SARIN #D

医療情報伝達について

 今回のサリン中毒のような、職員のほとんどが未経験で、
かつ多数の患者を取り扱わねばならない状況では、早急な医療情報
伝達が必須である。
医療情報は治療にあたる医療スタッフのみならず患者にも適切に伝
えられなければならない。

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#1.医療スタッフに伝えるべき医療情報

  1. 原因(今回の場合はサリン中毒)
  2. 原因疾患の病態(病態生理、症状、所見、合併症)
  3. 診察のcheck point
  4. 必要な検査項目
  5. 症状、診察所見、検査所見に応じた重症度評価法
  6. 重症度に応じた入院適応および収容先の決定法
        集中治療室、 一般病室、一時的観察室、外来待合室
  7. 必要な処置、治療法(病態、重症度に応じた)
         点滴(内容、速度)、投薬、酸素、点眼、更衣、洗顔、その他
  8. 治療に対する反応の評価法、経過観察すべき所見
  9. 各専門医へのconsultationについて
          今回の場合は、眼科、皮膚科、精神科、
  10. チャート 記載について
これらについて具体的に記述した印刷物を、現場の医師、看護婦に配布し、最善かつ
統一された治療、看護が受けられるようにすべきである。チェックリスト、特別なチ
ャートの作成と配布も必要である。
医療スタッフへの十分な情報伝達が第一の混乱を防ぐことになる。
 もう一つ重要なものに患者さんへの説明がある。

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#2.患者さんに伝えるべき医療情報

混乱の中で、秩序正しく最良の医療を行うためには患者への適切な説明、不安の解消
が必要である。具体的には以下のことの説明が必要である。
  1. 原因の説明
  2. 起こりうる病状、予後についての説明
  3. 現在行うべきことおよび現在行っている治療内容の説明
  4. 訴えるべき症状の説明
  5. 帰宅後についての指導 
などがある。病院として統一した見解を示し公平に取り扱うことが混乱を防ぐことになる。

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#3.医療情報伝達を円滑に行うには

 適切な医療情報伝達を行うにはいくつかの構成要因が必要である。
その中で最も重要な役を荷追うのは中核をなすべきhead quarterである。
その管轄下で、いくつかの班の組成が必要である。
  1. 学術班;サリン中毒に関する医学情報を得る。(図書室、中毒センター、
    他施設との連携による。)その結果をふまえて、head quater と協議し、診療
    方針を決定する。
  2. 秘書および連絡係;決定された方針、連絡事項を早急に文書化し関係各所に
    もれなく伝達する。現場での情報、状況をhead quarterに伝える。
  3. head quarter;学術班および現場からの情報をもとに前述の診療方針を決定
    し各部署に情報伝達させる。重症度別患者数、空き病床数を絶えず把握し、多数の
    患者の中から重症度の高い患者がより集中的治療の可能な病床への収容できるよう
    にする。その中で最低一人は院内各所を頻回に訪問し、診療内容を確認し、方針の
    徹底、治療内容のの均一化をはかる。

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二次汚染の防止

 サリンなどの神経剤は、体表のどこからでも吸収される。今回の汚染の用に蒸気、
エアロゾルとして空気中に散布された場合はそのまま、あるいは粉塵に吸着して散布
しおもに呼吸器、粘膜から容易に吸収される。あるいは衣類、身体の一部、持ち物に
付着しそれらが再度散布した者を吸収される可能性がある。とくに換気の悪い狭いと
ころに多数の患者を収容した場合高率に、患者自身あるいは医療従事者への二次汚染
の可能性がある。現に筆者自身も、瞳孔は軽度ながら縮瞳傾向をしめし、対光反射も
鈍であった。サリンは空気より比重が重く拡散しにくい傾向がありこういった二次汚
染対策が必要である。

