最終報告書(案)要約

最終報告書要約


目次


第1章 高齢化社会における情報通信の重要性
 1−1 「未踏高齢社会」の到来
 1−2 活力ある高齢社会構築の基本理念
 1−3 マルチメディア生活文化の時代の到来
 1−4 未踏高齢社会における情報通信
第2章 情報通信による高齢者支援の考え方
 2−1 将来の高齢化福祉のイメージ
 2−2 情報通信による高齢者支援の基本コンセプト
第3章 情報長寿社会に向けて必要とされている情報通信システム
 3−1 分散型高齢者介護の分野で求められているシステム
 3−2 高齢者の生きがいや自己実現の分野で求められているシステム
第4章 高齢者支援情報通信システムに求められる条件
 4−1 高齢者、介護家族が使用するうえで求められる条件
 4−2 介護スタッフ、介護施設が使用するうえで求められる条件
第5章 情報通信技術面の現状と今後の見通し
 5−1 移動通信技術の現状と今後の見通し
 5−2 マルチメディア通信技術の現状と今後の見通し
 5−3 その他の関連技術の現状と今後の見通し
第6章 有望システムの有効性の検証
 6−1 実験対象システムの選定
 6−2 徘徊老人保護システム
 6−3 遠隔健康相談システム
第7章 高齢者支援情報通信システムの経済的側面の検討
 7−1 高齢者支援情報通信システムの市場規模予測
 7−2 費用負担に関する基本的な考え方
第8章 高齢者支援情報通信システムの整備目標
 8−1 整備目標設定の必要性
 8−2 取り組むべき高齢者支援情報通信システムの整理
 8−3 高齢者支援情報通信システムの整備目標案
第9章 情報長寿社会の実現に向けてとるべき施策
 9−1 今後の施策推進に求められる考え方
 9−2 進めていくべき施策
 9−3 施策推進に当たっての留意点

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第1章 高齢化社会における情報通信の重要性

1−1 「未踏高齢社会」の到来

 わが国の人口構成は、長寿化と出生率の低下によって、急速に高齢化が進んでいる。 厚生省の将来人口予測によれば、西暦2010年には、65歳以上の高齢者の比率は21.3 %に達し、わが国は世界一の高齢社会を迎えることになる。我々は文字通り「未踏高 齢社会」の入り口に立っていると言える。

 このような急速な高齢化の進展に対して適切な対処がとられなければ、社会の活力 を奪い、福祉の低下を招き、暮らしにくい社会を生むことにもなりかねない。我々は 医療・福祉サービスの効率化や生産性の向上など、今から必要な方策を講じていく必 要がある。また、我々が講じていくべき方策は、わが国に続いて高齢化が進む他の先 進諸国のモデルになるべきものであることを十分に認識する必要がある。

1−2 活力ある高齢社会構築の基本理念

 我々は未踏高齢社会に向けて、誰もができるだけ長く元気に生活でき、また、体力 や心身機能の低下があってもそれをカバーし、一生を通じて生き生きと暮らしていけ る社会環境を作っていくことが求められている。そのためには、これまでに生み出し てきた様々な技術を最大限に活用し、また必要な技術の開発を進め、技術(テクノロ ジー)と人間(ヒューマンウェア)との調和を図ることによって、社会に過大な負担 を生まない高齢者支援のしくみを作っていくことが必要になる。また、市民が自発 的・自己増殖的にボランティア活動を行う「参加型福祉社会」として未踏高齢社会を 捉えていく必要がある。

1−3 マルチメディア生活文化の時代の到来

 様々な技術の中でも、情報通信技術の活用は特に重要である。高齢化の進展と時を 同じくして全国的な光ファイバ網整備が進められることになっており、21世紀初頭 は、マルチメディア情報通信を基盤とした全く新しい次元の生活文化環境が展開され る時代でもある。そこでは、マルチメディア情報通信を活用した様々な生活支援サー ビスや娯楽が広く提供されるばかりでなく、人々の就業や教育、余暇活動など生活全 般のスタイルも大きく変わるものと考えられている。

