サリン中毒重症例について 救急センター・救急部 高須伸克

1.SARIN

2. 重傷例一覧

番号  年令  性 来院時の症状       ChE値   転帰
症例1 32  女 縮瞳、心肺停止状態    測定不能  蘇生せず、死亡
症例2 21  女 縮瞳、心肺停止状態    10    第23病日死亡
症例3 27  女 縮瞳、心肺停止状態    13    第6病日軽快退院
症例4 55  男 縮瞳、全身痙攣
          意識障害、呼吸停止    10    第3病日軽快退院
症例5 27  男 縮瞳、全身痙攣
          意識障害、呼吸停止    19    第4病日軽快退院
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ChE正常値:100〜250IU/L

3.1 症 状

【軽 症】
眼      縮瞳,眼痛,視界がぼやける
       目の前が暗い),結膜充血,頭痛
鼻      鼻汁
呼吸器    呼吸困難,咳,胸部圧迫感
消化器症状  嘔気,嘔吐,下痢
筋      脱力感,筋攣縮
精神     不安発作,不眠
【重 症】
   (上記症状に加えて)
       呼吸停止,全身筋攣縮,痙攣
       意識障害,尿失禁・便失禁

3.2 検査所見

 (1)重症例では血清ChEは低値であった。
 (2)痙攣をきたした症例ではCPKの増加を認めた。

4 .治療

 以下に我々がおこなった治療法を示す。
(1)呼吸管理
サリンの死因は呼吸停止に伴うものである。
したがって重症例では気道確保,人工呼吸器管理が重要。

(2)硫酸アトロピン
[機序]
 アトロピンは神経末端のリセプターでAChを追い出すことにより,分泌液
 増加,気管支攣縮,徐脈,縮瞳などのムスカリン作用および中枢神経作用に拮抗
 する。AchEの活性は復活させず対症的療法である。
[投与法]
 初回0.5〜1.0mgを静注し,症状(頻脈,気道内分泌量低下,散瞳傾向など)
 をみて1時間毎に追加投与。

(3)PAM
[機序]
 PAM(2-pyridine aldoxime methiodide:1管[20ml]中500mg)は阻害
 されたChEを復活させる作用。根本的治療。
[投与法]
 まず1gを生食100mlとともに30分かけて静注投与。重症例には以後250〜
 500mg/hr持続投与した。
 文献上,純粋なサリンに阻害されたChEの自然回復はゼロ,老化(aging)の
 半減期は5時間とされている。したがってPAM投与は早期であれば有効である。

(4)Diazepam
 痙攣に対してはdiazepam10mgの静注によりコントロールした。
(5)その他注意すべきこと
[医療従事者の保護]
 特別な準備はなく,通常の重症救急患者の取り扱い同様,マスク,ゴム
 手袋着用して処置にあたった。
[診療室の換気]
 数時間診療に従事している医療者が眼の疲れや息苦しさを感じたため,
 室内の換気に務めた。
[患者の衣類除去]
 重症例では救急処置と並行して衣類の除去がおこなわれた。衣類はビニール
 袋にいれ密封し処分をすすめた。

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