2.[解説]医薬品の適正使用のために
塩酸フェニルプロパノールアミン含有医薬品の適正使用について
塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)は交感神経作用薬として使用されてい
る薬剤である。PPAの薬理作用は、エフェドリンに似ており、エフェドリンより中
枢性の作用が弱い。循環器系への作用は心臓刺激や血管収縮による血圧上昇や脈圧増
大があり、鼻充血や結膜充血を除去する。心拍数は変化しないが心筋収縮力は増大し、
心拍出量は増加する。腎など内臓血流量は減少するが、冠・脳・骨格筋血量は増加す
る。平滑筋に対する作用として弱い気管支筋弛緩作用があり、軽症の急性気管支喘息
や慢性喘息に有用である。他に、膀胱括約筋収縮作用があり、点眼では瞳孔を散瞳さ
せる作用がある。
我が国では、PPAは、一般用医薬品として鼻炎用内服剤及び鎮咳去痰用剤をはじ
め、感冒用剤に配合されており、医療用医薬品としては上気道炎治療剤があるが、米
国では我が国よりも効能の範囲が広くなっている。
我が国ではPPAの1日用量(成人)は100mg/日、米国では150mg/日
を限度としている。
PPAにかかわる副作用は、「口渇、悪心、不眠、頭痛、めまい、動悸、神経過敏
(不安、緊張等)」などがあり、アレルギー反応を起こすことがある。また、高血圧
症や甲状腺機能亢進症のある人では血圧上昇があらわれやすい。
今般、FDA(米国食品医薬品庁)は、PPAに関する警告表示を提案し、6ヵ月
以内に使用上の注意を改訂するように勧告した(1996年2月14日)。この提案
の警告表示にある「基礎疾患」、「副作用症状」及び「併用薬」は、我が国のPPA
含有医薬品にあっても重要であることから、「使用上の注意」の改訂を行い注意を喚
起することとした。
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| | 該当商品名 |
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|一般用医薬品 |鼻炎用内服剤 |コンタック600SR(住友製薬) |
| | |新コルゲンコーワ鼻炎ソフトカプセル(興和)|
| | |パブロン鼻炎カプセルL(大正製薬) |
| | |ベンザ鼻炎用カプセル(武田薬品工業) |
| | |エスタック「ニスキャップ」(エスエス製薬)|
| | |ストナリニ(佐藤製薬) |
| | |スカイナー鼻炎用S(エーザイ)他 |
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| |鎮咳去痰用剤 |コンタックせき止めSR(住友製薬) |
| | |ストナコフキャプレット(佐藤製薬) |
| | |ブロン錠12(エスエス製薬)他 |
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| |感冒用剤 |ストナジェルサイナス(佐藤製薬) |
| | |ベンザブロック(武田薬品工業) |
| | |ベンザブロックSP錠(武田薬品工業)他 |
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|医療用医薬品 |上気道炎治療剤|ダン・リッチ(住友製薬) |
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(1)はじめに
我が国では、交感神経作用薬であるPPAを配合した製品が多数発売されている。
一般用医薬品では、鼻炎用内服剤(最も多く市販されている)及び鎮咳去痰用剤をは
じめ、感冒用剤があり、また、医療用医薬品では上気道炎治療剤がある。
厚生省では、今般のFDAのPPAに関する警告表示(表1)について評価し、我
が国のPPA含有医薬品の適正使用の対応策を検討し、使用上の注意に反映させるこ
ととした。
(2)検討の概要
厚生省は、PPA含有医薬品の一つである鼻炎用内服剤に対して再評価指定(平成
6年2月1日付)を行い、安全性有効性の調査・検討の結果、適正使用のための添付
文書(使用上の注意)の改訂を行ってきた。
PPA含有医薬品については、我が国においては最近の安全性情報の調査では重篤
な副作用はほとんど報告されていないが、米国では効能の範囲が我が国よりも広く、
誤使用等による副作用報告が多くみられている。
このことから、我が国で特に一般用医薬品として多く販売されているPPA含有医
薬品の服用に際して、表1に示したFDAの警告表示の提案にある副作用「めまい、
不眠、頭痛、神経過敏、動悸」及びPPAの有する薬理作用から基礎疾患「心疾患、
高血圧症、甲状腺機能亢進症、排尿困難(前立腺肥大症)」に関する注意喚起をする
こと、また医療用医薬品については併用薬剤について注意することが重篤な副作用の
発現防止の観点から重要なことと判断し、これらを添付文書に反映させることとした。
なお、一般用医薬品におけるPPAの1日用量(成人)は、我が国では100mg
/日、米国では150mg/日を限度としている。
(3)安全対策
添付文書の追記事項は《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》に示すとおりで、