1−4 未踏高齢社会における情報通信

 そして、急速に進歩する情報通信はまた、未踏高齢社会を支える最も重要な基盤に なるであろう。なぜならば、情報通信が可能にする人と人とのふれあいやコミュニケ ーションは、これから充実させていくべき高齢者支援のあらゆる面で、その土台とな る要素だからである。もちろん、情報通信の活用がかえって高齢者との直接のふれあ いを妨げないよう、情報通信を人々のふれあいの代替手段としてではなく、人々のふ れあいや助け合い、協力の可能性を広げる手段として活用していくことが大切である。

 以上のような基本理念を踏まえて、我々は早急に、未踏高齢社会に向けてどのよう な社会を構築していくのか、またその中で情報通信をどのような形で活用していくの かについて、具体的な将来像を描く必要がある。

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第2章 情報通信による高齢者支援の考え方

2−1 将来の高齢者福祉のイメージ

 21世紀初頭の長寿社会における高齢者福祉のスタイルは、「要介護高齢者=介護 福祉サービス、元気な高齢者=生きがいサービス」という二分法的な考え方ではなく、 ひとりひとりの高齢者が積極的に生活していくために必要な支援をそれぞれに合った 最適な形で提供するという連続的イメージでの高齢者支援になると考えられる。

 高齢者福祉の中でも介護の分野については、今後、在宅介護や小規模・分散型でよ り開放的な施設での介護が中心になっていくと考えられる。 このような高齢者介護 形態の分散化と多様化に対応して、地域社会のネットワークを基盤とした、オープン な高齢者介護・支援体制を整備していくことが必要である。

 一方、介護以外の面では、高齢者の生きがいや積極的な生活を可能にするさまざま な支援サービスを提供していくことが考えられる。特に、高齢者が自分の力で生活し、 加齢による心身機能の衰えを抑え、より長く元気でいられるようにする「予防的観 点」に基づいた支援を行うことが重要である。

 これらの高齢者支援を行う主体も、政府や地方自治体、あるいは民間企業などばか りでなく、市民の自発的・自己増殖的なボランタリー・ネットワークが大きな役割を 果たすようになると考えられる。

2−2 情報通信による高齢者支援の基本コンセプト

 分散型での高齢者支援では、高齢者とその支援関係者はお互いに別々の場所にいる ため、コミュニケーションや遠隔支援サービス等を情報通信によって十分に確保し、 高齢者が安心して積極的に生活できる環境を提供することが特に重要になる。また、 高齢者の生活の場になる住宅や小規模施設を高齢者向けの構造にしたり、さらに街全 体を高齢者にとって活動しやすい環境にする上でも、情報通信の活用は不可欠である。 これらのニーズに答えていくことによって、未踏高齢社会における情報通信は現在よ りもはるかに幅広くかつ重要な役割を担うことになる。(図1図2

 今後実現すべき情報通信による高齢者支援の概念を整理すると、次のようになる。

 まず基本的な情報通信活用分野として、高齢者に必要な医療、保健、福祉サービス を提供する医療・保健ネットワーク、福祉サービスネットワーク、そして高齢者の趣 味や交流、社会参加等を支援する生活支援ネットワークがある。さらに、情報通信に よりこれらの支援サービス相互を有機的に結び付け、在宅介護等を総合的に支援する 介護支援(トータルケアサービス)や高齢者の生きがいや生活の質を総合的に高める 参加と選択支援(ライフプロモーションサービス)を実現していく。(図3

 このように、情報通信の活用によって個々の高齢者が必要な支援を受け、安心して 積極的に生活できる環境を実現した社会を「情報長寿社会」(Info-Aging-Society) と呼ぶことにする。「情報長寿社会」は、高齢化社会に向けて情報通信整備・充実を 進める際に我々が目指すべき社会像である。

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第3章 情報長寿社会に向けて必要とされている情報通信システム

3−1 分散型高齢者介護の分野で求められているシステム

 分散型の高齢者介護を支援する情報通信システムは、高齢者・介護家族・介護スタ ッフそして各種の介護支援施設等をトータルに結び、これらの関係者間での多様な形 態でのコミュニケーションを実現するものでなくてはならない。(図4

 一般に、高齢者は新しい技術や新しい機器には馴染みにくく、新しい情報通信シス テムの利用には消極的であると考えられがちである。しかし、本調査研究で実施した アンケート調査およびヒアリング調査では、高齢者自身をはじめ高齢者を在宅介護す る家族、各種の介護支援施設にも、介護を支援する情報通信システムに対して切実な ニーズが存在し、次のような情報通信システムの整備が強く求められていることが分 かった。(表1)

