2.フロセミドとショック
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|成分名             |該当商品名              |
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|フロセミド           |ラシックス(ヘキスト)他       |
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|薬効分類等:降圧利尿剤                         |
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|効能効果:(注射剤20mgの場合)                   |
|     高血圧症(本態性、腎性等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不|
|     全)、腎性浮腫、肝性浮腫、脳浮腫、妊娠中毒症・妊娠浮腫、尿路結|
|     石排出促進                          |
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(1)症例の紹介
 フロセミドは、昭和40年(1965年)に承認された降圧利尿剤であり、本態性
高血圧症等の緩和、浮腫の改善等に広く用いられてきた。
 その作用機序は、利尿作用についてはいわゆるループ利尿剤に分類され、近位尿細
管、遠位尿細管、Henle 係蹄等の腎尿細管に作用し、Na、Clの再吸収を抑制する
ことによるものといわれている。また、降圧作用については利尿効果に伴う作用、血
管壁のNa含量減少による作用などが考えられている。
 フロセミド投与によりショック及びアナフィラキシー様症状等が発現したとする症
例が4例報告されている。
 報告された症例の年令はいずれも60歳以上で、性別は男1例、女3例であった。
使用理由は、高血圧症やうっ血性心不全等であった。フロセミドのみの関与が疑われ
る症例は3例で、残りの1例はラタモキセフナトリウム、コハク酸メチルプレドニゾ
ロンナトリウム等の薬剤が併用されていた症例であった。フロセミドの投与直後に症
状を呈したものは2例あり、1例は呼吸困難、浮腫、嘔吐、チアノーゼ等のアナフィ
ラキシー様症状が発現した症例で、他の1例は、発赤、チアノーゼに加え、明確な血
圧低下をきたしたアナフィラキシー様ショックの症例であった。さらに別の症例では、
2日間のうちフロセミドが3回投与されたが、初回投与11時間半後に軽度のチアノ
ーゼを呈し、2回及び3回目の投与では20〜30分後に呼吸困難等のアナフィラキ
シー様症状が発現したというものであった。フロセミド以外に併用薬のある症例では、
投与直後に血圧が低下しショックの症状を呈した。また、海外においてプリックテス
トでは陰性であったが、高濃度の皮内テストにおいて陽性であったという報告があり、
フロセミドの構造式がスルホンアミドと類似していることを重要視している(文献1)。
 報告された症例の一部を紹介する(表2)。
 
表2 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         60                     |
|   使用理由       高血圧                    |
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|1日投与量:20mg                           |
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|副作用−経過及び処置                           |
|高血圧の診断のために、本剤を静脈内投与したところ、5分後に全身発赤、手足に|
|チアノーゼが発現し、また、最高血圧が150mmHgから60mmHgに低下した。昇圧|
|剤、副腎皮質ホルモン剤等の投与により、3時間後に血圧は正常となり、12時間|
|後には全身発赤も軽快した。                        |
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|No.2                      企業報告、モニター報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         92                     |
|   使用理由       うっ血性心不全                |
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|1日投与量:20mg                           |
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|副作用−経過及び処置                           |
|幼牛血液抽出物、電解質輸液の点滴静注終了後に本剤を側管から静脈内投与したと|
|ころ、10分後に呼吸困難、過呼吸、浮腫、嘔吐、チアノーゼが発現した。その後|
|にラナトシドC、アミノフィリン、ニトログリセリン等の投与により呼吸困難は回|
|復した。                                 |
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(2)安全対策
 現在までに報告された症例数は少ないものの、4例中3例はフロセミドの単独の関
与が疑われる症例で、しかも投与直後に症状が発現しているものが2例あること、ま
た、再投与で症状が再現している症例もあること等から判断して、フロセミドとショ
ック等の発現との関係は否定できない。フロセミドは降圧利尿剤として以前から広く
用いられている薬剤であるが、フロセミドの投与に際しては、ショック及びアナフィ
ラキシー様症状が発現する可能性があることに十分留意し、異常が認められた場合に
は適切な処置を行う必要がある。また、今回報告のあった4例はいずれも注射剤の使
用例であるが、経口剤においても同様の注意が必要と考えられる。
 今般、「使用上の注意」に新たにショック及びアナフィラキシー様症状があらわれ
ることがある旨を記載し、注意を喚起することとした。
 
《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》
<フロセミド>
4.副作用
 (1)ショック:まれにショックを起こすことがあるので、観察を十分に行い、異
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   常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
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 (4)過敏症:まれにアナフィラキシー様症状、発疹、蕁麻疹、発赤等の過敏症状
           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   又は光線過敏症があらわれることがあるので、このような症状があらわれた場
   合には投与を中止すること。
 
<参考文献>
1)Hansbrough,J.R.,et al.:J.Allergy Clin. Immunol.,80:538(1987)