今、米国では医師が診断治療を行うに際しての標準的な指針を作ろうという動きが現実化している。この作業を進めているのは、日本の厚生省にあたるU.S Department of Health and Human Services の一機関である Agency for Health Care Policy and Research (AHCPR) である。
日本では、難治疾患など特殊な場合は別として、通常の疾患に対しては標準的な医療行為があるという考え方にはどちらかというと否定的な見解が多く、患者の病状は個々に異なるから医師の個別の判断が重視される。しかし、米国ではガイドラインという形で標準を示そうという考え方の方が強く、これまでも色々な所がガイドラインを発表している。今回の AHCPR のガイドラインはそれを一歩進めて、国が関与してガイドラインを作ろうという点が興味深い。このようなものを作る背景としては、医療費対策もあるであろうが、一方医師の方にしても、訴訟を起こされた場合などこのようなガイドラインがあれば対応しやすいという面もあるようである。
ガイドラインを作ったといっても、1995年現在、まだ対象は16疾患で、術後の痛み、尿失禁、褥創、白内障、うつ病、鎌形赤血球症、HIV、前立腺肥大、癌の痛み、狭心症、心不全、中耳炎、急性腰痛、脳卒中後リハビリテーションなどでしかない。しかし、いずれも最もよく遭遇する疾患に対するガイドラインである点は注目され、今も作業は続けられているからこの数は年々増加するであろう。
このガイドラインにはいくつかの興味深い点があるが、その2、3をあげてみると、第一は医師向けのガイドラインと対をなす形で患者向けのガイドラインが作られている点である。これは Consumer Guide と名付けられている。また、第二はこのガイドラインを作るに当って徹底的に文献を調べ、全ての recommendation が科学的根拠を持つようにすることを目標としている点である。これは、最近 evidence-based medicine と呼ばれる傾向とも一致した考え方である。
これを作成するにあたっては、専門家の委員会(Panel)が作られ、長い場合は2ー3年かけて作られている。因みに術後の痛みの場合は、マサチューセッツ総合病院の麻酔科の Daniel B.Carr 教授を委員長とする20人以上の委員会で、中には看護婦も多く入っている。
日本でこのようなガイドラインが作りべきか否かは今後の議論にまつべきであろうが、日本の医療関係者が一度これを眺めてみるのも参考になると思い、米国の担当者である Kathlene McCormick 博士の許可を得てUMIN からリンクを設けることにした。
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