21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について

−21世紀医学・医療懇談会第4次報告−

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はじめに

本懇談会は,平成7年11月の発足以来,来るべき21世紀における我が国の医学・医療の姿を見据え,新しい時代に対応した教育,研究,診療の進展を図る上で必要な諸方策について検討を重ね,これまで,3次にわたる報告をとりまとめ,提言を行ってきた。

特に,平成8年6月にとりまとめた第1次報告においては,21世紀において国民の命と健康を守る責務を果たすことのできる医療人を育成するためにはどうすべきかという観点から,入学者選抜方法及び学部教育の改善を中心とする幅広い提言を行った。この提言を踏まえ,各大学においては,医学教育の改革に係る様々な取組が行われている。

一方,医療系の学部を含む大学全般の基本的な在り方については,大学審議会において,平成9年10月に文部大臣の諮問を受けて審議が行われ,平成

10年10月に「21世紀の大学像と今後の改革方策について」の答申がまとめられた。この答申には「競争的環境の中で個性が輝く大学」との副題が付され,1課題探求能力の育成を目指した教育研究の質の向上,2教育研究システムの柔構造化による大学等の自律性の確保,3責任ある意思決定と実効を目指した組織運営体制の整備,4多元的な評価システムの確立による大学等の個性化と教育研究の不断の改善,という4つの基本理念に沿った具体的な改革方策が提言されている。

また,医療面においては,本格的な少子高齢化社会を迎え,我が国の疾病構造が急性疾患から慢性疾患中心となり,医療も長期にわたって,患者の生活の中で共存しながら行われるような状況へと変化してきている。このような中で,単なる治療成績の向上ばかりでなく,患者の生活と人生の質(QOL;Quality

of Life)にも配慮のいきとどいた,良質な医療サービスを受けられるよう,適切かつ効率的な医療提供体制を確立することが緊急の課題とされ,厚生省を中心に各種の検討が進められているが,その一環として,医師・歯科医師の資質の向上とともに,その将来における需給見通しも踏まえた育成・確保体制の適正化の必要性も指摘されている。

本懇談会では,このような状況を踏まえ,教育部会,研究部会における議論に加え,教育部会の下に医師・歯科医師のそれぞれの育成体制の在り方を検討するワーキング・グループ,さらに教育部会と研究部会の合同による医学・歯学教育制度検討小委員会を設けて,21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について,幅広く検討を行ってきた。

このたび,これまでの議論の結果をとりまとめたので,第4次報告として公表することとしたものである。

国においては,本報告で提言した改革が着実に推進されるよう,関係省庁が連携しつつ,基盤の整備と各大学の取組への支援を進めることを要請する。

さらに,各大学においては,この報告を踏まえつつ,それぞれの特色を生かし,個性的かつ多様な教育研究が行われることにより,21世紀の命と健康を守る医師・歯科医師が育成されることを期待するものである。


(注)本報告書においては,大学医学部・医科大学における,医学を履修する  課程を「医学部」と総称する。また大学歯学部・歯科大学における,歯学  を履修する課程を「歯学部」と総称する。


1 基本的な検討の視点

今日,我が国の医学・医療は,患者一人一人の人権や意思を尊重した,国民に開かれた医療の実現,少子高齢化,高度情報化社会への適切な対応,世界をリードする先端的な医学・医療の研究開発の推進,地球的規模での医学・医療協力への貢献など,様々な重要課題に当面している。

今後の医師・歯科医師の育成に当たっては,これらの諸課題を踏まえ,将来における国民の多様かつ高度な医療サービスに対するニーズにこたえる人材や,将来の医学・医療を切りひらく研究の進展に寄与する人材を育成することが求められている。

こうした要請にこたえるため,各大学においては,学部教育,大学院教育,さらに卒後臨床研修などを通じて,それぞれの特色を生かした多様な教育活動を展開し,幅広い視野を持って生涯にわたり主体的に学習・研究をしていくことのできる医師・歯科医師を育成することが望まれる。

なお,将来における医師・歯科医師の需給見通しへの対応を考えるに際しても,単に数量的な調整を図るというのではなく,上述の観点から,医学・歯学教育の内容の改善とそのための適切な教育研究条件の確保を図ることを基本としなければならない。

本懇談会においては,このような基本的視点に立って,21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方を検討し,以下の提言をとりまとめたところである。



