3.[解説]医薬品の適正使用のために
メトトレキサートと血液障害、間質性肺炎等の重篤な副作用
メトトレキサート(MTX)は急性白血病、骨肉腫等の治療に用いられる抗癌剤で
ある。MTXの投与により重篤な副作用症状があらわれることが知られており、ショ
ック、血液障害、肝障害、間質性肺炎等については既に「使用上の注意」に記載し、
注意を喚起しているが、最近においても報告があるため、本剤使用に際し十分な注意
が必要であることを改めて喚起する。
+−−−−−+−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−+|成分名 |成分名 |該当商品名 ||該当商品名| | ||
MTXは葉酸代謝拮抗剤であり急性白血病、骨肉腫等に用いられる抗癌剤である。
投与法は通常の用法・用量のほかにMTX・ロイコボリン救援療法、MTX・フルオ
ロウラシル交代療法などがある。本剤を含む癌化学療法の有効性及び安全性の現状に
ついては本情報No.127(平成6年7月号)を参照されたい。MTXの投与によ
り重篤な副作用症状があらわれることが知られており、ショック、血液障害、肝障害、
間質性肺炎等の発現については既に「使用上の注意」に記載し、注意を喚起してきた。
これらの副作用の中から高齢者に対しMTX・フルオロウラシル交代療法を行い白血
球減少を起こした症例を表2の症例1で紹介する。
なお、これらの副作用報告に加え、慢性関節リウマチに対しMTXを投与し、同様
に間質性肺炎、血液障害、肝障害等の症状を起こしたとする症例が報告されている。
これらの症例を表2の症例2,3で紹介する。
MTXの使用にあたっては、常に重篤な副作用を起こすことがあることを理解し、
「使用上の注意」に従った投与と適切な臨床検査の実施、経過観察及び患者に対する
これらの症状の初期症状等についての十分な説明等が重要であり、改めて注意を喚起
する。
表2−1 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 81 |
| 使用理由[合併症] 胃癌[再発、Stage4、Borr.2型] |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:130mg/週、4回 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|白血球減少 |
|肺及び右胸壁に広範囲に転移のある胃癌患者に対しMTX・フルオロウラシル交代|
|療法を施行したところ、4回目の投与翌日に白血球減少が発現した。G−CSFの|
|投与等を行ったが、副作用発現から4日後に死亡した。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与前 投与中 投与中 投与後 投与後 |
| 2回目 4回目 4回目 4回目 |
| 投与翌日 投与日 投与翌日 投与3日後|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|赤血球 (x10000) 397 392 380 388 442 |
|ヘモグロビン(g/dl) 13.0 12.9 12.6 12.7 14.7 |
|白血病 (/mm3) 5930 6380 2620 730 810 |
|血小板 (x10000) 20.9 21.9 20.4 16.6 10.9 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:フルオロウラシル、ホリナートカルシウム、塩酸グラニセトロン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
表2−2 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 72 |
| 使用理由[合併症] 慢性関節リウマチ[慢性腎不全] |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:2.5mg/週、3回 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|無顆粒球症 |
|20年以上前からの慢性関節リウマチの病歴があり、他院に通院し、慢性腎不全の|
|ため約4年前から透析を受けていた。MTX投与開始から約2週間後に突然強い咽|
|頭痛が発現し、食事が取れなくなった。発熱も認められたため入院した。胸部X線|
|では肺炎像はなかった。白血球 600/mm3と低値のため薬剤の投与を中止した。他院|
|での処方薬剤はセファレキシン及びカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムのみであ|
|った。抗生物質、G−CSFの投与を行ったが効果はなく、入院5日目には白血球|
|100/mm3 まで低下した。肝機能障害、肺炎、呼吸不全などを併発し、入院7日目に|
|死亡した。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:セファレキシン、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.3 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 68 |
| 使用理由[合併症] 慢性関節リウマチ |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:2.5mg/週(8回)、7.5mg/週(33回) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|間質性肺炎、汎血球減少 |
|慢性関節リウマチ患者で金製剤に対する過敏反応の既往があり、ブシラミン等で十|
|分な効果が得られなかったため、MTXの投与を開始した。用量を増やしてから7|
|ヵ月後に上肢皮下出血、咽頭炎、微熱等が認められた。その後胸部X線にてびまん|
|性スリガラス状陰影が確認され、血液検査で汎血球減少が認められた。副腎皮質ホ|
|ルモン剤、抗生物質、抗真菌剤等の投与によりX線は改善傾向が認められたが、最|
|終投与の13日後にショック状態となり死亡した。 |
| |
|臨床検査値 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 投与前 投与開 最終投与 投与5 投与10 |
| 始7ヵ 1日後 日後 日後 |
| 月後 (発現時) |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|赤血球(x10000/mm3) 301 319 189 249 268 |
|白血病 (/mm3) 6100 5800 700 1400 59500 |
|血小板(x10000/mm3) 30.3 20.3 9.2 4.4 6.4 |
|BUN (mg/dl) 39 31 45 50 39 |
|クレアチニン(mg/dl) 1.1 1.1 1.4 1.4 1.3 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:ブシラミン、サラゾスルファピリジン、プレドニゾロン、 |
| 塩酸ラニチジン、インドメタシン |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+