3.ニトログリセリン噴霧剤の過量使用による意識喪失
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|成分名             |該当商品名              |
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|ニトログリセリン        |ミオコールスプレー(トーアエイヨー) |
|                |ニトロシンパフ(ローヌ・プーラン・ロ)|
|                |               ーラー)|
|                |ニトロペン(日本化薬)        |
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|薬効分類等:冠動脈拡張剤                        |
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|効能効果:(ミオコールスプレーの場合)                 |
|        狭心症発作の寛解                    |
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(1)症例の紹介
 ニトログリセリン等の硝酸剤の歴史は古く、19世紀後半に狭心症患者に用いられ
て以来、現在まで狭心症発作の寛解、予防に広く使用されている。その作用機序は平
滑筋の弛緩作用による冠動脈拡張及び末梢血管拡張によって心負荷を軽減させるため
といわれている。投与方法としては、経口投与をはじめ静脈内投与等があるが、とく
に狭心症発作には舌下錠による投与が第一選択で用いられる。この投与法は作用時間
が短いが、速効性であり、狭心症発作の寛解に有効である。さらに舌下錠に続く剤形
として平成3年(1991年)10月に、発作時により速やかに投与できる噴霧剤が
承認された。用法・用量は発作時に1回舌下噴霧、効果不十分な場合に1噴霧追加と
なっている。
 これまでにニトログリセリン噴霧剤の過量使用により意識喪失をきたしたとする症
例が3例報告されている。報告された症例の性別は、いずれも男性で、年齢は68〜
78歳、ニトログリセリンを処方されてから初回の使用で発現した例が2例で、もう
1例は約4ヵ月の使用経験があった。使用量は3〜6噴霧といずれも過量使用例であ
った。
 報告された症例を紹介する(表3)。
 
表3 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         69                     |
|   使用理由       狭心症                    |
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|1回投与量・投与回数:0.9mg(3回噴霧)2回             |
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|副作用−経過及び処置                           |
|狭心症、糖尿病で外来通院している患者に対し、胸痛発作時にニトログリセリン噴|
|霧剤を使用するように指導していた。処方後初めての胸痛に対し連続して3回噴霧|
|した。しかし、胸痛が完全に消失しないため、約30分後にさらに連続して3回噴|
|霧したところ失神・意識喪失し、入院となった。               |
|救急車で搬入されたときには意識は回復し、収縮期血圧80〜90mmHg、拡張|
|期血圧測定不能、心拍数110〜120/分、心房細動あり、また軽度の貧血状態|
|であった(ヘモグロビン10.7g/dl、ヘマトクリット33.4%)。ニトロ|
|グリセリン、塩酸ドパミン等の注射を行い、胸痛は消失した。         |
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|No.2                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         78                     |
|   使用理由       狭心症                    |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1回投与量・投与回数:0.9mg(3回噴霧)               |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|狭心痛(背部痛)を有する患者に対しニトログリセリン舌下錠の投与を行っていた|
|が、効果発現までやや時間がかかるようなので噴霧剤を処方した。その後軽い飲酒|
|状態で背部痛が発現したため、連続して3回噴霧したところ、数分後に失神し、救|
|急車で入院となった。                           |
|病院収容時の血圧は120/62mmHg、心拍数62/分であり、顔面潮紅、手|
|指のしびれがあったが、回復は早く、安静後、その日のうちに症状は回復した。 |
|その後、噴霧剤の投与を中止し、舌下錠を投与しているが、とくに異常は認められ|
|ていない。                                |
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|併用薬:塩酸ジルチアゼム、ニコランジル                  |
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|No.3                             企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         68                     |
|   使用理由       狭心症                    |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1回投与量・投与回数:0.9mg(3回噴霧)               |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|狭心症(安静時胸部圧迫感)を有する患者に対しニトログリセリン噴霧剤を処方 |
|し、週1回程度の発作に対して噴霧し発作は軽快していた。投与開始から約4ヵ月|
|後、自動車の運転中に胸部圧迫感が発現したため連続して3回噴霧したところ胸部|
|圧迫感はすぐに軽快した。そのまま運転を続けていたところ、約10分後に突然意|
|識喪失し、路肩に停車中の自動車に衝突した。衝突後約5分で意識は回復し、麻痺|
|や不整脈はみられなかった。衝突時の外傷等はなく精査目的のためそのまま入院と|
|なった。頭部CT、脳波、心エコー、24時間心電図、安静時心電図及び血液検査|
|では意識喪失の原因は不明であった。再投与試験を行ったところ、意識喪失は認め|
|なかったものの、血圧低下がみられたことから、血圧低下による意識喪失と判断し|
|た。                                   |
|服薬指導の徹底を図り噴霧剤の投与を継続し、内服薬を変更し(塩酸ジルチアゼム|
|60mg/日から塩酸ジルチアゼム徐放剤100mg/日)、その後発作回数が減|
|少し、意識喪失も発現していない。                     |
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|併用薬:塩酸ジルチアゼム                         |
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(2)安全対策
 今回報告された3例は、いずれも用法・用量を超えて使用した症例であったことか
ら、過量使用により急激な血圧低下が起こり意識喪失したものと考えられる。このよ
うな患者の自己判断による過量使用を防止するためには、医療関係者による患者への
服薬指導が重要である。すなわち、ニトログリセリン噴霧剤の投与にあたっては、患
者に対し投与目的、使用量、使用方法、過量使用の危険性等について、十分理解させ
ておく必要がある。とくに本剤のように狭心症発作に対し用いる薬剤は、他の薬剤と
異なり、発作の苦しさという特殊な状況下で患者の意思により使用される薬剤である
ため、過量使用に陥りやすいことが予想される。このため事前の患者指導がより重要
である。
 これまでにも「使用上の注意」には血圧低下、失神等についての記載を行っていた
が、過度に使用した場合、急激な血圧低下による意識喪失を起こすことがある旨記載
を行い、注意を喚起することとした。
 また、類薬の硝酸イソソルビド噴霧剤については、現在までに報告はないものの、
同様の症例が発現する可能性があるため、「使用上の注意」の改訂を行うこととした。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<ニトログリセリン噴霧剤、硝酸イソソルビド噴霧剤>
 一般的注意
  (1)過度に使用した場合、急激な血圧低下による意識喪失を起こすことがある
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    ので、用法・用量に十分注意すること。
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