   表1 介護支援分野でのシステムニーズの強さ

(得点による順位付け)
順位 一般高齢者    得点 介護家族     得点 中高年層     得点
 1 広域自動緊急通報 80.0 広域自動緊急通報 77.2 広域自動緊急通報 92.0
 2 介護相談     72.5 高齢者位置探査  76.4 医療相談     85.2
 3 高齢者位置探査  71.8 介護相談     71.1 介護相談     83.1
 4 医療相談     70.0 医療相談     70.6 福祉ショッピング 82.0
 5 会話支援     68.8 福祉ショッピング 64.1 会話支援     81.9
 6 福祉ショッピング 65.7 会話支援     63.6 高齢者位置探査  77.4
 7 自動誘導     53.7 自動誘導     49.0 自動誘導     63.5

  ※「ぜひ利用したい」〜「全く利用しない」の5段階評価の回答を
   得点化し集計したもの。
   (100点=「ぜひ利用したい」〜0点=「全く利用しない」)
  1. 在宅高齢者に対する医療、介護等の提供を行うシステム(遠隔医療相談システム等)
  2. 在宅高齢者のライフラインとなるシステム(広域自動緊急通報、見守りシステム等)
  3. 介護家族の負担軽減に役立つシステム(徘徊保護システム、福祉相談システム等)
  4. 分散型介護支援スタッフを支援するシステム(スタッフ用携帯情報通信システム等)
  5. 各種介護支援機関の連携のための情報通信システム(施設間会議システム等)

3−2 高齢者の生きがいや自己実現の分野で求められているシステム

 情報通信を使って高齢者の身体機能補完や機会提供などを行うことによって、高齢 者が生きがいを持って積極的に生活の幅を広げていくライフプロモーションが可能に なると考えられる。ライフプロモーションの具体的な支援内容は、高齢者ひとりひと りの身体機能の状態や、ライフスタイルなどによって異なるので、多様な支援メニュ ーが求められる。

 アンケート調査結果によれば、ライフプロモーションを支援する情報通信システム やサービスに対して特に中高年層での利用意向が強く、以下のようなシステムに対し て、20〜30年後に大きなニーズが生まれると考えられる。(表2)

   表2 ライフプロモーション分野でのシステムニーズの強さ

(得点による順位付け)
順位 一般高齢者      得点  中高年層       得点
 1 生活情報電話サービス 63.4  自宅就業システム   82.5
 2 ボランティア参加支援 61.0  仕事紹介サービス   78.9
 3 スポーツ相談サービス 55.7  習い事サービス    77.2
 4 習い事サービス    55.0  生活情報電話サービス 76.3
 5 自宅就業システム   51.6  ボランティア参加支援 76.0
 6 仕事紹介サービス   50.6  趣味の電話サービス  73.7
 7 趣味の電話サービス  49.8  スポーツ相談サービス 66.5
 8 お年寄専用チャンネル 46.7  お年寄専用電話    65.7
 9 お年寄専用電話    44.4  お年寄専用チャンネル 59.6

  ※「ぜひ利用したい」〜「全く利用しない」の5段階評価の回答を
   得点化し集計したもの。
   (100点=「ぜひ利用したい」〜0点=「全く利用しない」)
  1. 高齢者のコミュニケーションを確保するシステム(テレビ電話、パソコン通信等)
  2. 高齢者のアクティビティ支援システム(自動誘導、ロボット車イス等)
  3. 高齢者の日常生活支援システム(シルバーショッピングシステム等)
  4. 高齢者向け娯楽提供システム(立体テレビ、高齢者向けビデオオンデマンド等)
  5. 高齢者の生きがい提供システム(趣味・スポーツ・生涯学習支援ネットワーク等)
  6. 高齢者の社会参加支援システム(遠隔就業システム、ボランティア支援システム等)

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第4章 高齢者支援情報通信システムに求められる条件

4−1 高齢者、介護家族が使用するうえで求められる条件

 高齢者やその介護者は、身体機能や費用負担能力などの面で制約が大きい場合があ るので、高齢者支援情報通信システムの導入・普及に当たっては、操作性や機能性に 十分留意すると共にデザイン面や費用面に配慮し、高齢者やその介護者等の状況に合 った条件で提供していくことが不可欠である。