今回の当院での状況では、受診者全員に脱衣、シャワーを施行させることは不可能で
あるが、少なくとも上着、セーターなどは脱衣させ患者ガウンに更衣させるべきである。
衣類、所持品は二重にビニール袋に収納し厳重に結紮し保管すべきであった。可能な限り
流水にて洗面手洗いをさせるべきである。重症者ほど衣類、所持品への汚染が強く、
こういった処置が必要である。

医療従事者は、必ずゴム手袋を着用し患者の更衣の介助あるいは所持品の処理をすべき
である。患者の衣類、所持品の処理については、廃棄が望ましい。中等症以上の症状を
呈した患者においては廃棄すべきである。ただし、軽症者では汚染の程度も軽いと考え
られ、衣類においては数日間の換気の良いところに放置したのち洗濯して使用すればよ
い。所持品についても同様に数日間放置した後使用すれば問題はないと思われる。

 施設としては可能な限り室内の換気を行う。とくに重症者を多数収容する集中治療室、
救急部では強制的な換気が必要である。スタッフについても可能な限り、手袋の使用、
頻回の更衣、交替が必要である。同一スタッフが継続的に重症患者のベッドサイドにつ
くことは望ましくない。


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サリン中毒患者診察上のチェックリスト

サリン中毒患者においては以下の症状、所見が見られますので、
下記の項目を特に重点的に、問診し、観察し、所見を記載して下さい。
一回目のあと、30分から1時間後にもう一度確認してください。
(悪化していれば要注意です)

自覚症状(軽、中等症者)
 目の症状
 1. 目の前が暗くなる
 2. ぼんやり見える
 3. 視野が狭い
 4. 目の奥が痛い
 5. 涙がでる
 6. 目がチカチカする

呼吸器系の症状
 7. 鼻水、鼻声
 8. くしゃみ
☆ 9. 咳
10. 喉、喉の奥の痛み
★11. 呼吸困難
☆12. 胸苦しい

神経系の症状    
           ☆13.  手足のしびれ
★14. 痙攣(線維束攣縮)
★15. 口が思うように動かない
 16. 物が飲み込みにくい
★17. 歩行困難
 18. めまい
★19. 座ってられない

その他の症状 ☆20. 吐き気
★21. 嘔吐
☆22. 脱力感

身体所見  
★バイタルサイン
 意識レベル(JCS)
 血圧、心拍数
 呼吸数
 瞳孔サイズ
 対光反射
★神経所見(振戦、痙攣)

検査所見
 血算
☆コリンエステラーゼ
★酸素飽和度(パルスオキシメータ)
 肝機能、腎機能


★入院適応
☆帰宅不可(要経過観察)

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医師及び看護婦へ

3月20日 10:30 am 配布
【診察のcheck point;重要なもの】  意識状態;clearでなければ24時間は経過観察が必要です(1桁は不可)
 振戦がないか
 痙攣がないか(これは除く)
 縮瞳がないか
 呼吸困難感・血痰など呼吸器症状がないか
 血圧・心拍数が安定しているか
 悪心、嘔吐、下痢などがないか
 皮膚刺激症状がないか
       
                              上記症状のうち、縮瞳を除く他の症状があれば院内での24時間以上
の経過観察を要します。
 縮瞳だけで元気な患者さんは帰宅可能。
 現在、重症でない患者さんは致命的になることはないまずありません。
 初診の後、30分後にもう一度確認して下さい。
   症状改善していればまず安心ですが、
    悪化しているようなら厳重観察あるいは治療が必要です。
 ただし、時に6-24時間以内に症状増悪することがありますので気をつけて
下さい。  縮瞳は1〜2日続き、3〜14日ぐらいにで徐々に改善します。
*採血必要の判断は担当医師の判断で行います。
採血の項目は緊急CBC、緊急Chemi、ChE(コリンエステラーゼ)に統一します。
*チェック項目、検査項目は以下のようにします
   Vital sign (BP、HR、RR)、Spo2(パルスオキシメータ)、上記採血、
必要に応じ動脈血液ガス
*皮膚粘膜刺激症状がある場合は積極的に、流水で洗い、手洗い、洗眼等行って
 ください。  可能な限り更衣させて下さい。
 特に上着、セーター類は脱衣させ患者ガウンを着せてあげて下さい。
 衣類、所持品はビニール袋に収納し厳重に封をして下さい。保管場所を明確に
 しておいて下さい。