2 大学における教育研究体制の改善の方向

国民の命と健康を守るため生涯にわたって研鑽に励む医師・歯科医師には,まず明確な目的意識と使命感,倫理観が必要なことは言うまでもない。

特に,今日の医療においては,医師・歯科医師は,患者の持つ様々な背景に留意しつつ,診療の内容や方針を患者に十分に説明し,その理解を得るとともに,患者の人権や意思を尊重し,相互の信頼関係のもとに,責任を持って,全人的な医療に当たることが要請されている。その際,薬剤師,看護婦(士),保健婦(士),助産婦,診療放射線技師,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,歯科衛生士,歯科技工士などの他の医療人との密接な連携によるチーム医療やチーム・ケアの果たす役割が大きくなっている。このため,医師・歯科医師に求められる資質として,幅広い教養や体験に裏付けられた豊かな人間性と,それに基づく判断力,コミュニケーション能力やマネジメント能力が,ますます重要になってきている。

また,医療の高度化,専門化の一方で,地域に根ざしたプライマリ・ケアや高齢者医療,救急医療などの身近な医療体制の不十分さが指摘されており,これらに対応した人材の育成が急務になっている。

さらに,国際化の中で,我が国が,世界をリードする先端的な医学・医療の研究開発に寄与するとともに,国際保健医療協力の分野において一層積極的に貢献することが求められている。

これらを踏まえ,各大学においては,次のような方向に沿って,教育研究の改革を推進することが望まれる。


  1. 学部教育の改善

学部段階においては,明確な目的意識と適性を有する者を入学させ,今日の医療の課題に対応した教育を行い,適切な進級認定等を経て,十分な知識・技能・態度を身に付けた者を卒業させるという観点から,次のような改善を推進すべきである。

@入学者選抜方法の改善

医師・歯科医師として適性のある者の適切な選考を行うため,現在,多くの大学で面接や推薦入学の導入等が図られてきているが,引き続き,面接の充実,適性検査の活用,地域を重視した推薦入学の実施など,入学者選抜方法の一層の工夫改善に努めることが必要である。

また,多様な学習経験,職業経験を有する社会人等で,明確な目的意識を有する者の医師・歯科医師への道を開くため,既にいくつかの大学で編入学制度が導入され,多くの大学において近い将来の導入が検討されている。編入学制度は,人間的に成熟した段階で進路を決定した者を受け入れることにより,幅広い教養を持ちコミュニケーション能力に優れた医師・歯科医師の養成を目指すだけでなく,多様な経験を有する者が共に学ぶ環境を作ることで,他の学生も含めて広い社会的・学際的視野を養うことにつながるものとして期待される。さらに,特定領域の能力を有する研究者の養成という観点からも有効であると考えられる。今後,各医学部・歯学部において,入学者の特性に対応した多様で個性のあるカリキュラムやコースの編成を工夫しながら,編入学制度の導入の拡大と充実を図っていくことが望まれる。

A豊かな人間性の涵養とコミニュケーション能力等の育成

医療人としての自覚や患者の立場に立った全人的ケアの重要性についての認識を深めさせる観点から,現在,多くの大学において,入学後の早期の段階における,患者としての病院等への体験入院,医療現場の見学や介護・福祉施設等での実習などの体験学習が行われてきているが,これらをさらに効果的なものとするため,各大学において,受け入れ施設との協力体制を確立し,体験学習の期間,プログラム,評価等について十分な検討を行った上で,取組を推進することが望まれる。

また,医師・歯科医師として求められる豊かな人間性を涵養していくために,教養教育の果たす役割は重要である。近年,6年一貫教育の導入等により,ともすると教養教育の時間が削減されたり,教育内容が医学・歯学と関連の深い自然科学や外国語の分野に偏るといった傾向も見受けられるが,教養教育の理念・目的を考えれば,十分な時間の確保とともに,幅広い分野から受講科目を選択できるようにしていくことが望ましく,そのため,単位互換制度や,放送大学の活用も検討すべきである。

さらに,患者や他の医療人等とのコミュニケーション能力を育成するため,コミュニケーション技法や行動科学等に関する教育を行う大学も増加してきているが,これらを促進するとともに,あらゆる教育活動を通じてこのような能力を育成していくという意識を高めていくことが必要である。