 アンケート調査結果によれば、一般高齢者では手操作をしないで済むような情報機 器のガイド機能、コントロール機能の高度化への要望が強かったが、介護家族では、 手操作をしやすくする操作性の向上が上位に上がっている。また、中高年層では「キ ーボードが不要」など未来的な機能補完を期待している。このように、高齢者支援情 報通信システムに求められている条件は、利用者の立場や年代によっても違いがある。 (表3)

   表3 情報通信機器に関する要望
       (現在準備中です)

4−2 介護スタッフ、介護施設が使用するうえで求められる条件

 専門的に高齢者介護を行うスタッフや介護施設等にとっては、情報通信システムは 自らが提供するサービスや業務を高度化し充実させるための手段であり、情報通信シ ステムに求められる条件も、高齢者本人や介護家族にとっての条件とは異なるものに なる。

 例えば、高齢者では操作性についての特別な配慮が必要になるが、介護施設等で利 用するシステムではシステムそのものの能力や機能がより大きな条件になる。特に、 今後分散型の介護環境を十分に機能させるためには、介護施設のシステム相互の接続 性を確保することが重要な条件になっていくと考えられる。また、情報通信を利用し たサービスに対する料金体系の明確化も必要になってくる。

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第5章 情報通信技術面の現状と今後の見通し

5−1 移動通信技術の現状と今後の見通し

 今後、新しい携帯電話システムである簡易型携帯電話システム(PHS)が実用化 される見込みである。PHSは、電波の到達距離が短いというシステムの特性を活か し、徘徊老人の所在確認し保護するシステムへの活用が考えられる。

 無線呼出しは、大量のデータ送信が可能になる等、一層の高機能化が進むと共に小 型化が進む。音声なども自由に送れるようになるため、徘徊保護など多様な用途で活 用することが考えられる。

 携帯データ端末はすでに様々なメーカーから製品化されているが、今後はPHS等 の双方向無線通信網や光ファイバ網との組み合わせにより、介護スタッフの支援や高 齢者のコミュニケーション支援に十分役立つものになっていく。

5−2 マルチメディア通信技術の現状と今後の見通し

 現状では、テレビ電話は個人で購入するには高価であり、画像の精度やスムーズさ 等にも制約がある。今後は、画面精度の向上等の高機能化が進み、技術的には高度な 医療行為も支援できるレベルに達し、低価格化も急速に進んでいくと考えられる。

 テレビ会議システムはダウンサイジングが進み、分散した多数の施設を同時に結ん で会議を行うなど、より高度なテレビ会議が可能になる。各施設の連携をとっていく 上で非常に重要な役割を果たすと考えられる。

 現在でも医療分野での画像伝送の利用は比較的盛んである。今後は、ハイビジョン 動画等が光ファイバ網などの高速ネットワークを通じて自由に伝送できるようになり、 高度な遠隔医療サービス等を本格的に提供可能になると期待される。

 現在の仮想現実感技術はまだ試験的なレベルにとどまるが、今後、仮想現実感技術 が十分に成熟すれば、外出が困難な高齢者等にとって、仮想的な旅行の疑似体験など 生活を豊かにするさまざまなサービスでの活用が可能になると考えられる。

5−3 その他の関連技術の現状と今後の見通し

 センサー技術は、徘徊老人の出入り管理や部屋の中の動きを検知する生活センサー 等の簡単な機能のものが実用化されている。今後の方向性として、寝たきり老人の体 位検知やおむつの中の尿の検知等、高齢者介護に応用していくことと、会話支援など 高度な機能補完を実現していく高機能センサーの開発が考えられる。

 情報共有化を実現する技術として分散データベースの構築技術が進み、今後は各施 設がそれぞれの施設規模に応じたデータベースを設置しネットワーク上で他の施設と データを共有しあえる環境が整うと考えられる。

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第6章 有望システムの有効性の検証

6−1 実験対象システムの選定

 本研究会では、これらの技術によって可能になる代表的な高齢者支援情報通信シス テムについて、現在の技術レベルでのシステムの有効性を検証するため、システムの フィールド実験を行った。

 今回の実験で取り上げたシステムは、「徘徊老人保護システム」と「遠隔健康相談 システム」である。これらは、すでに実用化もしくは近日中に実用化される技術を利 用しており、現時点で実現性の高いシステムである。また、一般高齢者や介護家族等 のアンケート調査においても、比較的高いニーズが見られたシステムでもある。