 院内の換気は施設課が中心となって行っています。
*採血の結果はChEを含めて明朝までにでるそうです。
 帰宅される患者さんは明日(Mar.21)10:00〜14:00に代表(3541ー5151)
 への電話にて結果を報告します
*患者さんにはサリン系の物質らしく、24時間は院内にいて様子をみたほうがよい、
 と説明してください。
上記の全てのcheck point が問題のない患者のみ、
 14:00からの2階の内科外来でのcheck終了後、17:00以降に帰宅を許可して
 ください。
 (患者さんの連絡先を確認しておいてください。)

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医師及び看護婦へ

    3月20日2:00pm 配布
【担当レジデント】 省略
【入院患者のattending】
省略
【明朝までのorder】
 酸素;今晩2:00〜3:00に現在投与中の半分の流量とし、Spo2 95%以上であれ
ばさらに翌朝5:00〜6:00にoffとする。その後もSpo2 95%以上であれば酸素は
offのままとする(可能ならBGAをcheck)。
Spo2 95%以下であればその直前の酸素流量を再開して続ける。
 点滴;1500ml〜2000ml/日 程度、PAMは5:00amに中止
 経口摂取;誤嚥がなければ食事も可
【明朝の採血】
 対象;入院患者、holding中の患者のうちChE 90以下・呼吸器症状のある患者など
 検査項目;StatーChemi、ChE、必要であればBGA
 採血時間;明朝5:00〜6:00に行い9:00以降の回診に備える
【明日以降の治療方針】
 Dr.●、Dr.●が回診し退院の可否などを判断する
 退院・帰宅可能な患者の事務手続き・会計は明日も通常通り可能
*明朝(Mar.21) 9:00amから2階スタッフエリアにて関係Dr.を中心にmeetingを行います。
関係Dr.(上記Dr.含む)は全員出席してください。
*採血結果の電話対応はDr.●が責任者です。

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医師及び看護婦へ

    3月21日 10:30am
【本日以降の治療方針】  本日(Mar.21)9:00amからDr.●、Dr.●の回診にて判断します。
 回診順序;4E、リカバリーモ9E、8階〜4E(小児科6E、産科3Eも含む)モトイスラーホール
 眼症状のある患者は眼科医師が診察します(レジデントはDr.● 138)
 *外来followはWICで行いますが、できるだけ最寄りの医療機関の受診をお願い
します。
 眼症状のみは眼科外来です。
 *退院時サマリーは統一したものを配布します(Dr.●、Dr.●)
【退院手続き】(入院係からの配布済みの資料を参照、不明な点は
WIC 2100 ●さんまで)
 必要書類;オレンジシート(病名は“サ”と記載、中毒以外の治療を行った際には
“喘息”などの病名も記載 )、
 IDカード、退院薬(処方時のみ)、処置伝票
 会計開始時間;4W・リカバリーは10:00am、9階〜3階は10:30am、トイスラー11:00am
 会計方法;後日清算
 会計窓口;通常と同じ
【本日の外来】
 WIC(Dr.●、Dr.●)および救急外来にて行います
【明日以降の外来】
 WIC(担当医師は明朝までに決定)および救急外来にて行います
 眼症状のみは眼科外来を受診してください
*本日(Mar.21) 13:00から2階スタッフエリアにて関係Dr.を中心にmeetingを行います。
 関係Dr.は全員出席してください。
*本日の採血結果の電話対応はDr.●、Dr.●、Dr.●が担当しています。

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