また,医師・歯科医師に求められる資質として,生命の尊厳や個の尊重,医の倫理に関する深い認識を持っていることが不可欠であり,生命の尊厳についての教育や,死についての教育等の一層の充実を図っていくことが必要である。

B少人数教育の推進と臨床実習の充実

現代の医学・医療は多岐にわたり,しかも日進月歩で発展しており,医療をとりまく状況が変化し,複雑化する中,学生や卒後臨床研修の段階における教育だけで,必要な知識・技能の全てを修得することは不可能である。このため,医師・歯科医師には,自ら問題を発見し,その解決方法を見出す能力,生涯にわたって自ら学び,その成果を患者に還元していく能力が求められる。このよ

うな能力の育成を図るため,少人数教育やチュートリアル教育(*1)の導入を


*1 具体的事例を用い,グループ討論や個人学習,チューターとよばれる教員による学習援  助などの問題解決型学習を通じて,自己開発能力の育成を図る教育プログラム。


図る大学が増えてきているが,これを一層促進していくべきである。そのためには,学部教育,卒後臨床研修を通じて,学部及び附属病院の全ての教員や医員が協力して,学生や後輩の医員の教育に当たるという意識を高めるとともに,ティーチング・アシスタント制度(*1)の活用も考える必要がある。

また,学生に対し,専門的な知識にとどまらず,患者,家族や他の医療人とのコミュニケーションの在り方を含む医師・歯科医師としての実践的な臨床能力や態度を体得させるためには,実際の医療の場における臨床実習の一層の充実を図ることが重要である。このため,クリニカル・クラークシップ(*2)と呼ばれる臨床実習の実施,地域の医療機関の臨床経験豊かな人材に学生の教育に協力していただく「臨床教授」制度の導入,大学病院と地域の医療機関との連携による学外実習の実施等を引き続き推進することが必要である。

さらに,患者の人権や意思を尊重した医療の実現という観点から,インフォームド・コンセントの重要性が高まり,医療情報の積極的な開示が求められるような状況を踏まえ,診療録などの医療記録の記載方法に関する教育等について,臨床実習の前段階及び臨床実習を通じて,その充実を図ることや,看護など他の医療職に係る理解を深めるための教育についても,充実を図ることが望まれる。

C教育内容の精選と多様化

今後,医学・医療に対するニーズはますます多様化し,地域医療はもとより,福祉・介護,国際医療協力,製薬等の様々な分野において,医師・歯科医師の一層の活躍が求められるようになることが予想される。各大学においては,こうした社会的ニーズの多様化に対応して,かかりつけ医機能を担う人材,医療・福祉・介護の連携の要となる人材,国際医療協力に携わる人材,生命科学などの学際的な基礎研究に携わる人材など,様々な人材を養成することができるよう,多様な学科やコースの導入を積極的に図っていくべきである。

そのためには,まず,精選された基本的内容を重点的に履修させるコア・カ


*1 優秀な大学院学生に対し,教育的配慮の下に,学部学生に対する助言や実験,実習,演  習などの教育補助業務を行わせ,大学教育の充実と大学院学生への教育トレーニングの機  会提供を図るとともに,これに対する手当の支給により,大学院学生の処遇の改善の一助  とすることを目的とした制度。

*2 学生が病棟に所属し,医療チームの一員として,実際に患者の診療に携わるような臨床  実習の形態。


リキュラムを確立し,学生が主体的に選択履修できる科目を拡充・多様化することが必要である。例えば,医学部の臨床実習においては,臨床二十数科ある各科を均等に回るのではなく,必須の科を数科にして長期間回り,ほかの科を選択制にして,必須以外の科の必要事項は救急医学実習において補完する等の工夫を行うことが考えられる。

また,医学部・歯学部においては,特に専門科目について単位制が採用されていない大学が多いが,このことが教育内容の精選や単位互換の実施を推進しにくくしているとの指摘もある。今後,単位制を積極的に導入するとともに,他学部の授業科目の履修を可能とすることや,大学間の単位互換制度を活用し,学生の学外における学修を単位として認定すること,大学病院衛星医療情報ネットワーク(MINCS-UH)などのメディアを利用した遠隔授業の実施などにより,学習内容に関する選択の幅を広げるよう努めるべきである。

