3.[解説] 薬剤と月経異常



 月経異常を起こす可能性のある薬剤には2種類あり、性ステロイドホルモン等のよ

うにその薬理作用により当然月経に影響を与える事が予想される薬剤と日常頻繁に使

用される薬剤でそれを使用している患者の数%に月経異常をきたす薬剤である。後者

のうち最も多いのは高プロラクチン血症を起こし、結果的に月経異常を引き起こすも

のである。また最近多く開発された抗アレルギー剤にも月経異常をおこす可能性が指

摘されている。





 月経が無くなる、月経周期が不規則になるなどの月経異常は特に若い女性にはかな

り頻繁にみられる。最も多い原因はダイエットをしたために起こる体重減少性の無月

経である。次いで多い原因は多嚢胞性卵巣症候群によるものである。薬剤に起因する

月経異常は恐らくこの二つに次ぐ頻度でみられるものと考えられる。

 月経異常を起こす薬剤は、一つはその薬剤の薬理作用として当然予想されるものが

ある。卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤、子宮内膜症や乳腺症に用いられるダナゾ

ールなどの性ステロイドはその代表といえる。その他にもGnRHのアゴニスト(スプレ

キュアー)、乳癌治療に用いられる抗エストロゲン剤であるクエン酸タモキシフェン

などもそういった薬剤である。これらの薬剤に起因する月経異常は通常投与時に十分

説明がなされていることが多く、問題となることはまれである。また、多少性格は異

なるが多くの抗悪性腫瘍剤も卵胞毒性があり、投与時は一時的に無月経となることも

多い。

 月経異常を起こすもう一方の薬剤はその薬理作用上からは月経異常の発現が予想し

にくいものであり、頻度はさほど多くないが実際の臨床では問題となる。ここでは高

プロラクチン血症を起こし、結果として月経異常を起こす薬剤と抗アレルギー剤につ

いて述べる。



1.高プロラクチン血症を起こす薬剤

 血中のプロラクチン濃度がルーチンに測定できるようになり、無月経を呈する患者

の中に高プロラクチン血症の患者が25%程度含まれ、その多くは乳漏症を呈するこ

とが明らかになった。プロラクチンは乳汁分泌に関与する脳下垂体前葉から分泌され

るホルモンで、その分泌はドパミンが抑制している。高プロラクチン血症の原因は脳

下垂体腫瘍、妊娠が関係するものや薬剤によるものなど様々であるが、最も頻度の高

いのは原因不明の高プロラクチン血症であり、薬剤によるものはそれに次ぐ頻度であ

る。高プロラクチン血症を起こすことが報告されている薬剤を表1に示した。この表

からわかるように高プロラクチン血症を呈する薬剤は広範囲に分布しており精神科の

多くの薬剤やスルピリド、メトクロプラミドなど日常診療において頻繁に使用される

ものである。しかし、これらの薬剤を使用しても高プロラクチン血症を呈する可能性

は数%であり、あらかじめ月経異常が起こる可能性を説明するほどではないと考える。

薬剤による月経異常が疑われた場合プロラクチン濃度を測定し、乳漏症の有無を検す

る。月経異常の原因が薬剤であることが確認できた場合、その原因薬剤の効果と副作

用である月経異常を考慮し、薬剤を継続するかどうかを決めることになる。通常は原

因薬剤を中止すれば月経は正常化する。



表1 高プロラクチン血症を起こす可能性のある薬剤

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 1.Major Tranquilizer

  a)フェノチアジン系薬剤

   クロルプロマジン、レボメプロマジン、マレイン酸トリフロペラジン、

   塩酸チオリダジン、ペルフェナジン等

  b)ブチロフェノン系薬剤

   ハロペリドール

  c)チオキサンチン系薬剤

   クロルプロチキセン

 2.高血圧治療剤

   メチルドパ

 3.中枢性抗潰瘍剤

   スルピリド

 4.中枢性制吐剤

   メトクロプラミド

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2.抗アレルギー剤

 抗アレルギー剤はアトピーの治療のために皮膚科で長期間使用される頻度が高い。

したがって、抗アレルギー剤による月経異常の多くは皮膚科から報告されている。抗

アレルギー剤による月経異常は頻発月経、つまり月経の周期が短くなるタイプがほと

んどで、恐らく無排卵周期症になっているものと思われる(文献1)。原因と考えら

れる薬剤はオキサトミド等で最近ではトラニラストでも報告がある。これらの薬剤は

抗ヒスタミン、抗ロイコトリエンや抗PAF等の幅広い作用がある。卵巣での排卵、

脳下垂体からのゴナドトロピン分泌等にはそれらのメディエイターが関与しているこ

とは少なくとも実験動物では明らかにされており、ヒトでもそれらの現象を阻害し、

月経異常を引き起こすことは十分予想される。



<参考文献>

1)大阪府医薬品等副作用研究会:医薬品等の副作用に関する調査研究報告書(平成

  4年度版)

                    (順天堂大学医学部助教授 三橋直樹)