4.2 知的財産権 地域財産権制度は,情報化社会において新しい対応を迫られつつある。ここでは著 作権制度に焦点を当てて問題点を列挙する。 (1)オリジナルとコピーの区別の無意味化 在来制度どは,情報製品に対して「オリジナル」(著作物)と「コピー」(複製) というコンセプトを用意し,この区別のもとにシステムを構成し運用してきた。だが, 電子技術の発展によって,複数のオリジナル(または複数のコピー)が同時に存在す る,という状況が出現した(例,DAT)。 (2)複製概念の変質 在来の制度は,著作権を情報製品の「表現」に対する「複製」を管理するための道 具として扱ってきた。だがコンピュータ・ソフトウェアにおいては,「非表現」(例, アルゴリズム)に対する「複製」や「表現」に対する「非複製」(使用)が問題になっ てきた。このために現場においては,「表現」や「複製」に関するコンセプトが曖昧 になりつつある。 なお,「非表現」に対する「非複製」については,ソフトウェアの「特許」化とい う形で,問題の解決が図られつつある。 (3)人格権の形骸化 在来の制度は,オリジナルの生産者に「著作権人格権」という権利上の優先性を与 えてきた。この内容は,たとえばコピーがオリジナルと同一であることを強制するも のである(同一性保持権)。しかし,電子技術の発達とその産業化によって,同一性 保持権を逸脱する情報製品が出現してきた(例,コンピュータ・グラフィクス,デジ タル・サンプリング)。 とくに情報製品におけるインタラクティブ性の増大は,オリジナル優先主義の在来 制度を大きく変質させつつある(例,ゲーム,ザッピング・テレビ) (4)オリジナルの価値の低下 従来の制度は,オリジナルの生産者に「複製権」をはじめとする各種の権利を付与 し,かれらを二次的著作物,編集著作物,データベースの著作物の生産者よりも優位 に置いている。だが情報過多の時代においては,オリジナルよりも二次的著作物など のほうが,情報的価値つまり産業的価値がはるかに大きいという場合も多くなってい る(例,データベース)。 (5)公的情報の権利化 80年代を通じ,知的財産権意識の高まりとともに,かつて公的分野にあるとされて きた情報の権利化が,産業界を中心にすすめられている。これは,とくにコンピュー タ・ソフトウェアをめぐって行われている。具体的には,ソフトウェア互換のための インタフェース,ディスプレイ上のユーザー・インタフェース,通信プロトコルなど が権利化されている。 (6)私的使用の増大 従来の制度は,著作物の「私的使用」に対して著作物の権利を制限してきた。だが コピー技術の発達とコピー機器の低廉化によって,エンド・ユーザーは高性能コピー 機器を私有化できるようになった。このような環境下では,「私的使用」のルールは 著作者の得べかりし利益を大幅に失わせることになる。現に,「私的使用のルールは しだいに見直されつつある(例,DAT)。 (7)情報の自由流通 在来の制度は,著作物は著作権者側で管理しうる,という前提にあった。だが電子 機器の普及と通信ネットワークの発達は,著作物をより自由に流通できるような環境 を作ってしまった(例,レンタルCD,パソコン通信によるフリー・ソフトウェア)。 このような環境は,著作者および使用者の意識を大幅に変質させつつある。 (8)権利の集中管理システムの立ち遅れ 権利集中管理機関としては,現在,若干の機関が活動している。だが現実に,この 種のシステムを構築し運用している機関は一部にとどまり(例,音楽),他の多くの 分野ではこの種のシステムは未整備の状況である。このために権利関係が錯綜する分 野では,権利の処理について,権利者間または権利者〜使用者間において,紛争の発 生する確率が高い(例,放送,マルチメディア)。 (9)著作物の越境流通 人や物の移動とは無関係に,自由に国境を越えてしまう著作物が出現した(例,衛 星放送)。このために越境著作物について国境の両側で調和のとれた権利処理をする 必要がでてきた。(なお,在来型の地上波放送の到達範囲は国境内に閉ざされたもの であった。)