月から週2回のペースでのトレーニングを実施しており、高齢者のトレーナビリティーついて検討した。

また、大洋村プロジェクトとは別に、

3)80歳以上で、現役として各種競技大会などにおいて優秀な成績をおさめている一流の者を対象に、筋を中心とした生理学的測定を実施し、同世代の標準的な被検者との比較を試みると同時に、高齢一流アスリートの身体特性について検討した。

4)加齢と運動の関係を探るための基礎的研究として、エネルギー産生能力として重要なミトコンドリアDNA(mtDNA)に着目した。最近mtDNAの変異の蓄積が、アルツハイマー、糖尿病などとも密接な関係にある可能性が示されているが、運動が変異の蓄積を抑制できるかどうかについてラット骨格筋を対象にして検討した。

本講演では、これらのデータを中心に、最近の知見も加えて紹介する。



プログラムのページに戻る
大会ホームページへ