6−2 徘徊老人保護システム

 簡易型携帯電話システム(PHS)利用と無線呼出し利用のシステムで実験を行った。

 PHSを利用したシステム実験では、追跡開始から発見までの平均保護時間が10分 以内と概ね良好な結果となった。また、徘徊者と追跡者が移動した距離は概して追跡 者の移動距離の方が少なく、効率的な保護がなされた。

 一方、無線呼出しの場合は発見に至らないケースが何件か見受けられた。しかし、 通信インフラとしては普及の進んだものであることから、実験の参加者からは早期の 実用化を期待する声が多く聞かれた。

 今後の課題としては、PHSを利用したシステムでは、対象エリアの狭さやデッドゾー ンの存在、追跡者とセンターとの情報伝達方法の煩雑さ等が挙げられる。無線呼出 しを利用した実験では、通行人へのメッセージが明瞭に聞き取りにくいなど、機能面 での工夫が必要である。両者に共通の課題として、徘徊老人に身につけてもらえる端 末の開発、社会的な認知度を高めていくことなどが必要である。

6−3 遠隔健康相談システム(詳細は別添レポートを参照)

 遠隔健康相談システムは、テレビ電話・テレビ会議システムを用いて、訪問看護ステーション等のセンター側と在宅患者側とを結び、遠隔で医師が診察を行ったり、ソーシャルワーカーが在宅療養者に対する生活支援等を行うものである。  今回の実験では、医師等が在宅での診察、介護、リハビリ、健康相談等の現場にお いて、どのような情報を収集しているかを踏まえた上で、遠隔医療等におけるテレビ 電話等の情報通信システムの有効性に関する評価と課題を抽出することを目的とした。

 遠隔健康相談システムが、医療や生活支援のサービスを提供する側にとっても、そ れを利用する側にとっても有効であることが確認できた。中でも、リハビリに代表さ れる身体の運動能力等の観察が重要になるケース、表情の読み取り等から患者の精神 面の把握が重要となる生活支援のケース等では、特に有効な結果となった。また、圧 倒的多数の利用者は、医師、看護婦等のサービス提供者の顔が見えることによる安心 感を強調しており、中にはこのシステムがもはや生活に欠かせないものになったとい う声も見受けられ、情報長寿社会においては不可欠なサービスになる可能性を秘めて いると言えよう。

 今後の課題としては、サービス提供者側からは、画像の精細度の向上、動きの再現 性の向上、カメラのズーム・方向の遠隔制御、聴診情報の伝送等の機能・性能の向上 が指摘された。サービス利用者側からは、ボタン操作の簡素化等機器の使いやすさの 向上、サービス提供の24時間体制、緊急通報の機能の必要性等が指摘された。両者 に共通のものとして、機器の低価格化、心電図、体温等のバイタルデータの伝送等が 指摘された。

 また、このシステムを使った医療分野の診断は、医師の事前の訓練の効果が大きい との指摘があった。

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第7章 高齢者支援情報通信システムの経済的側面の検討

7−1 高齢者支援情報通信システムの市場規模予測

 高齢化の急速な進展に伴い、高齢者の消費活動の規模も急速に伸びていくと予測さ れている。本調査研究会で実施した高齢者消費市場規模予測によれば、西暦1989年に は18兆円であった高齢者消費市場が、西暦2010年には約124兆円に拡大すると見込ま れる。また、高齢者支援情報通信システムの整備が順調に進めば、西暦2010年には、 高齢者消費市場全体の15.4%に当たる約19兆円が、情報通信関連市場となるものと見 込まれる。

 このように、情報長寿社会に向かって、高齢者支援情報通信システムやサービスは 市場として大きく拡大する可能性を持っている。(表4)

   表4 2010年の高齢者消費市場と情報通信関連市場の予測

             高齢者消費市場
          情報通信関連   (B/A)
          (A)  市場(B)  (%)
 食料        19.43   0.00    0.00
 住居         6.61   0.17    2.51
 光熱・水道      6.39   0.00    0.00
 家具・家事用品    3.14   0.00    0.00
 被服及び履き物    5.30   0.00    0.00
 保健医療       9.78   0.53    5.46
 交通・通信     17.62   6.79   38.52
 教育         1.11   0.02    1.41
 教養娯楽      21.88  10.69   48.84
 その他の消費支出  32.58   0.91    2.80
 合 計      123.84  19.10   15.42