D適切な進級認定システムの構築と進路指導の充実

医学部・歯学部における教育の効果を高め,質の高い医師・歯科医師を育成するためには,カリキュラムを組織化し,学生が臨床実習に入る際の進級の時点及び卒業認定の時点において,それぞれ必要とされる能力・適性の目標を設定し,段階を踏んで厳正にチェックすることが必要である。特に,臨床実習に臨む学生の能力・適性について,全国的に一定の水準を確保するとともに,学生の学習意欲を喚起する観点から,米国における3段階の試験制度のstep1

(*1)を参考にして,各大学における進級認定のための共通の評価システムを作ることについて検討すべきである。また,臨床実習に必要な技能・態度を評価するため,OSCE(Objective Structured Clinical Examination 客観

的臨床能力試験(*2))を導入する大学が増えてきているが,今後ともこのような取組が促進されることが必要である。

さらに,十分な指導を行ったにもかかわらず,医師・歯科医師としての能力・適性に欠けると判断された学生に対しては,できるだけ早期に,適切かつ積極的な進路変更の指導を行うべきである。学部内に臨床医以外に進む者のため


*1 米国の医師資格試験は3段階に区分されており,そのうちstep1は,基礎医学に関する  試験。医学校の専門課程を2年以上修了した段階で受験することができ,ほとんどの医学  校において,この試験に合格することを臨床実習段階に進級する条件としている。

*2 医療面接,身体診察法などの基本的臨床能力を身に付けているかどうかを評価するため  の実技試験。


の学科やコースを設けたり,他学部の授業科目の履修を可能とするなどの連携を図ることは,進路変更を容易にすることにも資するものであり,こういった観点からも,このような取組の推進が必要である。

E今日の医療の課題に応じた諸分野の教育の充実

今日の医療においては,プライマリ・ケアや地域医療の充実,高齢者医療の充実と介護・福祉との連携,救急医療体制の整備,医薬品の適正使用,効果的・合理的な医療提供など,様々な課題が指摘されており,これらに対応した医学・歯学教育の充実が求められている。



  1. 大学院における教育研究の改善

大学院段階においては,研究的思考法を身に付けさせるための教育機能を重視するとともに,今日の医学・医療の諸課題に対応するための高度かつ多様な教育研究を展開し,我が国が,世界をリードする先端的な医学・医療の研究開発に寄与するという観点から,次のような改善を図るべきである。

@教育機能の重視等

大学院の医学・歯学研究科は,研究者のみならず,研究的思考法を備えた高度の専門家を育成するという役割を担っている。しかし,従来,我が国においては,一般に研究者養成のみに重点が置かれ,かつ,その内容は論文作成の指導が中心であり,科学的な思考法や研究の方法論を身に付けさせるための体系的な教育は必ずしも十分に行われていないと考えられる。今後,大学院においても,その教育機能を重視して,体系的な教育目的・内容を明確に持ったコースを設定し,コースワーク中心の学修を導入することも検討すべきである。

また,医学・医療に関する研究は,いずれも生命を対象とするものであることから,その意義・倫理性,研究が及ぼす影響などについて,十分な理解の下に実施していくことができるよう配慮することが必要である。

A今日の医療の課題に対応した教育研究の充実

学部教育において,今日の医療の課題に対応した各種分野の教育の充実や多様な人材養成が必要であることは前述したが,その前提となる研究の充実やより高度の専門性を有する人材養成のためには,大学院の果たす役割は大きい。特に,広い意味での公衆衛生の分野については,欧米等諸外国においては,医療経済,医療政策,疫学,国際保健,生物統計学,行動科学など幅広い領域について,医師,看護婦をはじめとする多様な背景を有する学生が学ぶ公衆衛生大学院(School of Public Health)が存在しているが,我が国においても,

公衆衛生の分野における人材養成のためのセンター的な機能を有する大学院を設けることについて,後述のように制度面の整備も含めて検討することが必要である。

B基礎医学や学際的領域の教育研究の充実

今日の先端医療は分子生物学を基礎としており,基礎医学・歯学や生命科学に関する学際的な教育研究を,臨床分野と密接な関連を持たせながら推進することがますます重要になっている。

このため,例えば,米国のM.D.-Ph.D.,D.D.S.-Ph.D.コース(*1)に見られるように,臨床医学・歯学に係る教育と関連させつつ,早期に基礎的な研究能力を育成するための教育を行うコースを設けることや,経済的支援を充実させることなど,将来研究者を志向する優秀な学生を支援する方策について検討す


