UMINニュース通巻第7号


UMIN事務局担当教官就任のご挨拶

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東京大学医学部附属病院中央医療情報部助教授(大学医療情報ネットワーク担当) 木内貴弘

 平成8年5月より、櫻井恒太郎北海道大学医学部教授(当時東京大学医学部助教授)の後任として、大学医療情報ネットワークを担当させていただいております。本来であれば、就任時にご挨拶をするべきではありましたが、新しい部署に移動して右も左もわからないうちに1年が過ぎてしまい、ご挨拶が遅れました。ニュースレター発行の機会に、ご挨拶をさせていただきます。

 開原教授、櫻井教授、UMIN事務局スタッフの長年のご尽力により、UMINは大きく発展を遂げて参りました。予算の獲得、ネットワークの構築のための調査、システムの構築、人の組織化、コンテンツの企画、接続テスト、利用者講習会等多くのご苦労があったと存じます。特にN1の時代には接続自体が困難な作業であり、各大学病院担当のメーカー関係者を含め、多くの方々のご協力と文部省のご理解により今日があるものと思っております。私は、こうして長年にわたって構築されたシステムを継承できるという幸運な立場にあります。UMINが一層の発展を遂げることができるように微力ながら努力を続けていきたいと考えております。

 ネットワークを取り巻く環境は大きな変換期を迎えており、現在が大きな変化の真最中といえます。インターネットの普及により、簡単に安価に情報提供を行うことが可能になりました。電子メール、ニュースによる情報交流も比較的簡単にできるようになっております。この中でUMINの今後の役割とは何かについて真剣に考えていく必要があります。これについて述べる前にまず、インターネットの普及により「変わったこと」、「変わらないこと」について、私見を述べさせていただきます。


変わったこと

情報提供・情報交流が安価にできるようになったこと
 従来のようにネットワークインフラの構築だけに多くの努力が必要な時代が終わりました。インターネットを利用すれば独自の通信回線の敷設費用が必要ありません。また各種の市販のネットワークサービス用ソフトウエアの充実及びパーソナルコンピュータの高速化により、サーバも安価に設置できるようになりました。国立大学病院では、学術情報センターの運用しているSINET(Science Information Network)が利用可能であり、比較的恵まれたネットワーク環境が利用可能となっています。

ネットワークの利用や設定方法に関する情報が普及したこと
 UMIN開設時の日本では、インターネットは実験的にサービスが開始されたばかりでまだ今日のような普及を予測することは困難でした。セキュリティ上の問題もあり、UMIN1では閉域網の構築可能なN1プロトコールを採用いたしました。N1システムに関する情報は一般には普及しておらず、各大学病院での説明会や利用者講習会に大きな労力が費やされました。今日では、インターネットの利用について各種の書籍、オンライン情報が利用可能であり、ユーザーの知識も飛躍的に向上しております。このためユーザ教育の負担が相当に減りました。


変わらないこと

 インターネットの普及によって大きな変化が生じましたが、ネットワークを運用する上で従来とまったく変わらないものがあります。これらのすべてに「人」または「人の組織」が関係しています。インフラが整備されても、「人」が関与する部分については、今までに増して一層のコストがかかります。

ユーザ登録及びIDによるアクセス制限の設定
ユーザの登録(使用しているユーザの特定)及びIDによるアクセス制限(特定の人にしか情報の参照やプログラムの操作ができなくすること)は、従来とまったく変わらずに必要です。電子メールの利用、大学病院業務向けのシステム及び料金を払って購入しているデータベースの利用にあたっては、ユーザーの認証とアクセス制限が必須となっています。

価値のある情報を作成することの難しさ
 ネットワークの価値がコンテンツによって問われる状況になっています。価値ある情報の作成の手間は従来と変わらないばかりか、動画を含むイメージ情報のやりとりが可能となったことにより、一層増大しています。

システムの企画を行い、実現すること
 国立大学病院業務及びその他の医学系の利用者に臨床医学研究、病院業務のために有意義なサービスを提供するためには、様々なニーズを取りまとめて、プログラム開発・データ作成を行う必要があります。このためには、各分野の専門家や利用者の声を取りまとめて、運用可能な形で実現する必要があります。これらのとりまとめを行う労力は依然とまったく変わりありません。

継続性・信頼性のある情報サービスを提供すること
 インターネットで提供されているサービスは、一般に継続性や信頼性に欠けるものが大半です。個人レベルの創意工夫を生かした情報提供・情報サービスはたしかに容易に可能となりました。現在は、インターネットの普及であり、各種のサービスをボランティアで提供する教職員が各大学病院にたくさんいますが、業務として専任でネットワークサービスにあたる教職員は、UMIN以外にはおりません。個人レベルの努力ではサービスの継続性や信頼性に不安があります。インターネット上でも、情報作成時は一生懸命であったと思われるのに、その後の保守が行われていないサイトが多くあります。また例えばメールサーバーやニュースサーバの設置、運用は安価に可能であり、ボランティアベースでのサービスの提供が行われてきました。しかしながら、ボランティアレベルのサービスでは、業務ということを念頭におく場合に信頼性や継続性が期待することは困難ですし、サーバの管理・障害時の対応についても確実性を期待できません。