一般用医薬品と医療用医薬品で注意項目や表現が異なるが、使用対象者に合わせた表
示にして「使用上の注意」の改訂を行い注意を喚起することとした。
なお、一般用医薬品のPPA含有医薬品では、副作用症状の「頭痛」は、「頭痛」
にかかわる副作用症例の症状や感冒用剤の効能「頭痛」等を考慮して「激しい頭痛」
として表示することとする。
表1 FDAのPPAに関する警告表示の提案
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・1日(24時間)量として、75mg以上服用しないこと。その量より多く服用し
た場合には、副作用を示すことがある。
・もし、次のような疾患がある場合には、医師の指示なしには服用しないこと。
心疾患又は甲状腺疾患、高血圧、前立腺肥大症
・もし、次のような症状があらわれた場合には、服用を中止すること。
神経過敏症、めまい、不眠、頭痛、動悸
もし、このような症状が持続する場合には、医師に相談すること。
・次の薬剤とは同時に服用しないこと。
モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)(抑うつ症や精神病、あるいは情緒
不安状態、パーキンソン病に用いられている薬剤)、又はMAOIの投与中止後
2週間(もし、確信が持てない場合には、健康管理の専門家に相談すること。)
アレルギー・喘息や咳・かぜの治療剤、鼻充血除去剤、又は体重調整剤(PPA、
フェニレフリン、エフェドリン又はエフェドリン様薬)、及び医師の指示のない
処方薬
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<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<一般用医薬品(鼻炎用内服剤、鎮咳去痰用剤、感冒用剤:塩酸フェニルプロパノー
ルアミンを含有する製剤)>
次の人は服用前に医師又は薬剤師に相談すること
・心臓に障害のある人又は高令者<感冒用剤に追記>
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・緑内障(例えば、目の痛み、目のかすみ等)、排尿困難な人
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・甲状腺機能亢進症のある人<鎮咳去痰用剤及び感冒用剤に追記>
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・血圧の高い人<感冒用剤に追記>
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服用に際して、次のことに注意すること
次の薬剤と同時に服用しないこと
鼻炎用内服薬<鎮咳去痰用剤及び感冒用剤に追記>
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塩酸フェニルプロパノールアミンを含有する内服剤(かぜ薬、鎮咳去痰薬等)<
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鼻炎用内服剤に追記>
服用中又は服用後は、次のことに注意すること
本剤の服用により、発疹・発赤、・・・めまい(*1)、不眠、激しい頭痛(*2
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)、神経過敏、動悸等の症状があらわれた場合には、服用を中止し、医師又は薬剤
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
師に相談すること。
*1(めまい)は、鎮咳去痰用剤及び感冒用剤では、下線を削除する。
〜〜〜
*2(激しい頭痛)を記載する場合は、昭和53年2月13日薬発第158号「グ
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リチルリチン酸等を含有する医薬品の取り扱いについて」に係る(頭痛)は記載
しないこと。<鼻炎用内服剤>
<医療用医薬品(上気道炎治療剤:ダン・リッチ)>
相互作用
併用に注意すること
交感神経刺激剤[塩酸フェニルプロパノールアミンにより交感神経刺激作用が増強
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される。]
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〈参考文献〉
1)企業報告
2)太田克久他:Jpn. Circ. J.,58(Suppl.3):860(1994)
3)Fallis, R.J., et al.:Neurology,35:405-407(1985)
4)FDA 21 CFR Parts 201 and 369:Fed. Reg.,61(31):5912-5916(1996)
5)F D C REPORTS-“The Tan Sheet”,4(8):9-10(1996)
6)F D C REPORTS-“The Tan Sheet”,4(23):5-6(1996)