*1 米国の医・歯学校の修業年限は通常4年であり,卒業すると,専門職学位である

D.(Doctor of Medicine),D.D.S.(Doctor of Dental Science)が授与されるが,研究を  志向する優秀な学生のために,通常の学修と並行して,研究者としての学位であるPh.D.  (Doctor of Philosophy)を取得するための学修を行い,6〜7年間の修業年限で両方の学  位を取得することのできるコースが置かれているところがある。

ることが必要である。

さらに,各々の大学の特色を生かして,生命科学,行動科学,情報科学,工学等の医学・歯学に関連する諸分野を横断する学際・境界領域の教育研究を行

う独立大学院・研究科を設置することについても,各大学の状況に応じ検討が行われることが期待される。

C国際的に卓越した教育研究拠点の整備

現在,いくつかの国立大学において,教育研究条件の整備方策の一つとして,大学院に重点をおいた整備が進められているが,これらの大学をはじめとして,大学審答申を踏まえた教育研究実績等についての多元的な評価システムの確立とあいまって,教員の業績の厳正な評価とその流動性の促進を図り,教育研究を活性化することにより,国際的に評価を受ける卓越した教育研究拠点の形成を目指すべきである。

D卒後臨床研修及び専門医・認定医制度との関係

医師・歯科医師の資質向上のために,現在,後述のように,卒後臨床研修の必修化が検討されている。卒後臨床研修と大学院医学・歯学研究科への進学の時期については,現在のところ,各大学もしくは個々人の判断に委ねられているが,このような状況を踏まえ,今後,臨床系の大学院への進学については,卒後臨床研修終了後とし,一方,基礎系や社会系の大学院への進学については,必ずしも卒後臨床研修後であることを要しないが,臨床に転向する際には,その段階で臨床研修を行うことを基本として,引き続き両者の関係について検討することが必要である。

また,各学会が設けている専門医・認定医制度の一層の整備の在り方については,現在,関係者による協議が行われている。その状況を踏まえつつ,大学院医学・歯学研究科とこれらとの関係について,今後,引き続き検討することが必要である。


  1. 教育研究の国際交流の推進

地球規模での協調・共生が求められる時代にあって,国際的な視野を持って世界に貢献できる人材を育成する観点から,次のような教育研究の国際交流を推進すべきである。

@留学生の受入れ等

国際的な見地から医療関係人材の育成に貢献するため,医学部・歯学部及び大学院への留学生受入れの一層の拡大に努めることが必要である。

その際には,各大学の実態に応じて,外国語による教育プログラムや留学生のニーズにこたえる短期集中型の特別プログラムの整備など,組織的な受入れ体制を整備するとともに,国費留学生等の奨学金制度との連携を図ることが重要である。また,病院建設等のハード面の国際医療協力支援事業と密接に連携した留学生受入れプログラムは,ハード面の事業のフォローアップになるとともに,留学生が我が国で得た教育研究の成果を母国で活かす場の確保にもつながるものと考えられ,このような取組の推進について検討することが望まれる。

さらに,大学間の教育研究交流の基盤として,単位互換や授業料の相互不徴収等を含む学生交流協定や,学術面での研究協力協定の締結を促進し,双方向の人的交流を一層推進することが必要である。

A国際医療協力に係る人材の育成

国際医療協力に貢献することのできる人材を育成するため,医学部・歯学部においては,国際医療協力に関連した大学院の整備充実や研修プログラムの開発等を進めることが必要である。その際,国際医療協力が多様な分野の人材からなるチームによって行われることから,保健専攻など関連専攻との連携に留意した教育体制を充実すべきである。このことについては,前述したような公衆衛生分野の大学院整備の一環として,重点的に取り組まれることが期待される。

また,海外の大学において臨床実習を行ったり,国際医療協力の現場での体験学習を行ったりすることは,学生の国際的視野を広げ,将来国際医療協力へ従事する動機付けともなるなど極めて有益であり,各大学において,そのような活動を積極的に単位として認定するなどの取組を促進すべきである。

さらに,結核,熱帯性疾患,寄生虫等,開発途上国において求められている諸分野の研究が,近年我が国において十分に行われなくなりつつあるという現状にあり,これらの分野に係る研究拠点を整備することが必要である。


