1.アカルボースと腸閉塞様症状、低血糖
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|成分名 |該当商品名 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
、アカルボース 、グルコバイ(バイエル薬品) 、
+−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|薬効分類等:糖尿病用剤 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果:インスリン非依存型糖尿病における食後過血糖の改善(ただし、食事|
| 療法・運動療法によっても十分な血糖コントロールが得られない場合|
| の追加療法に限る) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
(1)症例の紹介
アカルボースはα−グルコシダーゼ阻害剤であり、炭水化物の腸管内消化を遅延さ
せ、食後の急激な血糖上昇を抑える作用を持つ。我が国では平成5年10月に承認さ
れ、その効能・効果は「インスリン非依存型糖尿病における食後過血糖の改善(ただ
し、食事療法・運動療法によっても十分な血糖コントロールが得られない場合の追加
療法に限る)」であり、他の経口糖尿病用剤、インスリンとの併用は承認されていな
い。
アカルボースの投与により腸内ガス等が増加し、放屁増加、腹部膨満・鼓腸等が起
こることは既に知られており、臨床試験段階(調査症例数603例)から放屁増加
46.3%(279例)、腹部膨満・鼓腸39.5%(238例)といずれの症状も
比較的高い頻度で発現していた。これらの症状はアカルボースの作用により消化・吸
収されないまま大腸に達する糖類が増え、腸内細菌による発酵が起こり水素・メタン
等のガスが発生するものと考えられている。
これまでにアカルボースの投与により腸閉塞様症状を発現したとする症例が6例報
告されている。報告された症例の性別は男性3例、女性3例で、年齢は63〜75歳
であった。アカルボースの投与開始から12日〜3ヵ月後に放屁増加、腹部膨満等が
発現し、その後X線によりニボー(鏡面形成:イレウスの際にみられる)が認められ
るなど、腸閉塞様症状に至っている。
報告された症例を表1に紹介する。
表1 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 75 |
| 使用理由(合併症) 糖尿病(高尿酸血症、胆石症、肝硬変、腹水、 |
| 心筋梗塞) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:100mg(13日間)、200mg(13日間) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|投与開始から28日目に、放屁を我慢したところ、次第に腹部膨満が強くなった。|
|腹部のガス滞留が著明で、腹痛も伴っていた。大建中湯の経口投与、塩酸メトクロ|
|プラミドの筋注投与を行い、アカルボースの投与を中止した。翌日の腹部X線撮影|
|により腸内ガスの滞留が著明であったが、ニボーはなかった。腹部膨満の発現から|
|11日後に腹痛は消失した。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:グリクラジド、メチルジゴキシン、塩酸ベネキサートベータデクス、 |
| スピロノラクトン、アロプリノール、小柴胡湯 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 70 |
| 使用理由(合併症) 糖尿病(骨粗鬆症) |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:150mg、58日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置 |
|グリベンクラミドにより血糖をコントロールしていたが高値のため、アカルボース|
|の投与を開始した。投与後排便は毎日あったが、腹部膨満は続いていた。投与後 |
|58日目に突然心窩部痛、悪心が発現した。救急外来を受診し、腹部X線撮影より|
|小腸ガス(ニボー)を認めた。緊急手術(小腸切除術)を行い、17日後に回復し|
|た。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:グリベンクラミド、アルファカルシドール、ニコチン酸トコフェロール |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
(2)安全対策
アカルボースの投与により放屁増加、腹部膨満・鼓腸等が発現することは、その薬
理作用から見てもやむを得ない症状であると考えられる。しかし、これらの症状が患
者の無理な我慢や、薬剤の継続により重症化した場合には腸閉塞様症状にまで至るお
それがある。投与中は観察を十分に行い、腸閉塞様症状があらわれた場合には薬剤の
投与を中止するなど適切な処置を行う必要がある。
また、これらの症例はいずれも「腸管閉塞」として報告されたものであるが、実際
に腸管が閉塞しているわけではなく「仮性腸閉塞」、「イレウス様症状」、「腸閉塞
様の症状」等が適切と思われる。
これまでにも本剤の「使用上の注意」には放屁増加、腹部膨満・鼓腸等の発現につ
いての記載を行っていたが、腸閉塞様症状について注意を喚起するため、下記の改訂
を行った。
(3)低血糖
前述のとおりアカルボースの効能・効果は「インスリン非依存型糖尿病における食
後過血糖の改善」であり、経口糖尿病用剤、インスリンとの併用は承認された適応外
での使用である。しかし、市販後の副作用症例報告の中に、経口糖尿病薬、インスリ
ンとの併用例で低血糖症状を起こした症例が報告されている。使用上の注意に従った
適正な使用を促したい。
(4)
高齢者
本剤の投与対象患者は高齢者が多いものと考えられ、低血糖症状をはじめ、アカル
ボースの副作用報告症例は高齢者が多い。高齢者には用量の調節など、血糖値等の変
動に特に留意し、慎重に投与する必要がある。
(5)報告のお願い
アカルボースと同じα−グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボース(ベイスン:武
田薬品工業)が平成6年7月に承認され、最近市販が開始された。ボグリボースの「
使用上の注意」にも放屁増加、腹部膨満感の記載があり、今後腸閉塞様症状の発現に
注意する必要がある。両薬剤ともに今後同様の症例を経験した場合には報告をお願い
したい。
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<アカルボース>
使用上の注意
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|他の糖尿病用薬と併用した場合に低血糖症状が発現することがあるので、原則と|
|して単独投与を行うこととし、やむを得ず併用する場合には慎重に投与するこ |
|と。また、本剤は二糖類の消化・吸収を遅延するので、低血糖症状が認められた|
|場合にはショ糖ではなくブドウ糖を投与すること。 |
|なお、患者に対し低血糖症状及びその対処方法について十分説明すること。 |
|〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
慎重投与
(5)高齢者
〜〜〜〜〜〜〜
副作用
(1)消化器:腹部膨満・鼓腸、放屁増加等があらわれ、腸内ガス等の増加により、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まれに腸閉塞様の症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い症
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
状があらわれた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。また、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
軟便、ときに排便回数増加、下痢、腹痛、便秘、嘔気、嘔吐、食欲不振、
食欲亢進、消化不良等があらわれることがある。