          情報通信関連機器市場
 家庭            1.48
 医療施設・老人福祉施設等  0.04
 合計            1.52

7−2 費用負担に関する基本的な考え方

 高齢者支援情報通信システムを整備し活用していくには、高齢者等のサービス利用 者側とサービス提供側の双方でコストが発生する。一方、高齢者世帯での費用負担能 力には限界があるため、高齢者支援情報通信システムの整備範囲や負担軽減措置の在 り方等の点について議論し、社会的な合意を形成していく必要がある。

 利用者側(高齢者や介護家族)でのコストについては、利用者の自己負担を基本と しつつも、負担能力を超える部分については何らかの公的支援が必要になろう。シス テム構築コストについては、今後整備が進む情報通信インフラを最大限活用すること でコストの低減が図れるが、システムによっては、インフラ整備が完了する前に強い 利用ニーズのあるものもある。これらのシステムを個別に先行的に整備するには大き なコストがかかるため、何らかの公的な支援措置が必要と考えられる。(図5

 いずれにしても、高齢者支援情報通信システムは十分な費用対効果の検討の上に整 備されるべきであり、システム導入によってかえって高齢者支援のための社会的な負 担を増加させるようなことは避けなければならない。

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第8章 高齢者支援情報通信システムの整備目標

8−1 整備目標設定の必要性

 わが国の人口の高齢化は短期間に急速に進展するため、高齢化に対する対応も具体 的な将来展望とスケジュールに基づいて、迅速に進める必要がある。したがって今の うちから、情報長寿社会の実現に必要な高齢者支援情報通信システムをいつまでにど の程度まで整備するかという具体的な目標を定め、段階的に整備を進めていくべきで ある。

 この計画の策定に当たっては、システムニーズの大きさ、緊急性、代替手段の有無 などから判断して、プライオリティの高いものから早急に整備を進めていく必要があ る。また、同時期に次世代情報通信インフラの整備が進むことを踏まえ、インフラ整 備の進展に合わせた整備目標とし、次世代情報通信インフラの積極的な活用を図って いくべきである。

8−2 取り組むべき高齢者支援情報通信システムの整理

 今回の調査・実験で把握したサービス利用ニーズや技術的実現性などを考慮すると、 早急に取り組むべき情報通信システムと、中長期的な視点で取り組むべき情報通信シ ステムに区別して考えることができる。(図6

(1)早急にシステムの整備に取り組むべきもの
徘徊老人保護サービス、広域自動緊急通報サービス、遠隔医療相談サービス、遠隔介 護相談サービス、生活情報サービス、要介護者見守りシステム、ボランティア情報サー ビスなど

(2)中長期的な視点でシステムの整備に取り組むべきもの
高齢者就業支援サービス(仕事紹介サービス、在宅就業システム)、生涯学習(習い 事)サービスなど

8−3 高齢者支援情報通信システムの整備目標案

 今後、西暦2010年までに全国の家庭まで光ファイバ網が段階的に整備される計画に なっており、高齢者支援情報通信システムの整備目標も、これを踏まえたものにすべ きである。

 西暦2010年までの整備目標は概ね次のように想定できる。なお、光ファイバ網が先 行的に整備されるモデル地域においては、システムの整備も前倒しで進められる必要 がある。

  1. 西暦2000年までに、緊急性の高いシステム、ニーズの高いシステムの内、現在の インフラ、技術をベースに実現できるシステムについて、それらを必要とする高齢者 が利用できる環境を整える(広域緊急通報システム、徘徊老人保護システム、簡易テ レビ電話、介護支援スタッフ用携帯電話など)。これらシステムは、光ファイバ網が 十分に整備されるまでの補完的なシステムまたは光ファイバ網を利用した高度なシス テムに円滑に移行するための基礎的システムとして機能する。

  2. 西暦2005年までに、全国の高齢者支援施設(ケア・コーディネーションセンター 等)を中心とした光ファイバ通信網の整備を進め、総合的な高齢者介護支援ネットワ ークを実現する。また、これらの光ファイバ網を有効に活用できる介護支援アプリケ ーションや機器を開発し、提供する。(本格的な在宅医療・介護相談、福祉データベ ース、福祉ショッピングシステム、介護スタッフ用携帯端末等)

