「防衛体力と免疫能 −運動による免疫系の変化−」

 

筑波大学臨床医学系・赤間高雄

 

防衛体力のうち、細菌やウイルスなどの生物的ストレス(感染症)に対する抵抗力は免疫系が担っている。運動によって上気道感染症(かぜ)の罹患率が変化することが知られており、これは運動が免疫機能を変化させる一例と考えられている。適度な運動は免疫機能を高めて上気道感染症の罹患率を下げるが、過度な運動は免疫機能を低下させ上気道感染症の罹患率を高める。運動による免疫系の変化を詳細にとらえるために、免疫系の様々な因子が測定されている。免疫系の構成因子は大きく細胞性と液性とに分類される。測定検体としては末梢血が用いられることが多く、血液中の変化を測定すれば体内の変化を総合的に判断することができるが、組織における変化は間接的に推定することになる。

 免疫系の細胞には好中球、単球、リンパ球などがある。好中球は食作用をもち感染防御に重要な役割を担っている。運動によって血液中の好中球は一過性に増加する。運動によって増加した好中球の機能についても検討されている。単球はマクロファージとなって食作用や抗原提示を行う。血液中の単球数も運動によって一過性に増加する。リンパ球はT細胞、B細胞、NK細胞などに分類され、いずれも運動によって血液中の数が増加し、なかでもNK細胞は著しく増加する。NK細胞はウイルスに対する感染防御において重要である。

 免疫系の液性因子には免疫グロブリン(抗体)、補体、サイトカインなどがある。血中の免疫グロブリンと補体は運動によって大きな変動はしない。唾液中の分泌型免疫グロブリンAは比較的長時間の急性運動によって一過性に低下する。唾液中の分泌型免疫グロブリンAは上気道感染症の感染防御に重要な役割をはたしており、運動による低下は上気道感染症の感染リスクの点から注目されている。サイトカインは免疫系細胞の機能を調節する物質で、免疫系の変化を鋭敏に反映すると期待される。運動に伴うサイトカイン血清濃度の変化としては、interleukin-1tumour necrosis factorα、interleukin-2interleukin-6interleukin-12などの測定が試みられている。しかし、サイトカインの血清濃度は非常に低いため、測定は容易ではない。血清にはサイトカイン関連物質として可溶性レセプターがサイトカイン自体よりも高濃度で存在する。可溶性レセプターの血清濃度は容易に測定できるが、その機能は必ずしも明らかではない。

 運動によって免疫系は影響をうけ、液性および細胞性の様々な因子が変動する。これらの因子の変動は運動強度、運動時間、運動の種類、および個人差などについてさらに検討を積み重ねる必要がある。




「測れる体力・健康、測れない体力・健康」のプログラムへ
プログラムへ
大会ホームページへ