 UMINは、国立大学病院の共同利用目的に正式に予算措置されている組織です。今後のUMINの役割としては、従来大きなウエイトを占めていたネットワークの接続(ハードウエアレベルの接続)やユーザ教育の部分から、ネットワークサービスの企画・開発・運用、サーバの管理・運用・保守に移ってきています。このために、今必要とされているのは、「人」と「人の組織」です。更にいえば「人の努力と知恵」であり、これには各種ネットワーク情報技術、保守管理体制、各種病院業務について知識・経験、医学研究に関連する知識が含まれます。こうした状況でUMINのあり方として以下のような内容のことを考えております。

1) 単なるインフラの提供から、コンテンツの充実へ
 従来の(理工系の大学を中心とした)ネットワークでは、通信のインフラ及びそれを管理・保守する体制を指しておりました。このようなネットワークでは、ネットワーク上で行われる各種のサービスは、各利用者にまかされています。メールサーバ、ニュースサーバ、WWWの立ち上げ及び運用にあたっては、各利用者が自由に行ってネットワークを「活用」することを想定しています。この前提には、利用者がコンピュータやネットワーク技術に精通しているということがあります。しかしながら、医学系におけるネットワークとは、インフラではなく、提供されるサービスや情報の内容がほうがむしろ重要です。医学・医療関連の一般利用者にとっては、インフラは適切に接続が行われればよいことで、コンテンツの良し悪ししか見えません。現在では、インフラの運用・管理は企業に一括して依頼することも可能となっており、医学系におけるネットワークのウエイトがインフラの整備から、内容の充実に大きく変わろうとしています。このコンテンツには、従来のようなデータベースの他に、マルチメディア動画情報及び国立大学病院関連の業務用システム(データマスターや各種データ収集システム)や臨床医学研究支援システム等の対話型のプログラムも含まれます。

2) 施設・設備のネットワークから人のネットワークへ
 前項と関連しますが、コンテンツの充実・保守を図る上では、各種の専門家の要望や意見をとりいれることが必須であり、必要に応じてコンテンツの作成を依頼する必要も生じます。このためには、医学の各分野の専門家を組織し、サービスの要求や要望を積極的に収集して、システムに生かしていく必要があります。ネットワークという言葉はいろいろな意味に使用されますが、医学系においてはネットワークは人のネットワークということが重要だと考えます。現在、UMINでは事務小委員会、薬剤小委員会、看護小委員会、検査部小委員会が組織されて活動を行っていますが、これを更に広げていきたいと考えております。

3)セキュリティの確保のための技術・ソフトウエアの提供
 UMINは、SINET配下で運用されていますが、従来のN1ネットのように「閉域網」で運用されていません。このためやりとりされる各種の情報のセキュリティを保護する必要があります。学術ネットワークから生まれたインターネットには、セキュリティ上の配慮はほとんどありませんでしたが、最近はビジネスでの利用を想定して、暗号や認証技術を利用して公開されたネットワークを安全に利用する技術の研究が盛んに行われています。UMIN次期システムでは、こうした最新の情報技術を利用したソフトウエアによる仮想閉域網を構築し、安全な医療情報交換のためのインフラとしたいと考えております。ソフトウエアによる仮想閉域網は、物理的な閉域網と比較して、1)運用上の柔軟性に富み、2)コストが非常に安くなる等の利点を持ち、今後の医療情報ネットワークの主役になると考えます。

4)ユーザー認証を必要とするサービス充実  従来からUMINでは、電子メール、ニュース、業務系システムの提供のために、IDとパスワードの発行を行い、ユーザ認証を行うサービスを提供して参りました。現在、1万5千人分もののIDを発行・保守しており、これらを有効に活用していくための方策を考えています。例えば、会員性のホームページサービスの提供により、インターネットでは公開しにくい情報や無料では公開できないような情報の提供が可能となります。

5) 信頼性のあるサービスの提供
 UMIN次期システムでは数多く国立大学病院業務向けのサービスを開始する予定です。こうした業務向けでの利用に際しては、サービスの信頼性の確保が必須です。データベース以外には、電子メールやニュースについても業務向けに使用するためには、従来のインターネットサーバでは通常行われてこなかったようなサーバの信頼性の確保に努める必要があります。このため、1)バックアップサーバの用意、2)RAIDディスクや電源に二重化等の障害予防、3)管理・保守体制の充実を仕様として要求し、UMINでしか提供できない信頼性を実現する予定です。

 最後になりましたが、若輩にていろいろ至らない点もあるかと存じますが、UMINの一層の発展のために努力を続けていく所存でおりますので、今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申しあげます。


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