  3. 全国的な光ファイバ網の整備が完了する2010年には、必要な機器、アプリケーショ ンサービスの開発・整備を完了させ、すべての高齢者が医療・介護のみならず生活全 般にわたって情報通信を有効に活用できる環境を実現する。(高齢者向けマルチメデ ィア端末、各種の高齢者ネットワーク、就業支援システム等)

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第9章 情報長寿社会の実現に向けてとるべき施策

9−1 今後の施策推進に求められる考え方

 情報通信を活用した情報長寿社会の実現には広範な領域をカバーする総合的な取り 組みが必要であり、関係方面との協力によってこれらを並行して進めていく必要があ る。特に、高齢者支援情報通信市場は今後、市場規模が急速に拡大していくと見込ま れるので、民間による積極的な市場開拓によりサービスの充実を図っていくことも重 要である。

 今後20〜30年間は、人口の高齢化、在宅介護支援などの高齢者福祉環境の整備・充 実、情報通信技術の進歩や基盤整備がいずれも急速に進むと見込まれる。これら諸環 境の変化を随時考慮しながら、柔軟に施策を展開していくことが求められる。

9−2 進めていくべき施策

施策1:情報長寿社会に関する将来ビジョンの明確化と制度改善の推進
・中長期的な施策の指針となる将来ビジョンを厚生省等と協力して国民各層の参画のもとに策定
・高齢者支援での情報通信活用を促進する関係諸制度の改善を推進

施策2:在宅高齢者、介護家族支援のための情報通信システム整備の推進
・有望システムの地域実験等の実施
・無線通信利用システムの技術面・制度面での検討
・有用性が認められたシステムの整備・普及支援策について検討

施策3:高齢者福祉関連施設の情報通信機能整備の推進
・スタッフの介護活動を支援する情報通信機器の導入支援策を検討
・高齢者支援情報通信システムのセンター機能を果たすべき福祉関連施設の設備投資、システム構築、スタッフ教育等に対する支援策を検討・実施
・福祉関連施設間での情報共有化、ネットワーク化を推進するしくみの構築について、厚生省等と協力して検討

施策4:情報通信システムを使ったライフプロモーションサービスの推進
・高齢者の社会参加支援、生きがい支援のための情報通信活用に関する調査研究を引き続き実施
・地域実験の場等を通じて、情報通信システムを使ったライフプロモーションサービスの有効性等を検証
・パソコン通信サービス等でのライフプロモーションサービスの提供を推進

施策5:必要な技術開発・機器開発の推進
・高度情報通信基盤等を活用した高齢者支援技術、機器開発を推進
・高齢者が使いやすい機器デザイン、機能デザインの研究と機器開発を推進
・高齢者支援情報通信システム、機器について必要な標準化を推進
・高齢者支援情報通信機器の開発や情報提供、展示等を行うセンターを設置・充実

施策6:低負担での支援システム、サービス利用のための制度の整備
・無料または低額での機器貸与制度、通信料金の割引や公的機関による一部負担制度等、利用負担軽減のための制度を検討

施策7:必要な教育、人材育成の推進
・高齢者支援関係者のソフト開発等の研修施設、制度の設置を検討

施策8:高齢者支援ニーズに合致した情報通信基盤整備の推進
・過疎地域等において高齢者支援に必要な高度情報通信基盤整備を早急に進めるための支援策を検討・実施

9−3 施策推進に当たっての留意点

 高齢者支援情報通信システムの整備と活用が円滑に進むよう、情報通信システムそ のものの整備に当たっては以下の点に留意し、適切な対応をとっていく必要がある、

  1. 各高齢者、各家庭、各地域の実情に合わせた支援サービスの実現
  2. 高齢者が積極的に生活することを支援する姿勢
  3. 人を技術に合わせるのでなく、技術を人に合わせる考え方での技術開発
  4. 高齢者支援におけるリエンジニアリング
  5. 負担能力に応じた費用負担の実現(公平と平等)
  6. 都市部とそれ以外の地域との格差への配慮
  7. 個人情報等のセキュリティ対策、プライバシーへの十分な配慮
  8. 地域・広域の役割分担と連携
  9. 官と民、NPOとの役割分担と連携
  10. 国際的連携の推進
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