  1. 教育研究を支える体制の整備

以上のような学部及び大学院における教育研究の改善を推進するために,その基盤となる体制についても,次のような整備を図るべきである。

@教員の教育能力及び流動性の向上

医学部・歯学部における学生に対する教育機能を充実強化し,学生本位の教育を推進するためには,すべての教員の教育に対する意識を高め,教育能力の向上を図る必要がある。また,患者の意思を尊重した開かれた医療を行うことのできる医師・歯科医師を養成する観点から,豊かな人間性の涵養やコミュニケーション能力等の育成が求められる今日,学生の教育を担当する教員にまずそのような資質が求められることはいうまでもない。現在,文部省と厚生省の共催により,毎年,医学教育・臨床研修の指導者を養成するための全国的な医学教育ワークショップが開かれ,さらにその参加者が中心となって,各大学においても,ワークショップが開催されている。今後,歯学教育を含めて,全国的にも,また,各大学においてもこのようなファカルティ・ディベロップメント(*1)活動を充実し,教員の資質の向上を図ることが必要である。

特に,チュートリアル教育やクリニカル・クラークシップなどの新しい教育方法や,臨床疫学や臨床薬理学などの新たな分野に係る教育を充実していくためには,これを担当する教員の資質向上が不可欠であり,そのための研修プログラムの開発等を進めていくことが必要であるとともに,医学・歯学教育に係る研究活動についても,その充実を図っていくことが求められるところである。

教員の採用や昇任の際の業績評価においては,研究業績に偏ることなく,教育に関する過去の優れた実績やワークショップ等の研修活動への参加実績を評価したり,実際に授業を担当させてみるなど,これまで以上に教育に関する能力や意欲を重視するとともに,臨床能力についても積極的に評価すべきであり,そのため,具体的な評価方法・基準について検討すべきである。

また,教員の流動性の一層の向上を図り,教育研究の活性化を確保するため,各大学において,教員の教育研究業績の定期的な点検,評価に力を入れるとともに,大学の教員等の任期に関する法律に基づく,実情に応じた任期制の導入についても検討することが望まれる。

さらに,医学・医療に対する社会的ニーズの変化に迅速かつ的確に対応する

ため,固定的な専門分野に限定されずに幅広い視野での学際的な教育研究を推進することができるよう,近接した学問分野の教員によって構成される大講座制の組織を積極的に導入していくことも必要である。


*1 教員が授業内容・方法を改善し,向上させるための組織的な取組の総称。


A学部及び大学病院の組織運営及び評価体制の整備

医学部・歯学部の教育研究体制の改革を効果的に進めるためには,学内において,学部長及び病院長の権限を明確化すること,長期在任を可能とすること,補佐体制を整備すること等により,そのリーダーシップの強化を図ることが必要である。

また,各大学においては,地域の医療機関等との連携・協力体制も含め,教育研究に係る成果や実績について自己点検,自己評価に努めるとともに,恒常的に質的向上を図る上での基盤となるよう,外部評価や,第三者的機関による客観的評価を積極的に導入することについても検討すべきである。

さらに,学部及び大学病院における教育研究・診療に関する情報を積極的に提供することにより,国民に開かれた医師・歯科医師の育成体制の構築に努めるべきである。


3 医学・歯学教育に係る制度改正の必要性について

「はじめに」で述べたように,大学審議会は,平成10年10月に「21世紀の大学像と今後の改革方策について」の答申(以下「答申」という。)を行ったが,その中では,課題探求能力の育成や教育研究システムの柔構造化を目指した大学制度の改正が提言されている。その中には,医学・歯学教育の分野について,その特性を踏まえた検討を要するものも含まれているため,本懇談会においては,教育部会と研究部会の合同による特別の委員会を設けて検討を行い,次のような結論を得た。

  1. 学部段階

@早期卒業の例外措置

大学の修業年限は,学校教育法上4年と定められているが,答申では,大学の修業年限については,4年という原則を維持しつつ,早期卒業の希望を持ち,厳格な成績評価の下で通常の学生よりも多くの授業科目を優れた成績で修得できる者については,その能力・適性に応じた教育を行い,優れた才能を一層伸長できるようにする観点から,卒業に必要な単位数を修め,大学が適切と判断した場合には,例外的に3年以上4年未満の在学で卒業できる道を開くため,所要の法改正を行うことを提言している。

しかしながら,修業年限が6年と定められている医学部・歯学部については,以下のような理由から,早期卒業の例外措置は導入しないこととするのが適当である。