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UMIN20周年にあたり 感謝をこめて

東京大学医学教育国際協力研究センター教授
東京大学医学部附属病院総合研修センター長
北村 聖


 UMIN設立、20周年をお祝い申し上げます。
 メール機能や、メーリングリストの機能、さらに学会のホームページの機能や、抄録登録の機能など仕事のみならず生活に不可欠とも言える多くの機能を提供していただいており、組織人としても、個人としても深く感謝しております。
 ここでは、これら多くの機能の中でも、あまり目立たない2つの機能についてご紹介し改めて感謝したいと思います。その2つとは、臨床研修医の評価に使われるEPOCの機能と臨床試験登録機能です。
 オンライン医科臨床研修評価システムについては、他稿で田中雄二郎教授が詳しく述べておられる。新医師臨床研修制度は新しく医師になったものが臨床をするためには更に2年間の臨床研修を義務付けるもので、平成12年に医師法が改正され、平成16年から実施されています。この準備期間中に、多くの実務的なことが決められたわけですが、特に研修医の評価については大きな議論がありました。当然研修という教育活動があればその評価がされなければなりません。その際、「〜について学ぶ」というプロセス評価か、「〜ができる」というアウトカム評価か議論がありました。議論の末、厚生労働省は、そのどちらでもない行動目標と経験目標を定めました。基本姿勢や態度に関しては「〜できる」という行動科学的用語を使い、実際の症例での研修は「〜を経験した」という風にしました。ある意味、妥協の産物といえると思います。これらの評価をどのようにして行うのか、大学病院、特に国立大学病院の関係者が集まり検討し、UMINの枠組みの中でオンライン評価手帳を作ってもらおうという結論に達し、できあがったのがEPOCのシステムです。
 その特長については、田中教授の解説のとおりですが、特に、大学病院ではいわゆるたすきがけ方式を取っていることが多く、紙ベースの研修手帳では、管理型病院で評価を見ることができずオンラインシステムの導入が極めて大きな意義をもっていると理解しています。毎年8千名近くの研修医が誕生しその約半数がこのシステムを利用している現状を鑑み、UMINのEPOCシステムの重要性は大きなものがあります。
 もちろん、EPOCにも改善の余地はあり、特に研修というon the job trainingにおける評価システムとして、近年、ポートフォリオなどの優位性が言われており、EPOCとポートフォリオや研修手帳との併用や、あるいはポートフォリオを取り込んだ次世代のEPOCの開発などに期待したいと思います。
 臨床試験登録機能に関しては、近年、多くの有力な雑誌において、発表される臨床試験はあらかじめ決められた書式で試験登録されたものに限るとされています。これにより、試験成績が陽性であったものが発表されやすいとかのいわゆる出版バイアスが避けられ、また評価項目を試験後に変更するなどといったクッキングができにくくするようになります。これらのことは、医学雑誌編集者国際委員会が「生物医学雑誌への投稿のための統一規定」において主張していることです。平成20年8月に日本医学会のもとに日本医学雑誌編集者会議を作っていただき、自分はその世話人の一人でありますが、日本国内においても国際雑誌に通用する臨床試験登録システムが必要であると感じておりましたが、ほとんど間髪をいれずにUMINにおいて、WHOの承認を得た臨床試験登録システムを立ち上げていただき感謝しております。
 日本の医学生物学研究は世界第一流であることは疑問の余地のないところですが、いわゆる臨床研究の分野においては、日本の経済力、科学力に見合っただけの論文数、論文の質がないことが指摘されています。新しい科学の知見を臨床に応用する際も、また新薬の開発においても臨床研究は欠くことのできないものであり、システムとして臨床研究が行いやすい環境を作ることも大きな意義のあることと思います。
 以上、日ごろ何から何までUMINにお世話になっていますが、特に大きな感謝をささげたい2つのことについて申し上げました。これからのますますのご発展を祈念しております。