有酸素性パワーを測るとき

有酸素性パワーを測るとき

― 身体サイズと最大酸素摂取量 ―

 

伊藤静夫(日本体育協会 スポーツ科学研究所)

 

「測れる体力、健康」のうち、体力、とりわけ「行動体力」については、測定方法や評価方法がある程度確立されているといえよう。しかしその「測れる行動体力」についても、標準化、スケーリングという観点からは、再考の余地があるのではないかと感じている。本シンポジウムでは、こうした立場で発言してみたい。

体力要素としては、特に最大酸素摂取量を取り上げる。最大酸素摂取量の単位は通常、1分間当たりの酸素の量で表わす(l/min)。しかし、身長や体重など身体サイズの影響を受けるので、有酸素性パワーとして評価する上では、身体サイズの影響を除去する手続きが必要になる。一般には、最大酸素摂取量を体重で除した値、すなわち体重1kg当たりの量になおして比較している(ml/kg/min)。この標準化は国際的にも広く認められた方法であり、ここでは酸素摂取量と体重が直線的な比例関係にあることが前提になっている。

ところで生物学では、異なるサイズの動物の代謝量と体重の関係は直線的な比例関係ではなく、指数関数的な曲線になることが見いだされてきた。この指数方程式、すなわちアロメトリー式において、動物の代謝量がそのサイズによらず体重の3/4乗に比例することが広く認められている。小さい動物ほど相対的に代謝量が大きくなり、大きい動物ほど代謝量は小さくなる。

スポーツ科学の分野では、前述の通り代謝量などは体重当たりの量で表すことが多いが、近年、身体サイズと生理的変量に関するアロメトリー式について検討した報告もみられるようになった。結果は測定対象によって異なるが、動物と同じく3/4乗に近いとする報告例が比較的多い。

我々の研究室では、ネズミとゾウほどの差はないにしても、かなり体重差の大きい選手たちの測定を実施してきている。女子マラソンのような痩身志向の強い種目から、体重(筋量)、有酸素性パワーともに大きいことが望まれる種目、あるいは一定体重を保持しなければならない体重制種目など、さまざまである。いずれも、体重が競技能力に深く関与するものととらえられている。こうした状況にあって、最大酸素摂取量を標準化する際、アロメトリー式による方法に比べ体重当たりの量で比較する従来の方法では、体重の少ない被験者ほど最大酸素摂取量を過大評価し、逆に体重の大きい被験者では過小評価する可能性がある。このことは、実用上問題にならない程度のものか、あるいは測定値の評価を変え得るものか、検討する必要があるだろう。

我が国では、かつて猪飼がこのことに言及した。しかしその後、具体的な議論は行われていない。そこで本シンポジウムでは、上記の観点から最大酸素摂取量の標準化について具体的な事例を紹介しながら話題提供する予定である。




「測れる体力・健康、測れない体力・健康」のプログラムへ
プログラムへ
大会ホームページへ